【事案】子供に声をかけられて挙動不審なる男性
私は普段、あんまり子供に興味がありません。
外で見かけても風景の一部として映るどころか、映った瞬間、じっと見つめるだけでも変質者に思われかねないと思い、すぐに目をそらします。
よく同じように子供に興味がないと言っている人がいざ自分の子供ができたら溺愛するという話を聞きますが、私は子供がいないのでその気持ちが分かりません。
そんなわけで、とりわけ休日の住宅街などは子供がお庭などで遊んでいるので注意が必要です。しかしどうしても用事があり住宅街を歩くことがありました。
空を見たり、物事を考えたり、早くこのゾーンから脱しないとと考えていたところ、突如として、
「今ねえ、お花、植え替えてるの!」
と子供の絶叫が聞こえてきました。最初は、LINEか何かでビデオ通話でも
しているのかと思いましたが、その声の方に目を向けると、しっかり私を直視していました。
パニックになりました。よく、“子供に「可愛いね」と声をかけて立ち去る不審な男”“登下校中にニヤニヤと子供を見つめる不審な男”といった、“事案”が地域ニュースなどで取り上げられている時代に、逆に子供から声掛けなんて……!
これで無視したら可哀そうだし、なんか応答したほうがいいよな……と思い、
「そうなんだ! 頑張ってね~!」
と精一杯の声量で、応援をしました。
それで終わればよかったのですが、人懐っこいのかその4歳? 5歳? 子供が言葉を話すようになるのがいつからかも不明……の坊やは、
「う~んとねえ、三……二週間くらい、かかると、思うよ!」
とまだ会話を続行するではありませんか! 私は、
「そうなんだ、頑張ってね!」
と同じことを繰り返して、そそくさとその場から立ち去りました。いったいどっちが不審者なのでしょう。
後方からは、お母さんと思われるあたの「すみません」という平謝りが聞こえてきました。
“無邪気”という言葉がすぐに浮かびました。
誰に対しても、警戒も、疑いも、計算も打算もない、誰をも平等に照らし出す明かりのようなその坊やに、今まで感じたことのない(いや、たぶんあるだろうけれど、だいぶイニシエのことだと思う)、なんとも言いようのない温かい気持ちになったのです。
それから何日か経っても“「頑張ってね」などと声をかけ立ち去る不審な男”という見出しのニュースがなく、ほっとしました。