【漫画原作】君をなくした夢喰い獏夜【悪堕ち男子×戦う男子】 第2話
第2話
■現実の世界:病室
朝早くに病院へ訪れた朔夜。
手にしたレジ袋には林檎が入っている。
朔夜「ん?」
病院内は職員が忙しく駆け回り、患者がそわそわとしている。
朔夜「何があったんだ?」
朔夜は首を傾げながら陽太のいるフロアに足を踏み入れようとする。
疲弊した表情の職員に阻まれた。
職員「すみません、本日このフロアの面会は全面休止させて頂く予定になっていまして…」
朔夜は不満そうに告げる。
朔夜「せめて家族の状態が知りたいんですが」
職員「ああ、そうですよね。すみません。入院されている方のお名前は?」
朔夜「朝比奈 陽太です」
職員は顔色を変えて焦った。
予想外の反応に朔夜は不思議そうに声を上げた。
朔夜「え? なん…」
職員「朝比奈 陽太さんのご家族…? っ! お、お待ちしていました。こちらへお願いします…!」
急ぎ足の職員に誘導される朔夜。
朔夜不安を隠せない表情でレジ袋を持ったまま後を追う。
朔夜(…一体なんなんだ? 兄貴に何があったのか⁉)
~場面転換~
■現実の世界:診察室
職員と対面で座った朔夜は持っていたレジ袋を落とす。
朔夜「ゆくえ、ふめい?」
レジ袋から飛び出した林檎がどこかへ転がっていく。
朔夜が呆然とした表情で呟いた。
朔夜「兄貴が? 行方不明に?」
申し訳なさそうに職員が呟く。
職員「そうです」
椅子から勢いよく立ち上がって職員を問い詰める朔夜。
朔夜「そ、そんなバカな! 行方不明なのは兄で間違いないんですか? 別の人じゃないんですか⁉」
職員「はい。必死に探しておりましたが、朝比奈 陽太さんの姿が、早朝から当院内で確認できていません…」
俯き、おいて行かれてしまったような悲しみを込めた表情でぽつりと呟く朔夜。
朔夜「そんな…どうして兄貴が…?」
朔夜の顔を眺めて職員が続けた。
職員「…朝比奈さんは自力で歩くことは困難な状況です」
朔夜が顔を勢いよく上げて表情をこわばらせる。
朔夜「…!」
職員「ですから、誰かの力を借りて三階の病室から移動したものと当院は考えていましたが…」
朔夜「まさか誘拐されたんじゃ…⁉」
職員「鍵の施錠に異常は見られず、院内外共に監視カメラの映像に不審な点はありません」
朔夜は両の拳を握り締める。
朔夜「じゃあ一体ッ! 兄は、どこに行ったと言うんですか…!」
職員「詳しい調査は警察が到着してからですが、我々にも分かりません…」
職員が気の毒そうに言う。
職員「まるで、神隠しのようで…我々も困惑しています」
職員が診察室から出ていく。
呆然としながら見送る朔夜。
朔夜(神隠しなんか…! 信じられるわけがないだろ!)
部屋の中央に残された朔夜と、隅に追いやられた林檎を悲壮感を漂わせるように描く。
朔夜(兄貴が俺のことを置いていなくなる訳がない…!)
■現実の世界:病室
病室を覗き込む朔夜。
朔夜(最近の兄貴は、消えてしまいそうで怖かった…)
陽太が外を儚げに見つめる姿を思い出し、落胆する朔夜。
朔夜(だからと言って、こんなに簡単にいなくなるなんて、思うわけがないだろ…!)
■現実の世界:家までの道程
朔夜は眉をしかめて病院から飛び出した。
朔夜(…いや、まだだ! まだ家に居るかもしれない‼ 兄貴が俺を放ってどこかに行くなんて、あり得ないだろ!)
朔夜は走りながらスマホに電話をする。
何度もコールを待っても相手は出ない。
朔夜「ちっ」
電話を切り、素早くメッセージを打ち込み、再び駆け出した。
■現実の世界:アパートの自宅
アパートに辿り着く。
朔夜が希望を求めるような必死な眼差しで勢いよくドアを開ける。
朔夜「兄貴‼」
ガランとしたリビングには誰もいない。
朔夜「…っ!」
続けて、陽太の部屋のドアを開ける。
朔夜「兄貴! 帰ってきてるんだろ⁉」
落ち着いて清楚感のある部屋にも、誰もいない。
朔夜「…っ、嘘だ!」
更にメッセージを入れたスマホを再確認する。
既読は付かないままだった。
朔夜は部屋の扉を右手の拳で殴った。
朔夜「くそっ!」
朔夜「どこに行ったんだよ…兄貴! 今日、一緒に飯食おうって約束したじゃないか…!」
置いて行かれたような悲しさを抱えながら、しかし泣くのを我慢した表情で呟く。
朔夜「兄貴は俺との約束破るのかよ…⁉」
~場面転換~
■夢の世界:河原のキャンプ場
ふらふらと歩く朔夜。
朔夜「兄貴を探さないと…」
幸せそうな父母と子供二人の四人家族が釣りをしている光景を、通り過ぎようとする朔夜。
朔夜「誰かいる…?」
家族は朔夜の小学生時代の光景。年齢も小学生相応に描写。
通り過ぎる前に気付き、第三者の視点で見る朔夜。
朔夜「! 親父とお袋だ…!」
朔夜「兄貴も…!」
子供二人はそれぞれ別に釣り糸を垂らし、父は二人に指示をし、母はハラハラと子供二人の様子を見ている。
朔夜は四人の家族の元へと駆け出しそうになるが、足を止めた。
朔夜「っ。これは…夢か?」
朔夜は悲しそうな表情で四人の様子を見つめる。
少年朔夜の釣竿に獲物がかかる。
釣り上げようとするがうまくいかない。
少年陽太「がんばって、朔夜!」
少年朔夜「うぐぐ…! あと少しなのに!」
応援していた少年陽太が助っ人に入り、二人で釣竿を一緒に引っ張る。
そして二人は魚を釣り上げることが出来た。
少年朔夜「やったやった! 見て見て! でっかいの釣れたんだ!」
釣り上げた大きな魚を家族に見せびらかす少年朔夜に、家族が拍手して微笑む。
少年陽太「すごいね、朔夜!」
どこか羨ましそうに少年朔夜を眺める少年陽太。
幼少の頃の様子を眺めながら朔夜は眉をしかめる。
朔夜〈違う、俺が凄いんじゃない!〉
青年朔夜の思いと被るように、少年朔夜のあどけない笑顔の描写。
少年朔夜「俺がすごいんじゃないよ」
少年朔夜「兄貴がいたから釣れたんだからな!」
少年陽太がキョトンとした顔をする。
少年陽太「え? そうかな?」
少年朔夜「そうだよ! だからすごいのは兄貴なんだ!」
肯定されて嬉しそうな笑顔をする陽太。
少年陽太「そうでもないけど…ありがとう」
少年陽太の笑顔を眺めて、青年朔夜がほっとする。
今度はビニールシートでサンドイッチを食べる家族の光景に変化。
青年朔夜がそれを眺めているコマに、一割ほどの亀裂が入る描写。
ヨウが朔夜の夢に侵入した合図でおどろおどろしく。
朔夜「懐かしいな…。もう、親父もお袋もいないんだ。俺以外…いなくなっちまった…」
レタスを引き抜こうとする少年朔夜。それを咎める少年陽太。
少年朔夜「げっ、これレタス入ってるじゃん」
少年陽太「ちゃんと食べないとだめだよ、朔夜?」
過去の光景を見つめて、消沈した様子で力なく呟く朔夜。
朔夜「いや、兄貴はまだきっとどこかにいるんだ。だから…探さないと」
朔夜「兄貴、早く戻って来いよ…」
朔夜の背後から声が聞こえる。
ヨウ「ああ、美味しそうだね」
聞き慣れた陽太の声に驚き、弾けるように振り向く朔夜。
朔夜「兄貴っ⁉」
ヨウが朔夜の背中越しに、笑顔で彼の夢を眺めていた。
ヨウの姿が陽太に似ている(同一人物)ため、朔夜は目を見開いて呟く。
朔夜「兄貴…なのか?」
ヨウに駆け寄り、手を伸ばそうとする朔夜。
朔夜「さがしたん…」
ヨウはニコニコと朔夜に近付き、言葉を放つ。
ヨウ「きみは…」
きみと呼ばれた朔夜の顔が強張る。
朔夜「…⁉」
ヨウ「とても好い夢を見るね。幸せいっぱいで楽しそうな夢。ぼく、君の夢が好きだな」
風でヨウの髪が靡き、穴だらけになった耳が露出する。
ヨウ「だって、とても美味しそうだからね?」
八重歯を見せて、子どもが強請るように微笑むヨウ。
ヨウ「だからその夢を、ぼくにちょうだい?」
(第2話・了/第3話へ続く)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?