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フリードリヒ・デュレンマット『失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選』(光文社古典新訳文庫)
20世紀スイスの作家、フリードリヒ・デュレンマットが書いた4つの短篇が収録されている。デュレンマットは戯曲家でもあったことからかなり演劇的であり、会話もよい。
「トンネル」
ふだん乗り慣れた列車、いつも通り列車がトンネルに入ると、どんなに時間が経ってもトンネルから出られない。列車が行き着く先は…
「失脚」
とある革命国家のトップメンバーが揃う会議室には党のトップであるAを頂点とした14人が列席していた。しかし定刻になっても核開発大臣のOの姿がない。いつしか「Oは粛清された」という話になり、それを発端として互いの疑心暗鬼が膨れ上がって…
「故障――まだ可能な物語」
平凡な営業マンの車が見知らぬ村でエンストする。宿屋が満員だったため、彼はとある老人の屋敷に宿泊することになる。高価な酒や食事をふるまわれるが、やがて「裁判ごっこ」がスタートして…
「巫女の死」
そろそろ死を迎えようとしている女司祭パニュキスは、かつてでたらめな神託をオイディプスという青年に告げる。だがでたらめだったはずの予言が正確に成就してしまう。だがその真実には複雑怪奇にもつれた事情が…
いずれもミステリでもなくホラーでもなくファンタジーでもない、さらに他のどの作家にも似ていない、独特の作風で、読後、「だからなんなの?」という感想をいだく人もいると思う。つまり読者を選ぶ。「とにかく変わった作家の変わった小説が読みたい」という変わった読者にうってつけの一冊です。
4つの短篇以外に訳者による「はじめに」「解説」「年譜」「訳者あとがき」まで収録されている大サービス。「失脚」の「A~Pの登場人物紹介」が書かれた「栞」が入っているのも徹底している。