【小説】純血統種に報復を 第10話 答え合わせ
第10話 答え合わせ
家に設置されている転移陣を通ってユグレイティの館に帰ると、水色の髪、青い瞳の女性がカミュスヤーナに抱き着いてくる。
「おかえりなさい。カミュスヤーナ」
「……今、帰った」
「カミュスヤーナ?」
カミュスヤーナの腕の中で、テラスティーネが心配そうに彼を見上げる。
大丈夫だ。今、彼女はここにいるではないか。
それでもテラスティーネを抱きしめる腕に力が入る。
「ああ、疲れた」
カミュスヤーナの後ろで、転移陣を通ってきたオクタヴィアンが、ジトっとした視線を彼に向ける。
「父上の予想が当たってしまいましたね。まったく面倒な」
オクタヴィアンの言葉に、テラスティーネは、カミュスヤーナたちの後ろから転移してきた面々を見つめる。
「私とエルネスティーネが召し上げられたのでしょうか?」
「そういうことだ。エンダーン。ちゃんと彼女らは役目を果たせるのだろうな?」
後半は、テラスティーネの後ろにいた金色の髪、金色の瞳の青年に向かって発した言葉だ。彼はそれを聞いて口の端を上げた。
「勿論です。父上。父上も私の腕はご存知でしょう?」
「そなたの腕を疑っているわけではない。だが、急ごしらえの替え玉だろう?」
「各地の魔王に売り渡してきた者と変わりませんから、大丈夫ですよ。」
彼の名はエンダーン。カミュスヤーナの双子の兄である。一度討伐した際に、その魔力と命の大部分を奪った関係で、彼は赤子になり、その後、成長したため、カミュスヤーナより見かけは年下に見える。また成長時にカミュスヤーナを父として育てられたため、カミュスヤーナのことを弟ではなく父と呼ぶ。
エンダーンは自分の意思で動く自動人形作成の第一人者だ。作成する自動人形は質が良く、容姿も調っているため、各地の魔王からの注文を受け、法外な金額で売り渡してきた。
実は、売り渡された自動人形は、創造主であるエンダーンと、その腹心の部下であるアメリアの命令は聞くように造られている。
今回の天仕の王族との謁見に連れていった、テラスティーネ、エルネスティーネ、ベルナデッタ、デルフィーナは、全てエンダーンが造った自動人形たちだ。
「だが、実在する人物や、しかも天仕を模したのは初めてだろう?」
「見本となる人物がここにいますし、天仕の羽については父上たちのを見させてもらっていますから、大丈夫でしょう。額の文様が出る魔道具も組み込んでありますし。それにしても……母上を連れていくとは、結婚していても子どもがいても関係ないのですね」
まぁ、魔人もあまり気にしませんが、これも王族の傲慢さというものでしょうか?と、エンダーンが言葉を続ける。
カミュスヤーナはエンダーンを見て息を吐く。その意見には同意するが、そなたが魔王の時であったら、似たようなことをしただろうとは口にしない。
「自動人形と分かっていても、母上とエルを渡すのは、結構辛かったです」
オクタヴィアンが口を挟んだ。そして、カミュスヤーナに、いいかげん母上を解放して差し上げては?と問いかける。
カミュスヤーナはしぶしぶテラスティーネから身を離した。テラスティーネはカミュスヤーナの背中を撫でる。
「ごめんなさい。カミュスヤーナ。辛い思いをさせてしまって」
「よい。私が言いだしたことだ。それで、オクタヴィアン」
カミュスヤーナの方を向いたオクタヴィアンに、彼はこの後の計画を伝える。
「そなたは、王の顔色の悪さを見たか?」
「はい。しかも天仕も魔人と同じように、盛時に成長が止まるのに、明らかに50代後半である見かけもおかしいです」
「何か病でも抱えていて、命を繋ぎ止める方法に、狩った『はぐれ』を使っている?」
「ですが、天仕に相手方の魔力や命を奪う能力はないのでは?」
「わからぬな。あちらには自動人形もいるから、もう少し情報を集めるか」
カミュスヤーナはオクタヴィアンの方を見やる。
「そなたとセラフィーナ嬢の婚約は成ったのだから、そなたはもう少し頻繁に彼女に会って情報を得るのだな。ただし、彼女には向こうに召し上げられた2人が、自動人形であることは内緒だ」
「彼女の顔色も悪かったので、心配ですが」
「そこはそなたが慰めてやれ。婚約者だろう?」
オクタヴィアンは、カミュスヤーナの言葉に頷いた。
「いまいち、女性の扱い方がよく分からないのです」
「そなた、婚約の話を持ち掛けておいて、それを言うか?」
「婚約話は、エルの発案だと言いましたよね?」
「それに乗ったのは、そなたであろう。これを言うのは2度目だ。そろそろ自分の行動に責任を持つのだな」
オクタヴィアンと話していると、当事者であるエルネスティーネが、こちらに歩いてきた。
「お兄様、うまく婚約と相成ったようで、良かったです」
悪びれもせず、その青い瞳を細めて彼女が笑った。
「それにしても、ベルナデッタとデルフィーナは連れて行ってもらえなかったのですね。お気にいられなかったようで残念です」
「……」
カミュスヤーナは、エルネスティーネをしげしげと眺めると、大きく息を吐いて、頭を抱えた。
「いつの間に入れ替わったんだ?」
「もしかして、こちらが自動人形ですか?」
2人を見つめるエルネスティーネは、こてんと首を傾げる。その様子だけ見ていると、オクタヴィアンは分からないが、カミュスヤーナが言うのであれば、何かしらの方法で入れ替わったのだろう。
「自分が次期王に同じ方法を取るような話を口にしてましたが、まさか実行に移すとは」
「兄には任せておけないと思ったのか?」
「それはそれで心外です」
「まぁ、あの見かけだから、手を出されることはないと思うが」
エルネスティーネは17歳だが、見た目が15歳くらいだ。次期王とは、年齢が少なくとも5歳以上は離れているように見える。
そこへテラスティーネが口を挟む。
「私が貴方と婚姻した時と同じくらいじゃない?」
「……だとしたら、駄目ではないですか?」
「……私はテラスティーネが15の頃には、手を出していない。エルなら適当にあしらうだろう」
なぜ、皆エルネスティーネなら何とかなるだろうと考えるのだろうか。彼女の普段の行動から推察するのだろうか。まぁ、彼女のことだから、何か情報を得たら、こちらに知らせてくるだろう。奥でベルナデッタやデルフィーナと共にいるエンダーンも、呆れた様子でこちらを見つめている。
「まぁ、母上は連れていかれるだろうと思っていましたが、案の定でしたね」
「なぜ、皆同じことを言うのかしら?ベルナデッタやデルフィーナも綺麗なのに」
オクタヴィアンの言葉に、テラスティーネが不思議そうに問いかける。
カミュスヤーナ、オクタヴィアンは共に、テラスティーネを見つめると、大きく息を吐く。それを見て、テラスティーネは、何かおかしなことでも言ったかしら?と首を傾げる。
エンダーンが、ベルナデッタとデルフィーナを前にして、少し派手すぎたかな。と一人反省会をしていた。ベルナデッタはエンダーンを、デルフィーナはアメリアを模して作成している。2人とも容姿は整ったほうで、向き合うと冷たい感じがあるから、警戒されたのかもしれない。そんな皆をエルネスティーネの自動人形が、ニコニコと笑いながら見つめている。
まさに混沌とした状態だった。
第11話に続く