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観光案内所のおもてなし:初対面の対話術

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……人々の願望が創り出した町、加美原町。
この町の住人は発想を広げることが好きだ。
今日も「これから」を考える一日が始まる。

◆ 加美原町は、初対面に優しい

「これから」を考える人は、だいたい一人で抱え込む。言葉にできない想い、人に伝わりにくい考えを持っているからだ。

加美原町には、そんなもどかしさを経験してきた人が多い。だから誰に対しても、「相手目線」で理解しようとする文化がある。

ある日、船井さんという女性が「町の観光案内所」へやってきた。

「こんにちは、初めまして……」
声のトーンははっきりしていたが、ドアを開ける手は遠慮がちだった。

「はい、こんにちは。案内所の梶木と申します」
だいたい受付にあたっている梶木さんは、『研究所』の一員でもある。だから初対面のコミュニケーションにふさわしい「技術」を身につけている。

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◆ 初めての対話には「流れ」がある

「初めての場所に入る時って、緊張しますよね」
梶木さんは当たり障りのない言葉で気さくに話しかけた。相手の「今」をくみ取ることから会話を始めるのは、この町の基本的なマナーだ。

「あ、営業職は20年ほどしてたので慣れてますが、控えめを心がけて」
「私も営業経験あります。10年も前ですが、慣れるまでが大変でしたね」
「そうでしたね。あの頃が懐かしいです」

少しずつ会話を広げながら、梶木さんは自然な流れで船井さんにお茶を出した。慣れた態度で相手が話しやすそうな雰囲気をつくるのも効果的だ。

「それで、この町には何のきっかけで?」
一通りのあいさつが済んだ頃合いを見てから、梶木さんは本題に入った。

「なんというか、説明が難しいんですが……」
カンタンに説明できる人の方が少ないのは、梶木さんもわかっている。

「ちょっとカンタンに、これまでのことを伺ってもいいですか?」
こうして少しずつ対話の流れはできていく。

「これから」を考えたいのに、「これまで」を聞くのは不思議な感覚だ。

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◆ 「いつもの自分」が出せると、人は深く話せる

「船井さんは、今までどんなお仕事をされてきたんですか?」
「保険の営業や、美容部員など、人と直接関わる仕事が多かったですね」
梶木さんは話を聞く間、紙にメモを取っていた。話を忘れたり脱線したりするのを防ぐためだ。

「人と話すのが昔から好きなんですか?」
「そうですね、言葉にしていない感情までキャッチするのが得意です」
「それならこの町の人たちと話が合いそうですね」
「はい、新しい出会いも、会話を深めるのも大好きなんです」
会話にはペースがあり、少しずつ加速していく。この日は女性同士のティータイムらしい雰囲気が漂っていた。

「せっかくなら、どんな人とお話しがしてみたいですか?」
「そうですね、人との関わりを深めたり掘り下げたりが上手な人とか」
「でしたら、ファシリテーターをしている人がよさそうですね」
「……ファシリテーター?」
「会話や会議を円滑に進めるための知恵を持った人たちですよ」
「そんな方がいらっしゃるんですね。ぜひお願いします」
「聞いてみて正解でしたね。きっと今の船井さんに合うと思います」

聞く側も、話す側も、対話して初めて見える景色がある。良いアイデアとは、人との対話の中から紡ぎ出されるものだ。
話が弾んで、気付けば手元のお茶も空っぽになっていた。

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◆ 言葉にはできなくても、誰にでも意図がある

「すみません、ついつい喋りすぎてしまいました」
「これからのこと、全然お話ししてませんね」
「でもちょっと頭の整理ができて、何か見えてきそうです」
梶木さんから差し出されたメモを見返しながら、船井さんは嬉しそうだった。お互いあいさつを済ませると、船井さんは席を立ってドアを開けた。

「ここへ来て初めてお話しするのが梶木さんでよかったです」
船井さんは普段着のような笑顔でお礼を言うと、紹介されたファシリテーターの人がいるところへ向かっていった。

今日も良い「人つなぎ」ができたなーと嬉しくなって、梶木さんは机のグラスを片付けた。
「進堂先生、うまくやってくれるかしら」
こうして人と人とがつながりあって、この町の多様性は広がっていく。

誰かと話すことで見えてくる自分がいる。
それを見つけるために、今日もこの町では対話の技術が磨かれている。
(To be continued…)

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