【小説】恋愛なんてよく分からない(仮) 第2話 魔王ディートヘルム
第2話 魔王ディートヘルム
「魔王ディートヘルムについて、お聞かせ願いたい」
「魔王ディートヘルムは、治世は20年くらいか。私とそう変わらない。深紅の髪に、黄緑色の瞳をしている。アンガーミュラーに属する魔人の特徴としては、耳が大きいことだな。見かけは我々よりは幼い。人間に換算すると15歳くらいか?」
「性格は?」
「その見かけを利用して、特に齢が上の者に上手に取り入る」
「身近にはいない型か」
魔人の住む地には、齢が下の者が多くはない。いたとしても、中身もそれと同様だったりするので、恐るるに足りぬ。が、見かけだけが幼いとなると、厄介だ。幼いだけで相手の油断を誘うことが容易だからだ。
「そして、術の中では魅了や混乱が得意だ」
「また、厄介な」
カミュスヤーナがゲーアハルトに目を向けると、彼は気まずそうに視線をそらした。
「一体、ディートヘルムに何を言ったのですか?ゲーアハルト殿?」
「テラスティーネは、魔人にはいない型であると。見目も麗しい。一見大人しそうに見えるが、芯が通った女性であると」
「それは、伴侶として、お褒めに預かり光栄ですと、お答えすればよろしいですか?」
カミュスヤーナが笑みを向けると、ゲーアハルトはさらに顔を引きつらせた。
「余計なことを言ったとは、認識している」
本当に余計なことを。カミュスヤーナは、ゲーアハルトに分からぬように、頭の中で吐き捨てた。
「で、私にも興味があるというのは、どういった意味でしょう?」
「彼は、そなたが人間の住む地で育ったという点や、振る舞いが魔王らしくないというところが、変わっていて面白いと」
「自分が魔人として異端であることは存じています」
何だか、エンダーンを更に面倒にした相手に思えるのは気のせいだろうか。
「まぁ、実際に会ってみれば、よくわかるのではないか?既にテラスティーネに接触しているかもしれないが」
「分かりました。では、私はテラスティーネの元に赴くことにします。情報提供感謝します。が……」
こちらを見たゲーアハルトの碧色の瞳を見つめて、カミュスヤーナは口の端をあげて、殊更艶やかに見えるように笑ってみせる。
「このようなことを二度とされませぬよう」
「……善処する」
そこは、しないと言わないのだな。カミュスヤーナは、彼から視線をそらして、護衛騎士のセンシンティアに、ゲーアハルトを門まで見送るよう指示を出した。
◇◇◇◇
宰相アシンメトリコと成長したエンダーンに、ユグレイティの治世を任せ、カミュスヤーナは、転移陣で、人間の住む地エステンダッシュ領の自身の工房に移動した。
工房の扉を開けるのと、血相を変えたフォルネスが、摂政役の執務室に入ってくるのが、一緒になる。
「どうした?フォルネス。そのように慌てる等珍しい」
「ああ、カミュスヤーナ様。そちらに連絡を取ろうと思っていたのです。ちょうどお帰りになられてよかったです」
カミュスヤーナに対して答えたのは、彼が不在の時に、摂政役についてくれているフォルネスだ。なお、摂政役とは、領主の補佐に当たる役職を意味する。
クリーム色の髪に、グレーの瞳。カミュスヤーナよりも若干年上だが、カミュスヤーナは数年前から見た目が変わっていないので、2人並んでいたら、かなり年が離れているように見えるだろう。
普段は冷静で落ち着いたところのあるフォルネスが、このように慌てているのは、本人に告げたように珍しい。
「テラスティーネ様が」
「テラスティーネがどうかしたか?」
「カミュスヤーナ様と離縁なさりたいと、アルスカイン様に申されまして」
「は?」
アルスカインはカミュスヤーナの義弟で、現在はこのエステンダッシュ領の領主だ。だから、テラスティーネが彼に申し出たのは、ある意味正しい。正しいが。
「テラスティーネはこの館に来ているのか?」
「はい。あの、それが」
「まぁ、落ち着いて話せ。フォルネス」
飲み物でも与えたいが、この執務室には用意されていない。フォルネスは大きく息をして、自分を落ち着かせようとしている。
「テラスティーネ様は、一人の少年を連れていまして。カミュスヤーナ様と離縁して、彼と婚姻したいと申されているのです」
「……」
フォルネスが言っている少年に心当たりがあり過ぎて、二の句が継げぬ。
「カミュスヤーナ様?」
「ひとまずテラスティーネに会う。案内せよ」
カミュスヤーナはフォルネスに向かって告げた。
第3話に続く