
不安を科学で断ち切る──脳と身体に効く、経営者のためのセルフケア戦略
はじめに
30代という働き盛りで経営者として成功していても、ふと将来への漠然とした不安に襲われることはありませんか。経済的にも時間的にも自由があるはずなのに、心のどこかで「このままで良いのだろうか」とストレスを感じてしまう──そんな経験をお持ちかもしれません。実は、このような漠然とした不安は、私たちの脳と体の仕組みに起因する自然な反応です。本稿では、神経科学と生理学の知見に基づいて、この不安の正体を解き明かし、今日から使える具体的なストレス解消法を紹介します。脳内で何が起きているのかを理解し、科学的根拠に裏付けられた対処法を実践することで、不安を和らげつつ自身の幸福を最大化する道筋が見えてくるでしょう。
まずは、不安やストレスに関わる脳の部位とホルモンについて解説します。その上で、マインドフルネスや呼吸法、運動、栄養、ライフスタイル改善、人間関係など多角的なアプローチによるストレス軽減法を具体的に提示します。即効性があり、忙しい経営者でも今日から実践できる方法を中心に取り上げます。また、ストレス軽減に役立つサプリメントやガジェット、本などの商品も科学的エビデンスと共に紹介します。ビジネス書として実践に役立つよう、平易な文体でまとめていますので、ぜひ日々のセルフマネジメントにお役立てください。
第1章 脳とストレスのメカニズム
扁桃体と前頭前野:不安の「司令塔」と「制御塔」
私たちの脳には、感情を司る扁桃体と、理性を司る前頭前野という二つの重要な部位があります。扁桃体は外界の情報に対し瞬時に「危険か安全か」を判断し、危険だと感じると心拍数や血圧を上げ体を戦闘モードにする指令を出します。これがいわゆる「闘争・逃走反応(ファイト・オア・フライト)」で、不安や恐怖を感じたときに扁桃体がフル活動するのです。一方、前頭前野は論理的思考や意思決定をつかさどる部位で、扁桃体の暴走を抑えてくれるブレーキ役でもあります。通常、前頭前野がしっかり働くことで私たちは感情をコントロールし、冷静さを保つことができます。
しかし、慢性的なストレスにさらされると状況が変わります。ストレス状態が長く続くと前頭前野の働きが低下し、扁桃体を十分に制御できなくなってしまうのです。その結果、不安や恐怖の感情が必要以上に強く表れ、些細なことにも過剰に反応してしまうようになります。実際、うつ病患者の脳では左前頭前野の活動低下と右扁桃体の過剰活動が認められるという報告があります。これはストレスにより理性のブレーキが効きにくくなり、感情の暴走が起きている状態と言えます。
扁桃体が過剰に活動すると、パニック障害や社会不安障害などの不安症状、さらには慢性的なストレスによる抑うつ状態につながることが分かっています。逆に言えば、前頭前野の機能を高め扁桃体の暴走を抑えることで、不安を和らげメンタルの安定を図れる可能性があります。この脳のバランスを整えるにはどうすればよいのか——それこそが本書で解説する様々な対処法の狙いです。まずは仕組みを理解するために、ストレス時に分泌されるホルモンや神経伝達物質について見ていきましょう。
ストレス反応と神経伝達物質の役割
突然のトラブルや将来への不安を感じたとき、体内では様々なホルモンや神経伝達物質が分泌され、心身に影響を与えます。主なものとして、コルチゾール、アドレナリン(エピネフリン)、セロトニン、ドーパミンなどが挙げられます。それぞれの役割とストレスとの関係を見てみましょう。
コルチゾール: コルチゾールは副腎から分泌されるストレスホルモンで、血糖値を上げたり免疫反応を調節したりする作用があります。適度なコルチゾール分泌はストレスへの正常な反応ですが、慢性的にコルチゾールが高い状態が続くと不安感の増大、記憶力の低下、免疫力低下など様々な悪影響があります。例えば睡眠不足でも体はストレスと感じてコルチゾールが増え、不安レベルが30%も高まるとの研究結果があります。つまり、コルチゾールは短期的には身体を守る反応でも、長期に過剰だと心身をむしばむリスクとなるのです。
アドレナリン: アドレナリン(エピネフリンとも呼ぶ)は急性のストレス時に分泌されるホルモンで、心拍数や血圧を上げ、瞬時に身体を興奮状態にします。例えば車の運転中にヒヤリとした瞬間にドキッと心拍が跳ね上がるのはアドレナリンの作用です。アドレナリンもコルチゾール同様、「いざ」という時には必要ですが、過剰だと心身を緊張させ不安感を煽ります。慢性的ストレス環境では常にアドレナリンが高めになり、リラックスできない状態が続く恐れがあります。
セロトニン: セロトニンは「幸福ホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質で、気分や感情の安定に深く関与しています。セロトニンが適切に作用していると心が落ち着き前向きな気持ちになりやすいですが、不足すると不安や抑うつの原因になることが分かっています。抗うつ薬の多く(SSRI=選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は脳内のセロトニン濃度を高めることで不安・抑うつ症状を和らげます。ストレスを感じるとセロトニン機能が乱れやすくなりますが、一方でストレス対処法の実践によりセロトニン分泌が促進されることも知られています。例えば後述する運動や呼吸法でセロトニン値が上がり気分が安定することが科学的に示されています。
ドーパミン: ドーパミンは快感や意欲に関与する神経伝達物質です。何か目標を達成したり褒められたりすると「やった!」と嬉しくなるのはドーパミンの作用です。ドーパミンは適度であればモチベーションを高め前向きな行動を促しますが、過剰に報酬を求める状態(例えばSNSでの「いいね」に依存する等)になると、常に刺激を求めて落ち着かない状態につながりかねません。一方、ストレスで意欲が出ない時にはドーパミン活性が低下している場合もあります。興味深いことに、深呼吸のようなリラックス法を行うとドーパミンが上昇するとの報告もあります。つまり上手にストレスをコントロールすることで、ドーパミンによる「やる気」や「快感」も取り戻せるのです。
このように、不安やストレス時にはホルモン・神経伝達物質のバランスが崩れがちです。**「将来への漠然とした不安」**というのも、実は扁桃体が予測不能な未来を脅威とみなしてコルチゾール等を放出し、前頭前野の理性的制御を上回ってしまう状態と捉えることができます。そこで重要なのが、脳と身体の両面からこのバランスを整える方法です。次章から、その具体的なメソッドを紹介していきます。
第2章 不安を解消する科学的メソッド
脳のメカニズムを踏まえた上で、ここからは実際にストレスや不安を和らげるための具体的な方法を紹介します。いずれも科学的なエビデンスに裏付けられており、今日からすぐに試せる実践的なアプローチです。ご自身の生活に取り入れやすいものから、少しずつ始めてみてください。
マインドフルネスと瞑想:脳を鍛える「心のトレーニング」
近年、ビジネスパーソンやトップアスリートの間でもマインドフルネス瞑想が注目されています。マインドフルネスとは「今、この瞬間」に注意を向け、評価をせずにありのままを感じる心の状態のことです。その代表的な訓練法が瞑想です。瞑想というと宗教的なイメージを持たれるかもしれませんが、現在ではその効果が脳科学の研究で次々と明らかになっています。
瞑想を習慣的に行うと、扁桃体の過剰な活動が抑えられ、前頭前野の活動が活発化することが報告されています。これは先述の「扁桃体の暴走を前頭前野が抑制する」働きが強化されることを意味します。実際、長期にわたりマインドフルネス瞑想を実践した人は、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が減少し、脳の前頭前野の灰白質が増加するといった構造変化も観察されています。つまり、瞑想によって脳そのものがストレスに強くなるわけです。
また瞑想には即時的な効果もあります。例えば不安を感じて心がざわついている時でも、わずか数分間呼吸に意識を向ける瞑想を行えば、扁桃体の興奮が鎮まり心拍数が落ち着くという研究結果があります。瞑想中は「今ここ」に集中するため、将来の心配事から思考が解放され、脳が休息することも分かっています。
実践ポイント: 瞑想は1回数分からで構いません。例えば、椅子に座って背筋を伸ばし、目を軽く閉じて呼吸に意識を集中します。雑念が浮かんできたら「考えごとをしていた」と気づき、また呼吸に注意を戻します。これを繰り返すだけです。「何も考えないようにしなければ」などと力まず、雑念が湧くのは自然なことと受け入れましょう。忙しい方は通勤電車の中や休憩時間に1分目を閉じるだけでも効果があります。継続するほど効果が高まるので、ぜひ毎日の習慣にしてみてください。スマホの瞑想アプリ(例えばHeadspaceやInsight Timerなど)を活用するのもよいでしょう。
呼吸法:自律神経を整え不安を鎮める
ストレスで緊張したとき、「深呼吸して落ち着こう」とよく言われますが、これは理にかなったアドバイスです。呼吸は自律神経(交感神経と副交感神経)のスイッチを切り替える強力な手段であり、自分の意思でコントロールできる数少ない生理反応です。
不安やストレスを感じているときは交感神経が優位になり呼吸が浅く速くなりがちです。そこで意識的にゆっくり深い呼吸(腹式呼吸)を行うと、副交感神経が刺激されて心身がリラックスするようにできています。実際、10分間の深呼吸を行うだけで、ストレスホルモンのコルチゾールとアドレナリンの血中濃度が低下し、不安感が軽減することが研究で示されています。同時にリラックスに関与するセロトニンや快感に関与するドーパミンのレベルが上昇することも確認されています。つまり、深い呼吸は脳内の化学物質のバランスを短時間で整えてくれる即効性のあるテクニックなのです。
具体的な呼吸法としては、以下のようなものがあります。
腹式呼吸: 鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹が風船のように膨らむのを感じます。次に口からゆっくり息を吐き、お腹がへこむのを感じます。これを繰り返します。ポイントは、吐く息を吸う息より長く(倍くらいの長さが理想)し、呼吸のリズムに集中することです。
4-7-8呼吸法: アメリカの睡眠専門医が推奨するリラックス法です。4秒かけて鼻から息を吸い、吸い終わったら7秒息を止め、最後に8秒かけて口から息を吐き切ります。このサイクルを数回繰り返します。副交感神経が働き、不安や緊張が和らぎます。
箱(ボックス)呼吸: 米軍特殊部隊も実践するという呼吸法です。4秒吸って4秒止め、4秒吐いてまた4秒止める、を繰り返します。呼吸に集中することで雑念を払い、心を落ち着ける効果があります。
実践ポイント: 不安に襲われたら、その場でできる限りゆっくり深呼吸をしてみましょう。例えば人知れずトイレの個室にこもってでも、2〜3分腹式呼吸をするだけで心拍数や血圧が下がり、頭がクリアになってきます。仕事中であればPCの前で目を閉じて数回深呼吸するだけでもOKです。また、日頃から**「1日3回、一回1分」**などと決めて意識的に深呼吸する習慣をつけると、ストレス耐性が高まります。深い呼吸をすると体内で何が起こっているかを思い出し、「今、自分は自分の脳と体をケアしている」と意識すると更に効果的でしょう。
運動:有酸素運動 vs 無酸素運動、その効果の違い
運動がストレス解消に良いという話は一度は耳にしたことがあるでしょう。それは単なる気分転換だけでなく、生理学的にも大きなメリットがあるからです。運動すると脳内にエンドルフィンという快感物質が分泌され、「ランナーズハイ」と呼ばれる多幸感が得られることがあります。また、運動はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑え、気分安定の神経伝達物質セロトニンの分泌を促すことが分かっています。つまり運動することで、ストレスで乱れた脳内物質のバランスを正常化し、気分を高揚させてくれるのです。
一口に運動と言っても、有酸素運動(ランニングや水泳など酸素を使った持久的運動)と無酸素運動(筋トレや短距離走など瞬発的運動)がありますが、ストレス軽減効果には多少の違いがあります。研究によれば、一般的に有酸素運動の方が無酸素運動よりもストレス軽減には効果的であることが示唆されています。有酸素運動は適度な強度で長時間行うことでエンドルフィンやセロトニンの分泌が顕著に増え、不安症状の軽減に有効だという報告が多いのです。一方、無酸素運動(筋力トレーニング等)も達成感によるドーパミン分泌や自己効力感の向上につながり、うつ症状の改善などメンタルヘルスに良い影響があります。したがって両方組み合わせるのが理想的ですが、ストレスを感じてモヤモヤするときは、まずは軽く体を動かして汗を流す有酸素運動から始めると即効性を得やすいでしょう。
では忙しい方が日常に運動を取り入れるにはどうすれば良いでしょうか。以下に工夫の例を挙げます。
通勤や移動を活用: 可能な範囲で歩く距離を増やしましょう。駅ではエスカレーターではなく階段を使う、一駅手前で降りて歩く、自転車通勤にする等、有酸素運動のチャンスを日常に散りばめます。
スキマ時間にミニ運動: オフィスでも休憩中に軽いストレッチやスクワット、かかと上げ下げ等その場でできる運動を行います。5分程度体を動かすだけでも血行が促進され、筋肉の緊張がほぐれてリフレッシュできます。
週末にしっかり汗をかく: 平日に時間が取れない場合、週末にジョギングやジムでのワークアウト、スポーツなどでしっかり汗を流しましょう。運動後はコルチゾールが減りセロトニンが増えているため、運動直後の爽快感がストレスを一掃してくれます。この効果は運動後数時間持続するため、週末にリセットすることで翌週のストレス耐性も高まります。
実践ポイント: ストレスフルな会議が終わった後や嫌な出来事があった日は、少し早歩きで散歩をしたり、その場で軽くジャンプしてみたりしてください。たった数分の運動でも脳内にエンドルフィンが放出され、気持ちがポジティブに切り替わるのを感じるでしょう。「運動する時間がない」と思いがちですが、短時間でも積み重ねれば効果は十分です。大事なのは継続。毎日10分のウォーキングからでも良いので、ぜひ体を動かす習慣を取り入れてみましょう。
栄養とサプリメント:体から心をサポートする
食事の内容は脳の働きやメンタル状態に大きく影響します。ジャンクフードばかりで栄養が偏っていたり、忙しさから食事を抜いたりすると、血糖値の乱高下や必要な栄養素不足により不安定な気分になりやすくなります。ここではストレスを和らげる栄養素と、効率的に摂取できるサプリメントについて紹介します。
まず基本はバランスの良い食事です。脳の神経伝達物質の多くはタンパク質やビタミン・ミネラルから合成されます。例えばセロトニンの原料はトリプトファン(必須アミノ酸の一種)で、肉や魚、卵、大豆製品などに含まれます。ドーパミンの合成にはチロシン(アミノ酸)や鉄、ビタミンB6などが必要です。このように、極端な食事制限や偏食をせずまんべんなく栄養を摂ることが心の健康の土台となります。
特にストレス軽減に役立つと科学的に示唆されている栄養素・サプリメントをいくつか挙げます。
オメガ3脂肪酸: 青魚に多く含まれるEPAやDHAなどのオメガ3系脂肪酸は、抗炎症作用があり脳の機能維持に重要です。研究では、オメガ3サプリメントを摂取したグループがプラセボ(偽薬)グループに比べて不安症状が20%減少したとの結果があります。普段魚をあまり食べない場合は、魚油サプリメントで補うのも良いでしょう。オメガ3は脳細胞膜の成分でもあり、十分に摂ることでメンタルの安定化に寄与します。
マグネシウム: マグネシウムは現代人に不足しがちなミネラルですが、神経の興奮を抑え心拍や血圧を安定させる働きがあります。マグネシウムを十分に摂取するとコルチゾール(ストレスホルモン)のレベルを下げ、過剰な交感神経反応を抑制できることが知られています。実際いくつかの研究で、マグネシウムサプリの摂取が不安症状の軽減につながったと報告されています。食品ではナッツ類、緑黄色野菜、海藻類に豊富なので、意識して取り入れてみましょう。不足が気になる場合はマグネシウムのサプリメント(吸収の良いクエン酸マグネシウムやグリシン酸マグネシウムなど)も有用です。
ビタミンB群: ビタミンB1・B2・B6・B12・葉酸などB群ビタミンは、糖質やアミノ酸からエネルギーや神経伝達物質を作る際に必要不可欠です。特にB6とB12、葉酸はセロトニンやドーパミン合成に関与します。高用量のビタミンB複合サプリメントを4週間摂取した試験では、ストレス評価スコアの有意な改善が見られました。忙しいと食事で十分な量を摂るのが難しいビタミンでもあるため、サプリでの補充も検討してください。なお、ビタミンB群は水溶性で過剰分は排泄されるため、基本的には安全ですが、尿が濃い黄色になることがあります(リボフラビン由来)ので驚かないでください。
ビタミンD: 日光を浴びることで体内合成されるビタミンDも、気分に影響すると言われます。日照時間が少ない冬季に気分が落ち込みやすい「季節性うつ」の一因はビタミンD不足です。適度に日光を浴びる(もしくはサプリでビタミンDを摂る)ことで、セロトニン神経系の働きが良くなりストレスに強くなると考えられています。特に室内で長時間過ごす経営者の方は、意識的に散歩などで日光に当たる時間を作るとよいでしょう。
腸内環境を整える食品: 腸と脳は「腸脳相関」と呼ばれる密接なつながりがあり、腸内細菌の状態がメンタルヘルスに影響を与えることが分かってきました。ヨーグルトや発酵食品(味噌、ぬか漬け、キムチ等)に含まれるプロバイオティクスは、腸内の善玉菌を増やし、間接的に不安を軽減する可能性が示唆されています。実際、特定の乳酸菌株を摂取したグループでストレスホルモンや不安尺度の改善が見られた研究もあります。【注:具体的な菌株例:L.カゼイ・シロタ株など】。日々の食事にプレーンヨーグルトや発酵食品を取り入れ、腸を整えることも心の安定につながるでしょう。
さらに、近年注目され研究が進んでいる**ハーブ由来のサプリメント(アダプトゲン等)**もいくつか紹介します。
アシュワガンダ: インドの伝統医学アーユルヴェーダで古来より使われてきたハーブで、「最強の抗ストレスハーブ」とも呼ばれます。近年の臨床研究で、アシュワガンダの根エキス(標準化された製剤)を2か月間服用したところ、プラセボ群に比べてコルチゾール値が有意に低下し、セロトニンが増加、ストレス・不安尺度も改善したとの結果が報告されました。別の8週間の試験でも、アシュワガンダ群はコルチゾール値とストレスレベルが有意に低下し睡眠の質が向上したとされています。このように科学的エビデンスが蓄積されつつあり、欧米ではサプリメントとして人気です。日本でも個人輸入や一部店舗で入手可能です。※服用する場合は用量用法を守りましょう。
L-テアニン: 緑茶に含まれるアミノ酸の一種で、リラックス効果があります。テアニンは脳内でセロトニンやドーパミンなどのレベルに影響を及ぼし、同時にコルチゾールなどストレスホルモンを抑制する可能性が指摘されています。実際、テアニン200mgを摂取すると約30分後には脳がリラックスした状態で現れるα波が増加することが分かっています。カフェインによる緊張を和らげる作用もあるため、コーヒーを飲むと落ち着かない方は緑茶に切り替えるのも手です。市販のサプリ(「テアニン○mg配合」など)や、玉露・抹茶といった高級なお茶ほどテアニン含有量が多いので、休憩時間にじっくり味わうのも良いでしょう。
ラベンダー: ハーブの一種ですが、ここではラベンダー精油(エッセンシャルオイル)を取り上げます。ラベンダーの香りには鎮静効果があることが知られており、アロマテラピーでも不安軽減によく用いられます。さらに近年、ラベンダーオイルをカプセルに封入した経口製剤(商品名:シレクサンなど)による臨床試験が行われ、不安障害の症状を改善する効果が抗不安薬ロラゼパム(ベンゾジアゼピン系)に匹敵したとの結果が報告されました。これによりドイツでは医師の処方箋なしで購入できる不安改善薬として認可されています。日本では同様の製品は未承認ですが、代わりにアロマオイルを焚いたりハーブティーを飲むことでリラックス効果を得ることができます。ラベンダーの香りは副交感神経を優位にし、心身を落ち着かせるので、寝る前に枕に1滴垂らすのもお勧めです。
ロディオラ(イワベンケイ): ロシアや北欧原産のハーブで、古くから疲労回復やストレス耐性向上に用いられてきました。ロディオラの根に含まれるロサビンなどの成分が、ストレス時に乱れるコルチゾールの分泌リズムを整える作用があるとされています。一部研究では、ロディオラエキスを数週間摂取したグループで不安・疲労の指標が改善したという結果があります。アシュワガンダ同様「アダプトゲン(ストレス抵抗を高める生薬)」として注目され、サプリも出回っています。
GABA: GABA(γ-アミノ酪酸)は脳内の抑制性神経伝達物質で、リラックスした状態をもたらします。本来体内で作られる物質ですが、近年はチョコレートや飲料に添加され「ストレス軽減」を謳う商品も販売されています。研究では、高GABAトマトを用いた実験でストレスマーカーの低下が報告された例もあります。ただし市販のGABAサプリや食品のGABAが脳まで届くかは議論があります(GABAは血液脳関門を通りにくいと言われます)。それでも多くのユーザーからリラックス効果の実感が報告されており、安全性も高い成分なので、「お守り」代わりにGABA配合のおやつをデスクに置いておくのも良いでしょう。
実践ポイント: サプリメントはあくまで補助です。「これだけ飲めばOK」という魔法はありませんが、上記のようなエビデンスのある成分はうまく活用すればストレス対策を底上げしてくれます。重要なのはまず食事ありきという点です。可能な範囲で栄養バランスを整え、それでも不足しがちなものをサプリで補ってください。またサプリを試す際は一度に色々始めないことも大事です。何が自分に効いているか検証するため、1種類を数週間続けてみて効果を確認しましょう。体質に合わない場合は無理せず中止し、かかりつけ医にも相談してください。
ライフスタイルの改善:睡眠・習慣・デジタルデトックス
最後に、日常生活の過ごし方を工夫することでストレス耐性を高めるポイントを解説します。睡眠や生活習慣(ルーチン)、そして現代人特有の課題であるデジタルデトックスについて、それぞれ科学的根拠と実践法を見ていきましょう。
質の高い睡眠は最強の不安対策
十分な睡眠は、脳と心を回復させる上で欠かせません。睡眠不足の状態では前頭前野の働きが鈍り、扁桃体の反応が過剰になることが脳画像研究で示されています。冒頭でも触れたように、一晩の徹夜で翌日の不安レベルが最大30%も増加したという報告もあります。逆に、深いノンレム睡眠(徐波睡眠)は不安な記憶を整理し、心の安定を取り戻す役割があることが分かっています。これは睡眠が自然の抗不安薬のような作用を持つことを意味します。
質の高い睡眠のために今日からできることを挙げます。
就寝・起床時刻をなるべく一定に: 平日も休日も極端な夜更かし・寝だめは避け、毎日同じようなリズムで寝起きすることで体内時計が整います。規則正しい睡眠はコルチゾールの日内リズムも正常化し、朝にスッキリ目覚め日中ストレスに強く、夜は自然と眠くなる良循環が生まれます。
寝る前のブルーライトをカット: スマホやPCの画面が発するブルーライトは脳を覚醒させ、睡眠ホルモンのメラトニン分泌を妨げます。寝る1時間前以降はできるだけスクリーンを見ないようにしましょう。どうしても使う場合は画面を夜間モードにしたり、ブルーライトカット眼鏡を使うのも手です。代わりに読書(紙の本)やストレッチ、日記を書くなど穏やかな習慣で眠りに備えます。
カフェインやアルコールを控える: コーヒーやエナジードリンクに含まれるカフェインは摂取後5~7時間は興奮作用が続きます。午後遅く以降の摂取は避け、どうしてもという場合はデカフェを選びましょう。またアルコールは入眠を助けるように感じますが睡眠の質を下げ浅い眠りになります。寝酒はむしろ夜中に何度も目覚める原因となるので注意が必要です。
寝室環境を整える: 暗く静かで快適な温度の環境が理想です。アイマスクや耳栓、快適な寝具への投資も検討しましょう。最近では不安感を和らげ睡眠の質向上に寄与する**重み付き毛布(加重ブランケット)**も人気です。重い毛布で体を包むと自律神経が安定し、不安が軽減するとの研究結果もあります。
「寝る前ルーティン」を作る: 就寝前の一定の手順(例えば「入浴→ストレッチ→瞑想5分→就寝」のように)を習慣化すると、体が「これをやったら眠る時間だな」と学習し入眠しやすくなります。ぬるめの湯に浸かって深部体温を下げたり、アロマディフューザーでラベンダーの香りを焚くのもよいリラックスシグナルになります。
ルーチン化で意志力を節約
経営者は日々無数の意思決定を迫られますが、人間の意志力や判断力には認知資源の限界があります。朝から晩までスケジュールがバラバラで生活が行き当たりばったりだと、小さな選択にいちいち頭を使い、知らず知らずストレスが溜まります。これを軽減するのが生活習慣のルーチン化です。
例えば、朝のルーチンを決めておくと一日のスタートが安定します。起床後にコップ一杯の水を飲み、10分ストレッチをし、朝食をとり、新聞に目を通す——など順番を決めておけば、「次に何をしよう」と悩む余地がなくなり頭が疲れません。同様に仕事開始前のルーチン(メールチェック→当日の優先課題を3つ書き出す等)や夜のルーチン(先述の寝る前ルーティン)を持つことで、1日の区切りごとに心身のスイッチをスムーズに切り替えられます。
ルーチン化の効果は科学的にも裏付けられています。習慣化された行動は脳の中でも自動化され、前頭前野のワーキングメモリや意思決定リソースを消費しにくいことが分かっています【参考文献**】。その結果、重要な意思決定に集中力を温存でき、日常の雑事でストレスを感じにくくなるのです。またルーチンは予測可能性を生み出します。人は予測不能な状況に不安を感じやすいため、生活に適度な規則性があると安心感が得られます。
実践ポイント: まずは「朝起きてから家を出るまで」や「帰宅してから寝るまで」といった区切りの中で、毎日やる事・順番を固定してみましょう。例えば夜なら「夕食後に30分散歩→入浴→明日のToDo確認→読書20分→就寝」のように流れをパターン化します。ポイントは無理なく継続できる内容にすることです。ルーチンは一度に完璧を目指すより、徐々に身につけていく方が長続きします。習慣化されれば、ルーチン自体が心を落ち着けるアンカー(錨)のような役割を果たし、「これをやれば一日が締まる」「これをやればリラックスできる」といった安心感が生まれるでしょう。
情報洪水から一時離脱:デジタルデトックス
スマートフォンやPC無しでは仕事にならない現代ですが、デジタルデバイスの過剰な利用は私たちの脳に休まる暇を与えず、知らず知らずのうちにストレスを蓄積させます。絶え間なく届くメール・SNS通知、ニュースの速報、チャットメッセージ——こうした情報洪水に常時さらされることで、脳は常にマルチタスクを強いられ、コルチゾールやアドレナリンが慢性的に放出されやすくなります。またSNSでは他人と自分を比較して劣等感を感じたり、ネガティブなニュースを目にして不安になる「ドゥームスクロール(悪い情報を延々と見てしまう)」現象も問題視されています。
この状況をリセットするために注目されているのがデジタルデトックスです。意識的にデジタルデバイスから離れる時間を作り、脳を休める取り組みです。例えば夜寝る前の1時間はスマホを見ない、週に一度はオフラインデーを設ける、休暇中はメールチェックの頻度を減らす、といったことをするだけでも効果があります。最初は「スマホを見たい衝動」に駆られるかもしれませんが、それは脳がドーパミンの刺激を求めて落ち着かないだけです。数日繰り返せばその衝動は和らぎ、心にゆとりが出てくるでしょう。
デジタルデトックスの効果を示す研究も増えてきています。ある調査では、SNSを1週間止めた人たちは継続利用した人に比べて不安感や抑うつ得点が有意に下がったという結果が得られました【参考文献**】。また、スマホを長時間使用した日ほど睡眠の質が悪く翌日のストレス報告が増えるとの相関も報告されています【参考文献**】。適度な距離を保つことで、情報に翻弄されない主体的な時間を取り戻すことができるのです。
実践ポイント: デジタルデトックスは何も「一切スマホ禁止」にする必要はありません。以下のようなルールを決めてみましょう。
時間帯を決めてデジタル断ち: 例えば「夜9時以降はスマホ・PCを見ない」「朝起きて最初の30分はメールチェックしない」といった具合に、自分のライフスタイルに合わせて設定します。
通知をオフにする: メールやSNSのプッシュ通知は逐一オフにしておき、自分が見るタイミングをコントロールしましょう。情報に呼び出されるのではなく、こちらからアクセスする形に変えるだけで精神的な主導権が戻ってきます。
モノを使って制限: スマホを別の部屋に置いて作業する、タイマーアプリでSNS利用時間を制限する、あるいは思い切ってデジタルガジェットから離れ自然に触れる時間を作るなど、環境で縛るのも効果的です。
デジタル以外の楽しみを持つ: デトックス中に「暇だな」「退屈だな」と感じると結局スマホに手が伸びます。そこで、あえてアナログな趣味やアウトドア活動に時間を使いましょう。読書、楽器、絵を描く、料理、新しいスポーツに挑戦、あるいは自然の中を散歩するなど、五感をフルに使う体験はストレスホルモンを減らし、創造性を高めてくれます。森の中を歩く「森林浴」はコルチゾール低下効果が科学的にも確認されています【参考文献**】。
デジタルデトックスにより得られた心の静けさは、現代のビジネスパーソンにとって貴重なリソースです。情報に振り回されず自分の軸を保つためにも、ぜひ日常にデジタルフリーの隙間を作ってみてください。
人間関係:広く浅いつながりの意外な効用
ストレス対策というと運動や睡眠など自分一人で完結するものに目が行きがちですが、人とのつながりも非常に重要なファクターです。特に、「親友」や「家族」といった深い関係だけでなく、職場の同僚や昔の知人、ご近所さんなどとの「広く浅い人間関係」が精神面に良い影響を与えることが最近の研究で明らかになってきました。
心理学者はこれを**「弱い絆(weak ties)」と呼びます。強い絆(家族・親友など)によるサポートが大切なのは言うまでもありませんが、弱い絆、すなわち頻繁には会わない知人やちょっとした会話を交わす程度の関係**も、私たちのストレスを和らげ幸福感を高める効果があるのです。たとえば、毎朝立ち寄るカフェで店員さんと交わす「一言二言の会話」ですら、全く会話なしで過ごすよりその日の気分とストレスレベルに好影響を与えるという実験結果があります。人は自分が社会の一員であると感じたり、ちょっとしたポジティブな交流を持つだけで、孤独感や不安が軽減される生き物なのです。
また、強い絆に偏りすぎず多様な人間関係を持つことがストレスに強いメンタルを作ります。研究によれば、家族、仕事仲間、趣味の友人、といったように複数の社会的役割やグループに属している人ほど、健康面で良好な指標を示し長寿であるという結果があります。これは、ある領域でストレスがあっても別のつながりから支えを得られる「心理的安全網」が広がるためと考えられます。例えば会社で嫌なことがあっても、地元のサークルでのんびり過ごすことでストレスを発散できたり、家庭での悩みを職場の雑談で忘れられたりするわけです。
さらに、生物学的には**人とのスキンシップや心地よい交流で分泌される「オキシトシン」**というホルモンがポイントです。オキシトシンは別名「絆ホルモン」「幸せホルモン」とも呼ばれ、ストレスホルモンのコルチゾールを抑制する作用があります。信頼できる人とのハグや握手、あるいはペットをなでることでも分泌され、不安を和らげる効果があります。広く浅い関係でも、誰かと言葉を交わして笑顔になるだけで微量ながらオキシトシンは出ています。塵も積もれば山となる——日々の小さな交流の積み重ねがストレス耐性という山を築いてくれるのです。
実践ポイント: 忙しい経営者ほど、仕事以外の人づきあいがおろそかになりがちです。しかし意識して「弱いつながり」を維持・活用してみましょう。例えば、疎遠になっている古い友人や元同僚に久しぶりにメールを送ってみる、地元のコミュニティ活動に顔を出してみる、出張先のバーで隣に居合わせた人と少し話してみる、といったちょっとした社交を取り入れてください。ポイントは深入りしすぎず適度な距離感で交流することです。浅い関係だからこそ気楽に話せてストレス発散になる話題もあります(趣味の話などが良い例です)。また、様々なバックグラウンドを持つ人との会話は新鮮な刺激となり、視野が広がって悩みを相対化できる効果もあります。
そして、可能であれば誰かのために親切な行動をすることもお勧めします。研究により、人に親切にしたりボランティア活動を行ったりすることで自分自身の幸福度が上がりストレスが減少する「ヘルパーズハイ」と呼ばれる現象が確認されています【参考文献**】。部下や同僚をサポートしたり、困っている知人に知恵を貸したりする行為は、相手との絆を強めるだけでなく自分の脳にもオキシトシンやドーパミンを分泌させ、ストレス解消につながります。
以上、脳科学・生理学に裏打ちされたストレス解消法を見てきました。ポイントは、一つの方法だけで頑張るのではなく、複数のアプローチを組み合わせることです。例えば「よく眠り、朝に軽く運動し、日中に深呼吸でリセットし、夜はスマホを早めに切って瞑想して寝る」といった風に取り入れれば、それぞれの効果が相乗し合って不安はぐっと和らぐでしょう。また、どれも難しいことではなく小さな工夫である点を強調したいと思います。習慣になるまでは意識が必要ですが、軌道に乗ればあなたの“当たり前”となり、ストレスに振り回されない強いメンタルが築かれていくはずです。
次章では、こうした実践をサポートするための具体的な**プロダクト(商品)**をいくつか紹介します。
第3章 今すぐ使えるストレス解消アイテム
本章では、科学的な効果が期待できるサプリメント、ガジェット(機器)、書籍といったストレス対策アイテムを紹介します。前章までに述べた方法を実践する際、これらのツールを賢く利用することでより効果的かつ継続しやすくなるでしょう。いずれも実際のエビデンスに基づき選んでいます。気になるものがあれば是非チェックしてみてください。
サプリメント・食品
アシュワガンダ製品(サプリメント): 前章でも触れたストレス軽減ハーブです。例えばインド産の高品質エキスKSM-66を使用したカプセル製品などが入手可能です。研究で実証された1日300~600mg程度の範囲で服用すると、約2ヶ月でコルチゾール値低下などの効果が期待できます。ストレスが多い時期のメンタルサポートサプリとして検討してみてください。
L-テアニン配合ドリンク・サプリ: リラックス効果を得たいときに便利です。日本では「リラックスできるお茶」「テアニン○○mg配合」といった飲料やサプリが市販されています。緑茶由来なので自然で副作用がほぼなく、仕事中の緊張緩和や夜のリラックスに向いています。
マグネシウムサプリ: 食事で不足しがちな方にはサプリでの補充が手軽です。錠剤やパウダーなど形状はいろいろありますが、吸収率の高いもの(クエン酸Mg、グリシン酸Mgなど)が良いでしょう。筋肉のこわばりや緊張型頭痛の緩和にもマグネシウムは有効なので、デスクワークで肩が凝る方にもおすすめです。
高濃度EPA/DHAオメガ3サプリ: 魚臭さを抑え飲みやすく工夫された製品が多数あります。仕事で食事が不規則な方や脂っこい欧米食が多い方は、炎症体質を改善し精神状態を安定させる意味でもオメガ3補給は重要です。1日あたりEPA+DHAで1000mg以上摂れる高品質なフィッシュオイルを選びましょう。
ギャバ(GABA)配合食品: 江崎グリコ社の「GABAチョコレート」など、手軽に食べられるおやつにストレス低減を謳う商品があります。就労中のストレス低減効果を検証した研究では、GABA配合チョコ摂取群で唾液中クロモグラニンA(ストレスマーカー)の低下が確認された例もあります【参考文献**】。小腹満たししつつリラックスもできるので、休憩のお供にしてみては。
ラベンダーアロマ・ハーブティー: サプリではないですが、薬局で買えるラベンダーのアロマオイルやハーブティーも天然の精神安定剤として活用しましょう。アロマオイルはディフューザーで焚いたり、ハンカチに一滴垂らして香りを吸い込むだけでも不安が和らぎます。ハーブティー(ラベンダーやカモミールブレンド)を仕事後に飲めば、穏やかな気分でオンオフを切り替えられます。で紹介したように医療用もあるくらい効果が注目されているハーブですから、侮れません。
漢方薬: 日本では漢方も身近なストレス対策です。例えば「桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)」は不安や神経の高ぶりに、「甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)」はヒステリー症状や情緒不安定に効果があるとされます。ただ漢方は体質に合う合わないがあるので、専門医に相談して処方してもらうのが確実です。市販もされていますが、自己判断で長期服用する場合は注意しましょう。
ガジェット・ツール
スマートウォッチ/フィットネストラッカー: Apple WatchやFitbitなどは、心拍数やストレスレベルを計測し、休憩や呼吸エクササイズを促してくれる機能があります。例えばApple Watchの「Breathe」アプリは1分間の呼吸瞑想をガイドしてくれます。これらデバイスで客観的にストレス指標を見える化することで、自分の状態に気づきセルフケアのきっかけになります。睡眠トラッキング機能もあり、睡眠の質改善にも役立ちます。
マインドフルネスガジェット: 脳波や心拍変動をセンサーで検知し、瞑想やリラックスをガイドしてくれるユニークな機器も登場しています。代表的なものに、頭に装着する「Muse」ヘッドバンド(脳波で瞑想の集中度をフィードバック)や、耳たぶで脈拍を測る「Inner Balance」(HeartMath社のデバイスで、画面上のガイドに合わせ呼吸すると心拍のゆらぎが整う)などがあります。これらを使うとゲーム感覚でリラックス訓練ができ、継続しやすいとの声もあります。技術の力を借りて「心を鍛える」ことができるわけです。
重圧感ブランケット(加重毛布): 約5~11kgほどの重みがある特殊な毛布で、海外では不安や不眠に悩む人たちに愛用されています。重みが身体を包み込むことで安心感を与え、自律神経を整える効果があります。小規模な臨床では、30ポンド(約13kg)のブランケットをかけて5分横になっただけで参加者の63%に不安の低下がみられたという報告もあります。日本でも通販で購入可能です。寝つきが悪い方や夜間に不安が募る方は試す価値があるでしょう。
フォームローラーやマッサージガン: ストレスは身体の筋肉のコリとして現れることが多いです。フォームローラー(円筒形のセルフマッサージ器具)で背中や太ももをゴロゴロほぐしたり、電動マッサージガンで筋肉を振動刺激すると、筋緊張が和らぎリラックスできます。筋肉のこわばりが取れると血流が良くなり、副交感神経が働きやすくなるため心も緩みます。デスクワークで肩や背中が鉄板のようになっている方に特におすすめです。
ノイズキャンセリングヘッドホン: オフィスや飛行機内など雑音が多い環境では、それ自体が小さなストレスになります。ソニーやBOSEの高性能ノイズキャンセリングヘッドホンを使えば、周囲のノイズをカットして静寂を作り出せます。静かな環境では集中力が上がりストレスホルモンも下がるとの研究があります【参考文献**】。また、ヒーリング音楽や自然音を流せばリラクゼーション効果は抜群です。外界をシャットアウトして「自分だけの静かな空間」を持つこともストレスマネジメントの一つです。
高品質な睡眠グッズ: 睡眠改善は最優先とも言えるストレス対策なので、眠りをサポートするグッズも投資する価値があります。例えば、朝になると徐々に光を灯して自然に目覚めさせる**スマートライト(光目覚まし)は、体内時計をリセットしてスッキリ起床できるため一日を快適に始められます。いびきや騒音が気になる人向けには、耳に装着して睡眠時の不要な音をマスキングしてくれる睡眠専用耳栓(例: Bose Sleepbuds)**もあります。自分の睡眠の妨げになっている要因を分析し、それを取り除くテクノロジーを活用しましょう。
アロマディフューザー: 精油を拡散させ部屋を香りで満たす装置です。先ほど紹介したラベンダーだけでなく、柑橘系の香り(オレンジやベルガモット)は気分を明るくし、樹木系の香り(ヒノキやシダーウッド)は落ち着きを与えます。お気に入りの香りを焚きながらリラックスすると、条件反射的に「この香り=リラックスタイム」と脳が学習し、短時間でストレスオフに入れるようになります。コンパクトで静音な機種を選べば仕事場のデスクにも置けます。
書籍・学習リソース
ストレスや不安について深く理解し、対処法のモチベーションを高めるには良書との出会いも大切です。最後に、科学的知見に基づいたストレスマネジメントに関する本をいくつか紹介します。読んで実践できる内容が多いので、自己投資と思って手に取ってみてください。
『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』 (ケリー・マクゴニガル著) – スタンフォード大学の心理学講義から生まれたベストセラーです。著者は本書で「ストレス=悪者」という従来の考え方を覆し、ストレスを味方にするマインドセットの重要性を説いています。例えば「ストレス反応は体が挑戦に備えてくれている証だ」と捉える人は、ストレスを有害と信じる人よりも健康状態や仕事の生産性が良好だという研究を紹介し、読者にストレスとの新しい付き合い方を提示します。読み終える頃には、不安やプレッシャーを前向きなエネルギーに変えるヒントが得られるでしょう。科学的根拠と実践ワークが豊富で、ストレス観を劇的に変えてくれる一冊です。
『最高の休息法』 (久賀谷亮 著) – 脳神経外科医で米国認定瞑想講師でもある著者が、最新の脳科学に基づくリラックス法を紹介しています。瞑想や呼吸法はもちろん、マインドフルネス的な思考法や習慣作りについて具体例が多く、ストレスで疲れた脳をどう休ませ鍛えるかがわかりやすく書かれています。専門的な内容も平易な言葉で書かれており、特に瞑想初心者におすすめです。読めば「休むことは怠けではなく脳のメンテナンス」という認識になり、生産性向上にもつながる休息法を実践できるでしょう。
『Why We Sleep(邦題: 「睡眠こそ最強の解決策である」)』 (マシュー・ウォーカー著) – スタンフォード大学で睡眠研究に従事した神経科学者による、睡眠の重要性を説いた世界的ベストセラーです。膨大な研究結果を元に、「睡眠不足は不安やストレス耐性に甚大な悪影響を及ぼす」ことが詳細に語られています。例えば睡眠不足の人は充分眠っている人に比べて感情の起伏が激しく、対人ストレスも増えること、逆に良質な深い睡眠が精神疾患の予防・改善に重要な役割を果たすことなどがエビデンスと共に示されています。睡眠を削って働きがちな現代人に警鐘を鳴らす内容で、本書を読むと「まず眠ることが明日からのベストパフォーマンスを作る」と腑に落ちるでしょう。睡眠改善の実践的アドバイスも充実しています。
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』 (ハンス・ロスリング他著) – 異色の推薦本ですが、不安を感じやすい人にぜひ読んでほしい一冊です。我々がいかにデータではなく感情や思い込みで世界を悲観的に捉えてしまうかを解き明かし、現実の世界は良くなっている事実を示してくれます。将来への漠然とした不安には「情報の偏り」も一因としてありますが、本書を読むと根拠に基づいて楽観することの大切さがわかります。ストレス管理とは直接関係ありませんが、ストレスの原因となる悲観主義を和らげてくれるため、結果的に心が軽くなるでしょう。データに基づく冷静な思考法は、ビジネスにも通じるところがあります。
上記の他にも、認知行動療法の本や、趣味の分野の本(没頭できるもの)など、自分にフィットするものを探してみてください。本を読む時間そのものがデジタルデトックスになり、心拍を落ち着かせる効果もあります。知識は力です。理解が深まれば不安に対処する引き出しも増え、実践への意欲も高まります。ぜひ良書との出会いをストレスマネジメントに役立てましょう。
おわりに
漠然とした将来への不安は、誰にでも訪れるものです。しかし、その正体を知り上手に付き合うことで、必要以上に振り回されることなく前向きに日々を過ごすことができます。本書では、脳の扁桃体と前頭前野の関係から始まり、ホルモン・神経伝達物質の働きを紐解きながら、不安を科学的に捉えてきました。その上で、マインドフルネス・呼吸法・運動・栄養・睡眠・人間関係といった多方面からの具体的なストレス解消法を紹介し、さらにそれらを支援する商品やツールも提案しました。
大切なのは、今日できる小さな一歩です。不安を感じたらまず深呼吸をしてみる、夜更かしをやめて少し早く寝てみる、気の合う友人に連絡してみる――どれも数分からできることばかりです。それを積み重ねるうちに、脳と体は確実に変わっていきます。ストレスに強くなり、不安にとらわれない時間が増え、自分の本来のパフォーマンスと幸福感を取り戻せるでしょう。
経営者という立場は責任も大きく、ストレスフルな場面も多いでしょう。しかし、本稿で示したような科学に裏付けられたセルフケアを取り入れることで、ストレスをコントロールしながら持続可能な成功を追求することは十分可能です。不安を感じるのは決して弱さではなく、より良く生きようとする心の反応です。その信号を前向きにとらえ、適切な対策を講じることで、あなたの人生は今以上に充実し豊かなものとなるはずです。
最後に、参考文献やエビデンスを振り返り、さらなる学びを深めたい方のために出典リストを以下にまとめます。自身の感覚と科学的知識の双方を味方につけて、ぜひ「不安に強い自分」への成長を実感してください。
参考文献・出典一覧
【10】ベスリクリニック東京 心療内科 「不安、恐怖が起こる脳のメカニズム~どうやったら治るの?治療法まで~」(2021年10月6日公開) (不安、恐怖が起こる脳のメカニズム~どうやったら治るの?治療法まで~ | 働く人の薬に頼らない心療内科・ベスリクリニック東京)
【16】ながはまメンタルクリニック 「脳の扁桃体のはなし」(クリニックブログ記事, 2020年) (脳の偏桃体のはなし|クリニックの話|ながはまメンタルクリニック|読谷村の精神科・心療内科クリニック) (脳の偏桃体のはなし|クリニックの話|ながはまメンタルクリニック|読谷村の精神科・心療内科クリニック)
【18】SUNY Upstate Medical University 「Just breathe: A doctor shares his recipe for relaxation」(2023年9月1日公開) - 深呼吸によるコルチゾールやセロトニン等の変化について (Relaxation Tips | What's Up at Upstate | SUNY Upstate) (Relaxation Tips | What's Up at Upstate | SUNY Upstate)
【21】けんこう総研 「性格に合った運動でストレス管理で効果が違う!Vol.129」(2024年8月25日更新) - 運動強度とストレス軽減効果の研究解説 (性格に合った運動でにストレス管理で効果が違う!Vol.129 ~ けんこう総研: ストレス管理研修で健康経営)
【23】Kiecolt-Glaser et al. “Omega-3 Supplementation Lowers Inflammation and Anxiety in Medical Students: A Randomized Controlled Trial.” Brain, Behavior, and Immunity 25(8), 2011. - オメガ3脂肪酸摂取による不安20%減少 ( Omega-3 Supplementation Lowers Inflammation and Anxiety in Medical Students: A Randomized Controlled Trial - PMC )
【24】Singh et al. “A standardized Ashwagandha root extract alleviates stress, anxiety, and improves quality of life in healthy adults...” Medicine (Baltimore) 102(43), 2023. - アシュワガンダの服用でコルチゾール低下・セロトニン上昇を報告 (A standardized Ashwagandha root extract alleviates stress, anxiety, and improves quality of life in healthy adults by modulating stress hormones: Results from a randomized, double-blind, placebo-controlled study - PubMed)
【27】Medical News Today “Does L-theanine have health benefits?” (2024年12月24日更新) (L-theanine: Benefits, risks, sources, and dosage) - L-テアニンがセロトニン・ドーパミン・コルチゾールに及ぼす影響について
【28】Cleveland Clinic “Magnesium for Anxiety: Does It Help?” (2023年11月28日) (Magnesium for Anxiety: Does It Help?) - マグネシウムによるコルチゾール調整と不安軽減のエビデンス
【30】Kennedy et al. “Effects of high-dose B vitamin complex with vitamin C and minerals on mood and performance in healthy males.” Hum Psychopharmacol 25(6), 2010. - ビタミンB群補給によるストレス評価の改善 ( Effects of high-dose B vitamin complex with vitamin C and minerals on subjective mood and performance in healthy males - PMC )
【32】Mayo Clinic News Network “Mayo Clinic Minute: How weighted blankets may lift anxiety” (2018) (Mayo Clinic Minute: How weighted blankets may lift anxiety) - 重い毛布による不安・ストレス軽減効果に関する臨床知見
【33】Kasper et al. “Silexan in generalized anxiety disorder: A multicenter double-blind, randomized, placebo-controlled trial.” Int J Neuropsychopharmacol 17(6), 2014. - ラベンダー油製剤シレクサンの抗不安効果(ロラゼパムとの比較) (A multi-center, double-blind, randomised study of the Lavender oil ...)
【36】Stanford News 「Embracing stress is more important than reducing stress, Stanford psychologist says」(2015年5月) (Embracing stress is more important than reducing stress, Stanford psychologist says | Stanford Report) - ストレスに対するマインドセットと健康・業績の関連に関する研究(Alia Crumによる)
【40】Cornell University (Networks Blog) “Weak Ties’ Effect on Mental and Physical Health” (2020年10月2日) ( Weak Ties’ Effect on Mental and Physical Health : Networks Course blog for INFO 2040/CS 2850/Econ 2040/SOC 2090) ( Weak Ties’ Effect on Mental and Physical Health : Networks Course blog for INFO 2040/CS 2850/Econ 2040/SOC 2090) - 弱い紐帯(知人レベルの関係)の交流がストレス緩衝になるという解説
【42】UC Berkeley News 「Deep sleep can rewire the anxious brain」(2019年11月4日) (Stressed to the max? Deep sleep can rewire the anxious brain - Berkeley News) (Stressed to the max? Deep sleep can rewire the anxious brain - Berkeley News) - 睡眠不足による不安増大(30%上昇)と深い睡眠の抗不安効果に関する研究(Nature Human Behaviour掲載)
その他参考: 厚生労働省 e-ヘルスネット「ストレスと上手に付き合うために」, APA Monitor "The science of why friendships keep us healthy" (2023), Harvard Health Publishing "Understanding the stress response" (2018) など。
【著者のその他の書籍はこちら】
チエロの公式ラインはこちらをご覧ください。
いいなと思ったら応援しよう!
