ラーメン屋にて。 2021.01.07
せいぜい私が言うのは「ネギチャーシュー(ラーメン)と餃子、バリカタで」とか「替え玉、粉(落とし)で」とか、そんなもんだ。後は会計の時の「ごちそうさまー」だ。
仕事場近くの博多ラーメンの店。
去年は〝密〟を避けるため、移動のルートを変えた所為もあるが、足を運ぶ回数はめっきり減っていた。
だから店主、店員と馴染みということもなければ「今日遅いっすねー」「いやぁ、年末だからねー」みたいな会話など、まず、ない。
夏から秋、何度か店の前を通った。
いつも混んでいた。ビールに豚バラ串を愉しむ集団がいたことも、暖簾を潜らない理由になっていた。まぁ、そういう時代だ。
今日は、空いていた。
緊急事態宣言発出の数時間後、店の前を通りかかったら、静かにラーメンを食べる客が2人、今だ。
冒頭の言葉を口にして、替え玉も頼む。美味い。店の扉は全開だ。少々寒いが、2013年12月28日、マリンメッセ福岡のバックヤードでケータリングのラーメンを頂いた時と比べたら、である。あの時はラーメンが出来上がるまでの数分で凍えそうだった。
替え玉の入った丼に紅生姜を入れていたら、店主が声をかけた。この時、客は私ひとりだ。
「お客さんは、喋る時、気を遣ってますね」
初めての会話だ。たしかに「替え玉、粉で」と言う時に私は手拭いを口に当てて注文した。
「中にはね〝いらっしゃーい〟って言うだけで、嫌な顔する方もいてね」。
店主は不平を述べるのではなく、明るく言った。当然だが、マスクをしている。僕はそんな気を遣っているつもりはないこと、実は去年何度か店の前を通ったけど混んでいたからスルーしたことを話した。
「そうですよね。俺が客なら、そういうこともしますよ」と、こちらの非礼を受けてくれた。
小ぶりの麺は、あっという間に胃袋に収まる。会計だ。つい、余計なことを聞いた。
「明日からの営業は、どうされるんですか?」
店主はすぐに「あ、もう8時!8時までで。その分ね、ランチで頑張りますよ」
界隈のオフィスもテレワークを推奨している中での言葉だ。すぐ脇には大手IT系の会社もあるが、出勤している人は僅かかもしれない。
「来ますよ、また」
そうしか言えなかった。そして
「頑張りましょうね、お互いにね」
頑張ろうって言葉、大嫌いなのに。
ここ数日、ニュースを見るのもうんざりしていた。気持ちも決して晴れやかとはいえるものではなかった。そして今日が来た。まだまだ私の気持ちもモヤモヤするだろう。
でも、目の前の店主は頑張るって言っているんだ。俺は俺なりにやる。頑張ってないように見られるかもしれない。ただ、むやみな、誰に言っているかわからない「がんばろう」のスローガンが嫌なんだ。
だから今日は、すっと出た言葉なんだ。
お互いにね。
やっていきましょう。