肩リブ一体型両V
1920~30年代には目を疑うような興味深いディテールを持ったスウェットが存在します。
そんなスウェットをそれなりに見てきたつもりです。
でも、稀に信じられないディテールを持った一着に出会うことがあるのがこのジャンルをやめられない理由の一つでもあり、楽しみでもあります。
今回紹介する一着もそれに当てはまります。
パッと見は古着好きな人には所謂、
『肩リブ付き両V』に見えると思います。
見慣れたディテールでしょうか?
でも、それはウールスウェットで見かけるディテールなんです。
このディテールのウールスウェットを見付けるのはそれほど難しい事ではありません。
ネットで画像検索すればすぐにヒットするでしょう。
しかしコットンスウェットで見かけたことがあるという人は筋金入りの古着好きか、
または本気でスウェットを追いかけている人だと思います。
これはコットンスウェットでは1920年代後半の一時期しか生産されていないはずのディテール。
こちらは肩リブ両Vです。
1926~1927年のELLIOTTのカタログに掲載されています。
ネックリブ、ガゼット、肩リブ、フライスが全てセパレート(5つ)になっています。
これももちろん珍しく、恐ろしく出ません。
そしてこちら。
しかし、これはそれら全てが一つのパーツで構成されています。
肩リブ、ガゼット、ネックリブ、全て一枚の生地で作られ一体となっています。
1920年代半ばに生まれたこのディテール。
伸縮性の乏しいウールスウェットの可動性を助けるために生まれたディテールでした。
これは本来、伸縮性のあるコットンスウェットには必要のないディテールです。
しかし1920年代後半はコットンスウェットが生まれてまだ数年。ウールとコットンで共通のディテールが共存していた頃です。
ちなみに、
ウール素材の肩リブ一体型のスウェット指して
『両Vスウェットの原型』
と言われることがあります。
それは違います。
コットンの両Vスウェットはこの頃は既に量産されています。
肩リブ一体型のディテールは伸縮性の乏しいウールスウェットの為に考案された作りだと考えています。
SPALDING 1929年カタログのウールスウェットの説明にこのような文章があります。
腕回りの動き易さを強調した説明文。
そして、SPALDINGはこの肩リブ一体型のパテントを取得していたようです。
(※このパテントナンバー、または特許申請者を探しています。知っている方がいたら教えてください!)
このディテールを持つウールスウェットは全てSPALDING製?
そうは思いません。
SPALDING以外のタグの付いたこの仕様のウールスウェットはたくさんあります。
それらをSPALDINGがOEMで作っていた可能性もありますが、
作りが少し違うものも多く、私は他メーカーも作っていたのでは?と考えています。
パテント取得では制限ができなかったか、
またはパテント取得前に作られた可能性も考えられます。
更に、遠く離れたヨーロッパのヴィンテージスウェットでこの仕様を見たことがあります。
それらを考慮すると
『このディテール全てがSPALDING』
とは言い切れません。
そして、それらのウールとは逆にこのコットン製はSPALDINGが制作した可能性もあると考えています。
実際のところはまだまだ資料不足で断言できないことも多いのでこれ以上は言えませんが、、、
引き続き調べていきたいと思います。
ちなみにこのスウェット。
スウェットパンツと短パンの三点セットで見付かり、そのまま私の元に回ってきました。
『CHARLES C. CAR COMPANY』製
この会社は、1898年にWashington SenatorsにメジャーデビューしたCHARLES C.CARRが1910年代にインディアナポリスで創立した sporting goodsの販売会社です。
このタグの付くコットンスウェットは1920年代製の数着しか見たことがありません。
創立者が1932年に亡くなっているので会社自体が無くなったか、または事業形態が変わった可能性もあり大きく関係していると思っています。
そして、このスウェットパンツには1927~1928年頃のHOOKLESSジッパーが付きます。
このため、スウェットの生産時期も特定できたのは大きい発見でした。
しかしこの肩リブ一体型両V、
見付けるまでは実在することを想像すらしていなかった一着です。
近年、ウールスウェットのこのディテールを使いコットンスウェットに置き換えてレプリカを作っているケースも見かけます。
それらは
『ウールスウェットのディテールをコットンスウェットにアップデートして~』
のような説明をされていますが、
コットンも実在したのです。
今回はこの辺で。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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