キ・ケ⇒チ・チェに置き換わる…カは言えるのにナゼ?
キとケってどんな音?
カキクケコの中でも、キとケだけがキ→チ、ケ→チェに置き換わる方がいます。「ケーキ」が「チェーチ」、「キリン」が「チリン」、「オバケ」が「オバチェ」になります。
何となく、小さい子供が喋っているんだろうな、と想像できますよね。発達途中の小さいお子さんに多く、自然に治りやすいものです。
もちろん、以前記事にした、カキクケコがすべてタ行に置き換わることもありますが、このパターンの方も実は多いのです。なぜこの2つの音なのか、考えていきたいと思います。
カキクケコは実は全て同じではない
カキクケコは皆同じカ行の仲間ではありますが、実は若干の違いがあると言われています。
カ行のkの子音は、軟口蓋と呼ばれる口の天井の奥の方と、舌の奥の方を接触させることで作られます。
実は、カクコはこの方法で産生されるのですが、キとケはそれよりも少し前寄りの位置で構音しているのです。「カクコ・キ」「カクコ・ケ」と実際に言ってみるとわかりやすいと思います。
カクコに比べてキとケでは、接触する位置が少し前に来ますね。ケは、正確には「カクコ」と「キ」の中間の位置ですが、やはりカクコよりも前方で出す音となります。この差、数ミリです。数ミリの動きを一瞬で行う、構音はとても精度の高い行為ですよね。
しかし、小さいお子さんは、舌の細かい動きが未熟であるため、このような微調整が難しい場合があり、難易度の低いさらに前方の「チ、チェ」に置き換わるということになります。
余談ですが、「キ」と「キャ・キュ・キョ」は音声学的には仲間となりますので、やはり誤り方もキと同じようになります。「きゅうり」は「ちゅうり」となりますし、「きょう」は「ちょう」となります。また、それぞれの濁音に関しても同様となります。誤りが規則的に出現する、とても興味深いですよね。
また、カ行の構音訓練においても、キとケは難易度が高い音なので、カクコが十分できるようになってから、一番最後に行うことが多いです。
母音の観点から
個人的にもう1つ、関与しているのではないかと思うことがあります。それは母音です。
日本語の母音はご存じの通り、「アイウエオ」の5つの音です。これは、音声学においては、①口唇の開き方 ②舌の挙上部位 ③挙上の程度によって、5つに分類されたものなのです。
この分類で考えると、キとケの母音であるイとエは、どちらも舌の前方が盛り上がります。前述の通り、キとケは、子音の段階でやや前方で構音しなければならず、さらに、後続する母音でも舌の前方が挙上する…。聞いているだけで前方に引っ張られそうですね。舌の後ろを動かす音にも関わらず、前方につられやすい難易度の高い条件が揃っているので、この2つの音が誤りやすいのではないかと考えます。
最後に
自然に治ることが多い構音の誤りですが、中には、なかなか改善しない方もいます。現在順調に習得している途中なのか、それともトレーニングが必要なのか、言語聴覚士に一度相談すると安心ですね。4~5歳のうちに相談に行くことをお勧めします。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
参考図書
・斎藤純男:日本語音声学入門,三省堂,2003.
・阿部雅子:構音障害の臨床ー基礎知識と実践マニュアルー改定第版,金原出版,2008.