一番多い構音障がいは

それは「側音化構音」です

この構音障がいの名称を聞いたことがありますか?「そくおんかこうおん」と読みます。何それ…と感じる方も多いと思いますが、説明を読むと、「あーそんな感じの構音聞いたことがある」「あれ、私もそうかも…」となるかもしれません。

どんな構音か

側音化構音は、構音障がいの中で一番出現頻度が高いと言われています。私の恩師は1クラスに1人は居るとおっしゃっていました(根拠となる文章は探せませんでした)。
口唇口蓋裂の患者さんに出現しやすい構音ですが、口の中に何も問題がない場合でもよく見られますので、多くは原因不明の構音障がいと位置付けられています。

大人にも多い構音障がいです

病院勤務の時に、大人の方を担当したこともありますが、そのほとんどが側音化構音でした。発見されなかった、気付いてはいたけどトレーニングを受けなかった、という方が大人になり、進学や就職などを経験し、自分で必要性を感じて受診するという方が多かったように思います。
発現頻度が高い上に、自然治癒が少なく、発見が遅れることが多いため、大人に最も多い構音障がいと言えるでしょう。
ではなぜ発見が遅れ、気にされないことが多いのか。それは、正しい音と誤り音がよく似ているからでしょう。よって本人だけでなく、周囲の人にとっても障がい音と認識されにくいのです。
しかし、実は似ているものだけではありません。チやジのような舌の前方を使って出す音では、キやギに近い音に聞こえてしまうことがあります。するとどうでしょう、「あいちゃん、あっち、いく」が「あいきゃん、あっき、いく」と聞こえてしまうのです。聞き手に正確に伝わらない可能性が出てきますね。このように、程度によっても生活への影響は変わってきます。

側音化構音をわかりやすく

では、どのように構音器官を動かすと側音化構音になるのでしょうか。
側音化構音は、イの系列に多く、「リ、キ、ギ、シ、チ、ジ」の順で発現しやすいと言われています。他にもケ、ゲ、サ行、ザ行に見られることもあります。
ささやき声で長めに「きー」や「りー」や「しー」と言ってみてください。正しい構音では、息が舌の真ん中を真っすぐ前へ流れていきます。真ん中を真っすぐ流れるように、舌の形は平らか、皿のように緩やかに凹んでいるはずです。
側音化構音では、この息が、舌の左右どちらか又は両側から流れ出るため、構音すると同時に、頬の内側でパチンと弾けるような音が聞こえます。なぜ側方に出てしまうのでしょうか。それは、舌の中央が盛り上がり、口の天井と接触し、息の通り道が塞がれるため、息が側方に流出してしまうからです。こうして側音化構音に特徴的な音を作り出しています。よって、トレーニングでは、この舌の形を、大げさに表現すると、凸から凹に変える作業を行います。

側音化構音は治る?治す必要がある?

以前書いた、カ行やサ行がタ行に置き換わる構音とは違い、側音化構音は、残念ながら自然治癒は期待できません。定着した癖を除去するには、トレーニングを行い、新しい構音を獲得する必要があります。しっかりとトレーニングを行えば治ります。しかし、側音化構音に限っては、年齢が低いほどそれが困難であると言われています。小さいお子さんにとって、正しい音と側音化構音の区別が難しいことが多いからです。一方大人の方は、私の経験では、3~6か月くらいで良い状態になることがほとんどでした。
では、必ず治す必要があるかどうか。一概にはお答えできないのが、私の正直な考えです。程度も違えば本人の希望や意欲も違います。「日常生活に支障がないから、このままで良いです」という意見もたくさん聞いてきました。それも1つの考え方ですよね。言語聴覚士としては、問題があるならトレーニングを受けて欲しいというのが本音ですが、トレーニングを受けるには、時間もお金も気力も必要です。しかし、本人が自身の構音を気にしていて、治したいと思っているなら、その希望は叶えるべきだと私は思います。目の前に悩みを解決できる道があることは確かなのですから。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


参考図書
・湧井豊:構音障害の指導技法—音の出し方とそのプログラム—,学苑社,2013.
・岡崎恵子 加藤正子 北野市子:口蓋裂の言語臨床第3版,医学書院,2011.
・阿部雅子:構音障害の臨床—基礎知識と実践マニュアル—,金原出版,2008.


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