「逃げ上手の若君」18巻:父も兄も失った北条時行が北畠顕家に抱く想い/防犯の注意喚起
12月10日(火)晴れ
昨日は11時過ぎには寝た。寝床は毛布二枚で羽毛布団をサンドイッチする形でかなり最強だったと思うのだが、寒くなく寝られた。あと考えられるのは下にも毛布を敷くくらいだが、今のところはそこまでは大丈夫かなと思う。これで外気温マイナス5度くらいまではいけるかなと思う。3時台に一度起きて手洗いに行き、戻ってきてからオイルヒーターをつけて部屋を温めてみたが、あまり効果がない感じなのだけど、おそらくはもっと断熱状態がいい部屋ならばちょうどいいくらいに温まるのだろうなと思った。2階で直接サッシの窓の部屋なので、断熱的には弱い。日中は暖かくなるのだが。
朝起きてから外に出て空を見たらよく星が出ていて晴れている。車に何か紙が挟まっているので見てみたら防犯協会が「車のドアロックがしてない」という注意喚起の紙だった。まあ、取られて困るものを置いているわけでもないから、と思ってロックしない時もあるのだが、そういう防犯意識の低さも問題になる時代かもしれないなと思ったので改めてロックした。星は綺麗だった。
4日に買った「逃げ上手の若君」18巻を読み返していた。表紙は高師直、師泰兄弟。内容は、北畠顕家最後の戦いである1338年5月の現在の大阪府堺市付近で高師直軍とぶつかった「石津の戦い」の前後である。
時行が南朝に従うことにした後、彼が付いていたのは北畠顕家で、これをド派手なキャラクターに仕立て上げた松井優征さんの手腕はすごいと思うし、「逃げ若」全体の中でも屈指の人気キャラになったと思う。
北畠顕家はもちろん、「太平記」の中でも重要で人気のあるキャラクターであり、その戦いの天才ぶりは際立っていて、その最後に悲痛さもまたよく知られている。
北条時行は鎌倉幕府の執権であり事実上の支配者である得宗家の嫡流という存在として足利尊氏に裏切られて滅ぼされた鎌倉を取り戻すために「中先代の乱」を起こした中心人物であるが、作中当時8歳という設定ながら、彼の名が乱の名として刻まれていることの意味を松井さんが解釈して膨らませた南北朝ドラマがこの「逃げ上手の若君」だと言える。
時行は得宗家の御内人でもあった諏訪大社の大祝・諏訪頼重の元に逃れ、そこで力を蓄えて、諏訪神党の兵を糾合して関東に攻め入り、鎌倉の足利方の守備勢を破って鎌倉を奪還したものの、足利尊氏が兵を率いて東下してくると敗れてしまい、諏訪頼重以下討ち死にする。しかし時行は作中では伊豆の祖母の元に逃れ、そこで「父祖の朝敵の指定を取り消すこと」を条件に南朝の元に従う事になる。ここからはつまり「鎌倉の幕府の後継者」としてよりは「足利尊氏を倒し鎌倉を奪還すること」が目標になるわけだが、ここで現れたのが北畠顕家だった、というわけである。
この顕家も非常に魅力的な人物として描かれ、時行が顕家に個人的にも魅かれていき、兄のように慕うようになるところがうまく描かれていて、そこが泣かせる。
時行は幼くして継ぐべき家を失い、父・高時を失い、兄・邦時も失う。そこからは孤児にして主人という扱いで諏訪頼重に養育されると共に総大将としての教育を受ける。
北条時行という「太平記」にも僅かしか描かれておらず、歴史の教科書にも「中先代の乱」の中心としか載っていない人物をドラマとして描くことは果たして可能なのかと思っていたのだが、失った父の代わりに諏訪頼重に父のように育て上げられ、そしてその存在を失い、また一緒に戦うことによって北畠顕家が兄のような存在となり、またそれを失う、という形でのドラマ作りがなされていて、これは本当に上手いなと思った。
足利方の信濃守護の小笠原貞宗は敵として出てくるのだが、ある種の師匠としての存在でもあり、また好敵手でもある形で非常に魅力的に造形されている。また叔父・北条泰家との上京の設定のなかで西園寺公宗の陰謀との関わりを描くことで太平記の最大のヒーロー・楠木正成との交流も描き(全然ヒーロー然としてない設定なのだが)、また佐々木道誉の娘・ミマとの交流も描く。まだ単行本にはなっていない部分なのでネタバレになる人もいるやもだが、石津の戦いののち、時行がミマを「妻として娶る」と宣言することで北朝方との関わりも描かれていくわけで、今後も筋が展開していくきっかけになるのだろうと思う。
また、足利方で育てられた(足利学校にも通ったという設定)が主君を求めて放浪し、時行の一党・逃若党に加わった「吹雪」が、足利尊氏に敗れた際に尊氏の神力によって足利方に精神的に囚われてしまい、後に高師冬として時行の前に立ちはだかる、という設定も「裏切った友との因縁」というストーリーの展開が起こるわけで、これもこの先興味深い。
つまり、時行という存在自体も面白いのだが、彼の周りに南北朝のスターたちを配置し、その中心としてドラマを動かすことでさらにその存在を魅力的なものにすることに成功しているというところに、やはり史実を生かしたストーリーテリングの天才を感じるわけである。
時行は史実に存在した人物ではあるのだけど、その記録がほとんどないことを使って物語の中で巨大な存在にするという手法は「キングダム」の李信や王騎にも通じるところがある。また扉絵などで描かれる現代の話題を作中の時行たちが演じるイラストレーションも本当にセンスがいいなと思うし、また現代の子供達や大人たちの服装で描かれる登場人物たちは現代に生きる人も南北朝に生きた人物も全く同じ人間だ、という主張が体現されていて、そういう意味での魅力も大きい。
逃げ上手の若君のセンターカラーが腰越の江ノ電ニキで草 pic.twitter.com/mC6n2qUlaT
— なす (@Kamitsuorochi) November 7, 2021
それは「時代の子」として生きた時行をはじめとする登場人物たちの生と、超時代的な魅力への何よりの供養であり賛辞でもあると感じさせられた。
この後時行は三回目の鎌倉奪還を果たすわけだが、今後のストーリーがどう展開していくか、また目が離せないなと思うのだった。
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