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まちのコミュニケーションジム②−2「疑惑のレッスン」

次の一週間、由成は正倫から宿題を課された。

『一週間、職場を観察して、上司の不安・部下の不満を見つけてください』

夜遅くなった帰り道は、メモを残したスマホの画面だけが明るく見えた。

職場なら、いつも見てる。
同僚がストレスを溜めているのもわかる。
だからこのジムに通って問題を解決しようとしてる。

今さら観察したところで、何がわかるというのだろう?

「上司の不安」といっても、指示する側に不安なんてあるのだろうか。
初めてのレッスンは、来た時よりも帰る時の方が足取りが重かった。
電車に乗るとすぐに、由成は今日のノートを見直した。

今回のレッスンで由成が教わった理屈はこうだ。

・知識を先に得て学んだ気になると、そこで満足して行動に結びつきにくい
・逆に、まず経験を得て、そこに知識を結びつける方が、学習効果が高い
・ただ、経験といっても習慣の力は強く、新しいことを始めるのは難しい
・だから、まずは今の生活ですでに取り組んでいることから始める
・第一歩は、今の職場で見えてるものを、もっと深く観察すること
・よく見ると、表面に見えているものと真実は違うということがある
・次のレッスンまでに観察から得る情報を増やし、学習効果を高める

何度文字を読み返しても、由成はあまり納得できていなかった。
でも、文字には表れない正倫のフォローが丁寧だったから、信じてみることにした。

「スポーツも、始めのうちは体の動かし方ってわからないじゃないですか。
コミュニケーションも同じです。決してその人に才能やセンスがないわけではありません。ただ、やり方を知らないだけです

正倫の言葉を思い出し、家に帰り着く頃には少し気持ちが落ち着いてきた。

メモやノートを繰り返し読み返して、気付いたことがあった

そういえば、人間関係について「練習」をした経験はなかった。
本を読んで勉強はできても、実際の人間関係はそんなに単純じゃない。
リアルなコミュニケーションには、いつも本番しかなかった。
失敗すれば嫌われたり勘違いされて、ひどい時はそれで縁が切れてしまう。
よほど相手が優しくない限り、人間関係の修復は難しかった。

みんなで仕事2

「やり方」を知らないだけ。

その言葉が由成には希望の光に見えた。
職場の人間関係で失敗するわけにはいかない。
でも、「観察」するだけならリスクはない。
シャワーを浴びているうちに、疑念も一緒に洗い流されている気がした。

職場をよく見れば、明日からの景色も違って見えるかもしれない。
昼間のレッスンから積もり積もった不安や疑問を希望に変えて、由成は眠りについた。

(②−3へつづく)


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