ショートショート小説「差別ってなぁに?」
「ねぇパパ、差別ってどういう事?」
それはいつもの如く、娘にとってなんら大した事ではない、純粋な、本当にどうでもいい質問でしかなかったのだろう。
言うなれば大人が「アルミホイルを噛むと葉が痛いのなんで?」
と聞いたものの、言ってしまえばどうでもいいような、どうせ調べれば解ってしまうが、それすらも興味はないが、何気なく会話の流れで聞いてしまった。
そんなレベルの質問だった。
当然そんな事は父も解っていた。
娘が大人の会話の中でたまたま気になった、聞いたことはあるがはっきりとした意味を知らない単語を聞いた位の事だと言う事は。
十分にわかっていたのだ。
父は徐に娘がいつもダラダラ見ているタブレット端末を取り上げ「お前には使わせない!」怒鳴った。
「え!なんで!? ちゃんと言う事聞くから!見る時間も決めるから!」
「駄目だ」
娘はまだ子供だ。
いくら母親に時間を決めて見なさいと言われても、それを完全に我慢出来る訳ではないし、楽しければ夢中になって見続ける。
大人ならいい。
大人はその行動がもたらす結果を全て知った上でそうしているからだ。
タバコも、酒も、遊びも、その全ての行動の結果何がもたらされ、どんな結末になってもその結果に責任を持てる。
もしくは諦めがついている。
だが子供はそれを知らない。
タブレット端末を見続けた結果、目が悪くなり、メガネになり、モテなくなる可能性も。
勉強をしなくなり、学歴もなく、職もなく、変な男の家を取っ替え引っ替えするような人生になる可能性も。
何も知らないままその行動を取っている事が問題だ。
「と言う訳で、駄目だ」
父の思考は思いの丈が溢れ、全て言葉となって娘の脳裏に響いていた。
「全部わかったから。タブレット見て目が悪くなったら私のせい、そうならないように注意もするから!」
「確かにそこまでわかってるなら、それはもうお前の自由だ。だが駄目だ」
「なんでよ!自由じゃないじゃない!」
「自由と言いながら駄目だと言う結果が決まっている。これが差別だ、わかったか?」
ポカンとする娘の眼を真剣に見つめながら、父は後頭部を妻にひっぱたかれた。
了