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まちのコミュニケーションジム①−1:人間関係の「チューニング」を始めよう!

自分の考えが深められるまち、加美原町。
ここには、「聴く文化」が根付いている。
思考と対話を重ねて、人々は心を満たす。

◆ この町には、コミュニケーション専門のジムがある

「ジム」といっても、鍛えるのは体じゃない。
「コミュニケーション力」だ。
トレーナーは、岩城正倫。
勤めていた会社を辞め、一からサービスを立ち上げた青年だ。

このまちでは人との関わりが大切にされているから、
対人関係や自己実現に関する関心が高い。
だから、その相談や鍛錬を請け負うのが、このジムの役割だ。

当然、大きなトレーニング器具のようなものはない。
あるのは中央に陣取られた円卓と、いくつかの小道具だけだ。
 ・円卓にワークシートや模造紙を広げて話し合う
 ・ホワイトボードやふせんに書き出して考える
 ・糸電話やボードゲームのような小道具を使う

相談内容に合わせて柔軟に道具を使いこなすのが、正倫は得意だった。
そして、一人一人に合った「チューニング」をするのが楽しみだった。

◆ しかし、多くの人からの相談は、少し的外れだった

「初対面で話を盛り上げるネタがほしいです」
「人前で緊張せずに話す方法を教えてください」
「もっとおもしろく話せるにはどうしたらいいですか?」

多くの人は、「すぐに役立つ答え」を欲しがった。
でも、そんなアドバイスで問題が解決することは、まずない。

「知識やデータはお伝えできますが、実際に試していただけますか?」
「……いえ、まずは知識だけ知ってみてから考えたいんです」
「それだとコミュニケーションに変化を起こすのは難しいですねえ」
「方法や伝え方さえわかればうまくいくと思うんですが……」

コミュニケーションの問題は、他の問題とは少し違う。
知識や正解を得るだけでは何も変わらない。

「……そういうのじゃねえんだよな」
よくある相談にも丁寧に対応するものの、正倫はもどかしさを感じていた。
ブラックコーヒーを片手に、正倫は今日も研究を重ねていた。

◆ コミュニケーションの学習は、理解することから始まる

カランコローン……
「ごめんくださーい」

そんなある日、重厚な扉をあけて直接相談にやってくる人がいた。
いつもは電話やウェブからの問い合わせが多いせいか、
その日のドアチャイムは余計に大きく響いた気がした。

正倫「あー、すみません。『ごめん』は売ってないんすよー」
来訪者「……え?」
正倫「いえ、冗談です。失礼しました。初めまして、岩城と申します」
来訪者「……あ、びっくりしました。初めまして、木月と申します。まちの住人の鈴木さんの紹介で参りました」

カジュアルシャツとジーンズの正倫とは対照的に、グレーのスーツ姿の若者がやってきた。
「ああ、鈴木さんの。失礼しました。どうぞお入りください」
簡単な自己紹介だけ済ませて、正倫はテーブルへと案内した。

(まちのコミュニケーションジム①−2へ続く)


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