ウクライナ戦役で欧米「宗教右派」と「家族の価値」はどう変わるか
4月7日(木)晴れ
当地では昨日から学校が始まり、私の家は小学校と中学校と高校一つの近くにあるので朝の時間と帰りの時間に子供が溢れるようになった。休み中はそういうことは忘れているのだが、そういえばこういう感じだったなあなどと、外の感じを思い出す時期だなと思う。
昨日は松本に整体に行って身体を見てもらったが、「ひとまず区切りがついた感じですね」と言われた。考えてみると旧学年も終わり、とりあえずの締めを済ませて気持ちも変わった部分もあるが、すでに色々な新しい困難と格闘している感じもあり、あまり気持ちの上での実感はなかったのだが、そういうふうに考えることが大事なんだなと改めて思った。そういえば日曜日は一日中うたた寝を繰り返し、月曜日にかなりキツく腹が下って結構大変だったのだが、それで体の毒素を出したというか悪いものが出た感じは確かにあった。まああれが「身体が一区切りつけた」ということなんだろうなと思う。いろいろと思うように行かないことは多いけど、まあしっかりやってみようと思う。
昨日は金子夏樹「リベラルを潰せ 世界を覆う保守ネットワークの正体」(新潮新書、2019)を改めて読んでいた。著者は1978年生まれの日経の記者で、ジャーナリスティックな視点から白人極右運動について書いているようだが、本人はリベラルの視点が強いようで、「保守系」の団体を「いわくつき」などという価値判断を含んだ形容語句で表現したりしてちょっと色がつきすぎな感じはするが、知らないことについて書いてくれてあるのはありがたい。
昨日読んでいたのは「世界家族会議 World Congress of Families」についてなのだが、2017年のブダペストにおけるこの組織の総会を取材したレポートから始まっている。
ハンガリーの首相のオルバーンは彼のいう「保守系」で、家族の価値をキリスト教的な価値観から守る姿勢を示している。彼自身はカルヴァン派のハンガリー改革派教会に属し、彼の妻と5人の子供はカトリックだとのことだ。こうした「保守派」の政治家であっても同じ教会に通うとは限らないというのは現代ヨーロッパでは珍しくないのか、ハンガリーが旧共産圏であったことの影響なのか、などと私はそういうことの方が気になってしまうが。この辺りはWikipediaなどで調べたことなのだが。
オルバーンはそういうわけで政府をあげてこの総会を支援し、また世界各国から集まったメンバーは和気藹々とした雰囲気だったという。「男性と女性と子供たち」というNatural Familyの価値を重視し、その素晴らしさを演出するという意図もあるようだ。この当たり、昔の「生長の家」の集会などの雰囲気に似てるのではないかという気はした。こうした「自然家族」の重視はキリスト教のいわゆる「福音派」の主張だとのことだ。
この団体が元々はロシアの社会学者アナトリー・アントノフとアメリカの保守派の社会学者アラン・カールソンの出会いから生まれたという話が面白かった。現在でもWCFの代表はカールソンなのだが、ロシアとの強い結びつきを持っていて、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)から多くの資金を得ているようだ。彼らの問題意識の原点は人口問題からきていて、欧米においては日本と同じように少子化が進んでいることからきていたようだ。
日本では少子化問題への対処は基本的に「子供を持つ女性の働きやすさ」の問題に文字変換されているけれども、移民をほとんど認めていない日本では人口減少だけが問題になるが、移民の多い欧米では子供の多いイスラム系や旧植民地からの移民の増大で社会自体が乗っとられるという白人側の危機感があることも背景にあるようだ。
彼らはこの人口問題を「新しい家族観」「産業革命以来の社会の進歩」に問題があると考え、「多様な家族の形が認めらていること」こそが元凶であると考えている。特に同性間の婚姻などに強く反対する姿勢があり、「男女間の婚姻のみ」に優遇措置が認められると考えている。
この辺りは日本ではまあ当たり前というか自然にそうなっているけれども、だからこそフェミニズムやLGBTの攻撃対象になっているわけだけど、まだあまり強い主張にはなっていない。移民の事実上の阻止と並んで、そういう意味で日本は期せずして彼らの理想を実現していると考えられているようだ。
今回のウクライナ戦役で世界の流れがどう変わるのかまだわからないところがあり、「戦争はあるということを前提とした国際社会・国家経営」に舵を切られるようになったとしたら、近代的な国民国家は徴兵制と義務教育を必要としているわけだから、その基盤となる国民を生み出す「家族」特に彼らのいう「自然家族」の重要性がより重視されくる可能性はある。ただその自然家族においても日本では様々な機能不全が指摘されていることもあるから、必ずしも左翼リベラル的でない方向で家族というものを国家がどのように定義し支援するかということも考え直されていく可能性はある。左翼リベラルの方向性というのはある意味で経済合理性、つまり新自由主義の利益によって推進されていた面はあるわけで、経済よりもまずは防衛という方向性に行ったらリベラル政策が見直される可能性は十分あるだろう。
また上記のような世界家族会議や宗教右派についてはロシアの国家や資金の関与がかなりの度合いあるわけで、それがこのウクライナ戦役でどうなっていくかについてもまだわからないことが多い。
戦争の帰趨や人道問題、戦争犯罪の追及などと並んで、こうした思想潮流の変化に関しても注目していきたいと思う。