膝枕外伝 『コックkneeさん』


はじめに 

こちらは、脚本家・今井雅子先生の小説「膝枕」の2次創作です。初めての怪談? オカルト?に挑戦します。朗読というより語りに近くなると思うので、語尾など細かいところはご自由に変えてください。

今井先生のエピローグ
それからの膝枕(twitterの画像をご覧ください)

二次創作まとめ、YouTube、Googleカレンダーなど

本編

みなさんは「コックリさん」をご存知でしょうか。十円玉が動く、あれです。地域によっては「エンゼルさん」とか「キラキラさま」など、いろいろな名前があったそうです。

これは知り合いから聞いた話なんですが、彼女の小学校でもそういう遊びが流行っていたそうです。名前を「コックkneeニーさん」と言いました。

やり方はコックリさんとほとんど同じです。

まず、部屋の西か北の窓を開けておきます。

白い紙の上真ん中に鳥居を描き、その左右に「はい」と「いいえ」を書きます。その下に数字・五十音を書きます。

十円玉1枚の上に一円玉3枚をセロハンテープで固定して、合計13円にします。それを鳥居の位置に置き、参加者全員で人差し指を束の上に乗せます。

全員で「コックkneeニーさん、コックkneeニーさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」とコックkneeニーさんに語りかけます。成功した場合、動かさなくても硬貨がひとりでに「はい」へと向かいます。動かなければ、何度も語りかけます。

コックkneeニーさんに質問をすると、硬貨が文字の場所に動いて回答してくれます。質問に回答してもらうごとに「鳥居の位置までお戻りください」と唱え、鳥居に戻ったのを確認してから次の質問をします。

終わるときは、「コックkneeニーさん、コックkneeニーさん、どうぞお戻り下さい」と唱えると、硬貨が「はい」の位置に行き鳥居まで戻ります。鳥居の位置まで戻ったのを確認したら、「コックkneeニーさん、コックkneeニーさん、ありがとうございまひざ。お離れください」とお礼を言います。

「コックkneeニーさん」を行う時には様々な注意があります。第1に、手順を守ること。それから、1人で行わないこと。「コックkneeニーさん」のことは聞かないこと。途中で手を離さないこと。紙はすぐに焼却すること。硬貨は参加者で分けて13日以内に使うこと。

その頃、謎の体調不良に襲われた生徒が全国での話を聞いてみると「コックkneeニーさん」をしていたということが多かったことから、教師たちからは禁止令が出ていました。それでも、好奇心旺盛な子どもたちが素直に聞くわけがありません。彼女たちもよく言えば好奇心旺盛、見方によっては向こう見ずな小学生の1人でした。

これは、今からだいたい40年前、彼女が6年生の時の話です。

その日も、彼女は同じクラスの友人3人と放課後の教室で「コックkneeニーさん」をしていました。名前をHさん、Mさん、Kさんとしましょう。

その場にいないクラスメイトの好きな人を聞いたり、ある先生がカツラをつけていることを明かしたり、他愛のないことを聞いていたそうです。

下校のチャイムが鳴りました。

事件が起きたのは、お礼を言って終わろうかとしていたときのことです。窓から何か黒いものがふわふわと入ってきました。よく見ると、それは蛾でした。どこにでもいる、ありふれた蛾でした。そしてKさんの周りを、まるでKさんを踊りに誘うかのように舞い始めました。

ところが、Kさんは虫が大の苦手だったのです。Kさんの周りを飛び回る蛾を、Kさんは必死で振り払いました。その時、13円の束から指を離してしまったのです。そう、離してはいけないと言われている指をです。

突然、Kさんが立ち上がりました。そして呪文のようなものを唱えながら教室を駆け出て行きました。残されたHさん、Mさんと彼女は恐怖のあまり身動きが取れませんでした。が、これは危険だということが本能的にわかったのでしょう。「ありがとうございまひざ」とお礼を言って、正しいやり方で終えました。

「Kちゃんが出ていくときは確かに上履きの足音がしたんです。でもそのうち足を引きずるような音になって、最後は聞こえなくなりました」と彼女は言います。

3人はギリギリまで学校中を探しました。空き教室、トイレ、倉庫……。しかしKさんは見つかりませんでした。教室に戻ると、Kさんのランドセルが無くなっていました。3人はKさんがもう帰ったのだろうと思い、下校しました。自分たちの心配をよそに帰ったKさんに軽い憤りを覚えつつ、しかしKさんの身に起きたことは理解の範疇を超えていました。

その夜、3人は一睡もできなかったそうです。

翌朝、いくら待ってもKさんが集合場所に来ません。仕方がないので3人だけで登校することにしました。全員が黙ったまま通学路を進みます。心の中では昨日の出来事を反芻していたことでしょう。

教室に入ったと同時にチャイムが鳴りました。

ところが、いつもはチャイムと同時に入ってくる担任の先生がなかなか来ません。クラスメイトたちはKさんが来ないことにも不審に思っていました。

教室のざわつきが最高潮に達したかというまさにそのとき、慌てた様子で教室に入って来た人物がいました。担任でした。教壇の前に立つと、呼吸を整え、冷静を取り繕う声で言いました。

「Kさんですが、ご家庭の都合で転校することになりました」

クラスに動揺が走ったのは言うまでもありません。生徒の一人が「どこに引っ越したんですか?」と聞きましたが、先生もはっきりしたことはわかっていないようでした。

その日の休み時間、仲の良かった彼女たちは、何か知らないかと事情を聞かれました。しかし、「コックkneeニーさん」の話をする者は誰もいませんでした。

放課後、3人はKさんの家に行ってみました。表札はそのままでしたが、人の気配は感じられませんでした。チャイムを押しても反応はありません。中に入ることはできませんでしたが、生活の痕跡を残したまま霧のように消えてしまった印象を受けたと言います。

それ以来、彼女たちは「コックkneeニーさん」をしなくなったそうです。全国的にもオカルトブームが冷めていく頃でした。

Kさん家族の行方は、今でもわかっていません。クラスメイトの間でも、何となく触れてはいけない話題になっているそうです。

あとがき

お読みいただき、ありがとうございました。

僕自身はコックリさんをしたことも、している現場を見たこともありません。昔そういう遊びが流行ったというだけの印象です。おまじない的なのはまだありましたけどね。あ、『繰繰れ!コックリさん』は可愛くて好きです。

なぜコックリさんを題材にしたかというと、楓さんの『置き屋膝枕』に出てきたからです。

“その頃は、コックリさんやエンゼルさんが 流行っていて、今日もやろう!という話に なり、今日は何聞いてみる?と言ったら 「あの置き屋の"膝枕"のことに ついて聞いてみようよ!」ということに なった。”

楓 作 「置き屋膝枕」

この作品はClubhouseでは何度も聞いていました。2024年6月30日に開催された「なよたけでひざまくら」で初めてリアルで聞き、「コックリさん」→「コックkneeさん」を連想したんです。それまで気に留めていなかったことが引っかかったのは、リアルの力なのでしょうか。

ということは、着想から公開までちょうど1ヶ月なんですね。なんとなく誕生日に公開できたらとは思っていましたが。

なお、続編『帰ってきたコックkneeさん(仮)』を執筆中です。乞うご期待。

2024年7月30日 おもにゃんさんに膝開きいただきました。ありがとうございまひざ。

同 日 中原敦子さんが『置き屋膝枕』と一緒に読んでくださいました。

2024年7月31日 yukaさんが読んでくださいました。


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