御柱/国連はロシアを動かす力を持っている:ロシアが反応した国連事務総長訪問とイスラエルの抗議

国連はロシアを動かす力を持っている:ロシアが反応した国連事務総長訪問とイスラエルの抗議

5月7日(土)晴れ

昨日は平日で、母を病院に連れて行ったりいろいろやってから仕事。諏訪大社上社の御柱祭に参加した人と話をして、様子を聞いていろいろへえっと思ったので、今日の早朝に本宮の方に行って建てられた四本の御柱を見てきた。

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新緑の社に建てられた四本の真新しい柱は瑞々しい感じで、伊勢神宮の20年に一度の式年遷宮と同じような意味を持つとされる7年に一度の行事なのだが、今年はコロナの影響で「山出し」(木落や川越しなど見どころが多い)は行われず「里曳き」だけが行われたのだが、それでもいろいろと盛り上がったようで、祭りの後の静けさみたいなものがまたいい感じではあった。


旧ソ連のナチスドイツに対する戦勝記念日である5月9日に向けて様々な動きが見られる中、特筆すべきは国連のグテーレス事務総長のモスクワ及びキエフ訪問と、マリウポリの一般人避難に国連や国際赤十字が関わることで500人余りの市民が避難できたことが挙げられる。ゼレンスキー政権はモスクワよりもキエフを先に訪問すべきだと批判していたが、結果的に事務総長がロシア、つまりプーチンを動かして一定の成果を上げられたことは評価すべきだと思う。

さらに昨日の国連安保理ではロシアも賛成してグテーレス事務総長の努力を評価する議長声明が出された。これはロシアも賛成したと言うことが最大のポイントだと思う。

これはつまり、実際に国連がロシアを動かしたと言うことを意味するし、なぜそれが可能だったかというと、「ロシアの侵攻を止められない国連および安全保障理事会」の存在価値を疑う意見がだんだん強まっていると言う現状があったと思う。

小泉悠「現代ロシアの軍事戦略」(ちくま新書、2021)やグレンコ・アンドリー「NATOの教訓」(PHP新書、2021)を読んでいると、ロシアにとってロシアが「大国(Державаデルジャーヴァ)」であることが非常に重要であると言うことがよくわかる。

上記にも書いたが、「大国」とは「他の秩序に従うのではなく自ら秩序を作り出す国」という意味で、つまり国連という存在はロシアが拒否権を行使できることでロシアの大国としての地位を保障するものと捉えられているわけである。

つまり簡単に言えば、ロシアの行動は全く「国連を蔑ろにしている」ように見えるが、本当は「ロシアは国連を失いたくない」のである。国連がなくなり、ロシアを含まない新しい国際秩序が生まれて仕舞えば、ロシアは「大国の地位から転落する」可能性が大きい。例えばG7にしても、一時はロシアを加えてG8になっていたが、クリミア侵攻以来はロシアの参加は停止されている。G20にしてもインドネシアはプーチンの招待を明言しているが、現状ではプーチンが参加した場合は欧米先進国はボイコットする可能性がある。「国際社会」においてロシアの大国としての地位を保障している最も大きな存在が国連であるわけである。

もちろん単純な軍事力で世界を圧倒できるなら国連すら不要だと言う議論もロシア国内で高まる可能性はあるわけだが、ウクライナ一国に(ロシアは西側が代理戦争させていると主張しているわけだが)戦争の目標達成を阻まれている状態ではたとえ核を使ったところで目的を達成できない可能性が高く、その方向性は諦めたと考えていいだろう。

そこから考えると、国連はロシアに対してもっと要求できるようになったと考えていいだろうと思う。ウクライナから撤退せよと言う強制力を持った安保理決議はロシア中国の拒否権でできない以上、できることは国際社会としては「国連を廃止する」と言うある種の恫喝であるだろうと思う。プーチンはグテーレス事務総長との会談で「国連は機能不全に陥っていると言われているが私は大事だと思っている」みたいなことを言っていて最初はお為ごかしだと思っていたのだが、実は結構本心なのではないかと言う気がしてきている。

だから国連としては、プーチンが譲歩できるギリギリのところをついて特に人道問題、ロシアが占領している地域からの一般市民の避難の問題についてはまだまだできることがあるだろうと思うし、実際にやっているようだ。

日本もウクライナに対して支援を実行していく一方でこうした国連の搦手からの努力も協力していけると良いと思う。悲惨な戦争になっているが、交戦国でない日本としてはその悲惨さを少しでも軽減するための努力を惜しむべきではないだろう。

一方、ラブロフ外相の「ヒトラーはユダヤ人」と言う発言がイスラエル及び世界のユダヤ人社会を激怒させた件に関しては、イスラエルのベネット首相が「プーチンが外相発言に対し謝罪した」と明らかにしている。

イスラエル政府としてはこの謝罪を受け入れる方向のようだが、ユダヤ人社会は実際のところ反ロシアに舵を切ったと言っていいだろうと思う。

イスラエル政府としてはシリアでのイラン基地の空爆の際にロシアが黙認している現状を維持したいことと、もう一つはロシアにおけるユダヤ人の保護の問題があるのだと思われるが、ロシアとあまりことを荒立てたくないと言うのが感じられる。実際のところラブロフの発言に関してロシアのユダヤ人社会でどのような反応が起こっているのかも知りたいと思うのだが、このところロシア国内でテロ的な動きもあるのでその辺りと関係があるのかなとも思う。

ラブロフはゼレンスキーがユダヤ人であってもネオナチである、と言う主張を補強するためにヒトラーがユダヤ人の血を引いていてもホロコーストを行いロシアを侵略したと言いたかったようだが、ロシア国内ではひょっとしたらその主張は支持されるのかもしれないが、ヒトラー=ナチスが実行したホロコーストの最大の被害者であるユダヤ人社会においては全く受け入れられないことは普通の国際常識があったらわかることだろう。ロシア外務省はそれをさらに強弁しようとしたが、プーチンはそこはまずい、特に「ナチスに勝利した輝かしい戦勝記念日」を目前に、その「勝利の意義を最も共有できるはずのイスラエル」と深刻な対立を起こすことはイスラエル及びユダヤ人社会をさらにアメリカ寄りにしてしまうし、その意義さえ否定されることは望ましくないと判断したのだろう。

ドイツだけでなくアメリカやイスラエルもロシアに対して妙に腰の引けているところがあり、そのあたりは不思議なところがあるのだが、ロシアとしても完全におかしくなってるわけではなくてちゃんと計算しているところがあると言うことがわかったのはまあ良かったのではないかと思う。

イスラエルがロシアから譲歩を引き出したことで、何かできることは出てきたのではないかと思う。ロシアに対しより一層踏み込んでいって欲しいところではある。

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kous37
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