習近平・プーチン会談にぶつけた岸田首相のウクライナ訪問/知性を超えるもの:信仰か現場か/反知性主義的人工知能

3月22日(水)曇り

昨日はWBC準決勝でメキシコに劇的な逆転勝ち。そして試合終了直前に岸田首相のインドからのウクライナ緊急訪問が報道され、大きなニュースのある1日になった。習近平がプーチンを訪問しているタイミングでの岸田首相のゼレンスキー訪問は、大きなインパクトのあるニュースになっただろう。訪問そのものを完全には秘匿にできなかった点など、議論になっていることはいろいろあるが、全体としては良いタイミングになったと思われる。

私は朝、弟とWBCを見始めた3回くらいで切り上げて、松本に出かけて整体を受け、だいぶよくなっていると言われて少し安心し、買い物をしてお昼すぎに帰ったのだが、うちに帰るとWBCを見終わったら帰ると言っていた弟がまだいた。FMのニュースでどちらのニュースも知ってはいたが、試合経過を何度もリプレイしていてどんなゲームだったかがよくわかった。弟はすぐ帰ったのだけど、いい試合だったなと思う。

岸田さんのウクライナ訪問については全体像がまだよくわからないのでもう少し明らかになってから少し論評したいなと思うのだけど、タイミングは絶好、報道秘匿体制は疑問、という感じだろうか。報道機関と外務省が出し抜かれた感じがあるが、本来なら外務省も知っていて黙っているべきだし、報道機関にも知らせておいてあとで報道を解禁するべきだっただろう。これはおそらく、官僚に知らせたら報道にリークされてしまうだろうし、報道もリークされたら報道してしまうから隠密行動したということなのだろう。交戦地域に首相が入るというのも戦後初めてのことだし、もちろん戦前も基本的にはなかっただろう。与野党間の暗黙の了承はあったと思うが、大統領の権限の大きいアメリカなどとは違うので、日本ではこうした事態の法制化というかマニュアルみたいなものは作っておいた方がいいのではないかと思った。


昨日は「保守主義の多様性とその概観」というか見取り図的なものを書いたけれども、その中で正統概念についてもう少し掘り下げるという目的も兼ねて森本あんり「異端の時代 正統の形を求めて」(岩波新書、2018)を読んでいた。

「人は何によって義とされるか」という問題において、宗教改革者であるルターは「人は信仰のみによって義とされる」とされたわけだけれども、教会の牧師たちはエリート大学で神学を専攻した「知性」によって主導される傾向があった中、熱い信仰、「大覚醒」と言われる集団的な神秘体験のようなものが大衆の信仰心を劇的に高めたことがアメリカ史では時々あった、ということを前著「反知性主義」で読んだのだが、つまりはアメリカの「反知性主義」というのはそうした「信仰ベース」の考え方なのだろうなと思った。

日本では、現在使われる用法とは少し違うが、学者などが「頭でっかち」と批判されることは平安時代から始まっていて、「源氏物語」では制度などについて漢籍で学ぶことによって身に付ける中国流の考え方、「漢意(からごころ)」に対して実際にそれを運用するときの知恵のようなものを「大和心(やまとごころ)」として対比し、上流貴族たちは主に後者を重視しているが、光源氏は前者も修めなければダメだと長男の夕霧を大学に入門させるという話が出てくる。

つまり、日本の反知性主義はいわば「現場主義」であり、これは理屈を頭で理解しただけではダメで生活の中でその真髄を掴んでいく、つまり「修行」や「修養」が重要である、という考えにつながってくる。政治の世界でも昭和の時代には「丁稚奉公」とか「雑巾掛け」とかよく言われて、エリートくさい宮沢元首相などが華やかな党や政府の役職に就く前に泥臭い派閥の取り仕切りをやらされるとか、そういうものを重視する文化があった。

そうした現場の空気に一番触れ、生活の折々においてその仕事の意味や作法を学べるという点で、親の仕事を子供が継ぐ世襲制がある意味一番合理的ということになる。反知性主義が保守的になるのは少なくとも日本においてはそういう側面が強いのではないかと思う。

違う側面ももちろんあるのだが、現代の人工知能(AI)の進歩も、アルゴリズムのようなシステムをいじることによってでなく、ディープラーニングという「あらゆる情報を学習する」という方向で進歩させるようになったというのは合理主義を超える新たな経験主義、反知性的人工知能とも言えるものかなと思ったりする。現場知も全て学習させるという方向に行っているのがいいことなのかどうかはよくわからないところもあるのだが。

しかし一方では、「日本人の異端好き」というのもあり、これはこの本で提起されている問題だ。異端を評価するというのは「新しい血」の導入であり「正統の場を引っ掻き回す」というイメージで、マンガなどではよく出てくるパターンだが、現実にもそういう場面は多くあるだろう。この本はその辺のところを突っ込んでいるようなので、読んでいきたいと思う。

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