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アメリカ・中国の注目サービス5選(個人向けオンライン講座・メディア事業編)


はじめに

本記事では、アメリカと中国において成長・成功しているものの、日本にはまだ進出していない個人向けのオンライン講座やメディア関連サービスをリサーチした結果をまとめます。

  • オンライン講座・メディア型のビジネス

  • 短期的に収益を上げやすい直接販売モデル(単発販売や短期間のコースなど)

  • 生成AIを活用していると価値があるもの

  • 日本市場で展開する際の文化的適応や課題についての考察

Mindvalley – 自己啓発と教育のグローバルプラットフォーム

サービス概要と成長: Mindvalleyは、心身の成長やキャリア向上など自己啓発系のオンライン講座を提供するプラットフォームです。2013年に創業し、世界135か国で事業を展開、2021年までに累計2,000万以上のユーザーを獲得するなど急成長を遂げています (Mindvalley achieves 40% growth and $150M in revenue with Stripe Billing )。著名な専門家による瞑想・健康・リーダーシップ等のコースを数百種類以上揃え、これまでに50万人超の受講生が人生を変えたとされ、SNS等含め計1,200万のフォロワーに支持されています (Mindvalley, The World's Fastest Growing Personal Development ...)。

収益モデル: Mindvalleyは直接消費者に高付加価値のコンテンツを販売するモデルです。単品の講座販売もありますが、近年は年間サブスクリプションによる全コース受け放題モデルを主軸としています。一部のプログラムは数千ドル(数十万円)規模の高単価パッケージとなっており、実際に年商1億5,000万ドル規模の売上を計上しています (Mindvalley achieves 40% growth and $150M in revenue with Stripe Billing ) (Mindvalley achieves 40% growth and $150M in revenue with Stripe Billing )。このように短期収益化に優れたビジネスモデルで、Stripe導入による決済効率化で年40%成長も達成しました (Mindvalley achieves 40% growth and $150M in revenue with Stripe Billing )。

生成AIの活用: 同社は最新技術にも積極的で、2025年にはAIコーチ「E.V.E.」を導入しました。これはユーザーの感情状態をウェアラブルデバイスで検知し、状態に応じた瞑想や学習コンテンツをリアルタイム提供するほか、ユーザー自身の声でナレーションされたパーソナルポッドキャストを自動生成するなど、生成AIを駆使した学習体験のパーソナライズを実現しています (E.V.E.: Mindvalley's AI for Personal Growth) (E.V.E.: Mindvalley's AI for Personal Growth)。こうしたAI活用により、一人ひとりに最適化された自己啓発支援を強化しています。

日本市場への適用ポイント: 日本でも自己啓発や生涯学習への関心は高まっていますが、文化と言語の壁への対応が鍵となります。Mindvalleyの大半のコンテンツは英語で提供されているため、日本展開には講座の日本語翻訳やローカル講師の起用が必要です。また、Mindvalleyのモチベーショナルでややスピリチュアルなプレゼン手法は、日本人には慎重に伝える必要があります。日本の自己啓発市場では書籍や対面セミナーが主流な中、オンライン講座形式への抵抗感を減らす工夫が重要です。競合としては国内の「Udemy(日本版)」や「Schoo」などオンライン学習プラットフォームがありますが、Mindvalleyほど包括的に自己成長を扱うサービスはまだ少なく、差別化の余地があります。 (JAPAN: CAN ONLINE THERAPY TRANSFORM OUR MENTAL HEALTH LANDSCAPE?)日本人は控えめで個人主義的な自己主張を好まない傾向がありますが、逆に匿名で参加できるオンラインコミュニティは安心感を与えうるでしょう。価格設定に関しては、日本の消費者は高額コンテンツ購入に慎重なため、分割払いや部分無料体験などで信頼を醸成する戦略が有効と考えられます。

BetterHelp – オンライン心理カウンセリングのマーケットプレイス

サービス概要と成長: BetterHelpはメンタルケア分野における最大手のオンラインカウンセリングサービスです。2013年創業の米国企業で、スマートフォンやPCを通じて有資格のセラピストによるカウンセリングを受けられます。その手軽さと専門性から利用者が急増し、2025年までに世界100か国以上で延べ500万人超が利用する規模に達しました (BetterHelp Surpasses 5 Million People Benefiting from Online Therapy Service | Business Wire)。現在3万5千人以上のセラピストをネットワークし、オンライン療法市場を牽引しています。

収益モデル: BetterHelpはサブスクリプション制による直接課金モデルを採用しています。ユーザーは週額~月額でプランを購入し、テキストチャットやビデオ通話でセラピストとやり取りします。伝統的対面療法に比べ低価格かつ即時マッチングが特長で、初回登録から平均12時間でカウンセラー紹介が行われる迅速さです (BetterHelp Surpasses 5 Million People Benefiting from Online Therapy Service | Business Wire)。単発課金ではなく継続課金モデルのため、短期間で収益を積み上げやすい構造です。同社は近年、年間数百万ドル単位の寄付による無料セッション提供も行いブランド信頼を高めつつあります (BetterHelp Surpasses 5 Million People Benefiting from Online Therapy Service | Business Wire)。

生成AIの活用: BetterHelpのサービス自体は人間のセラピストによる相談が中心であり、生成AIの前面利用は現状公表されていません。ただしマッチングの高度化や緊急時のリスク検知にAIを活用している可能性があります。一方で競合ではAIチャットボットを用いたセルフヘルプ(WysaやWoebotなど)が登場しており、BetterHelpでも将来的にAIによるカウンセリング補助や会話分析を導入する余地はあります。

日本市場への適用ポイント: 日本でも近年メンタルヘルスへの関心が高まりつつありますが、心理相談に対する社会的スティグマ(偏見)が根強く、対面相談を敬遠する人が多い現状があります (JAPAN: CAN ONLINE THERAPY TRANSFORM OUR MENTAL HEALTH LANDSCAPE?) (JAPAN: CAN ONLINE THERAPY TRANSFORM OUR MENTAL HEALTH LANDSCAPE?)。BetterHelpの非対面・匿名性の高いオンライン相談は、日本でもこの課題を緩和できる可能性があります。実際、日本ではメンタル不調者の約3分の2が専門家に相談しておらず (JAPAN: CAN ONLINE THERAPY TRANSFORM OUR MENTAL HEALTH LANDSCAPE?)、オンライン療法はそのギャップを埋める新たな手段となり得ます。適用にあたっては、日本語話者のカウンセラー拡充とプラットフォームの日本語化が必須です。また、医療保険適用外のカウンセリング費用をユーザーが全額負担する必要がある点も普及のハードルです (Reliability and Validity of the Japanese Version of the Barriers to ...)。競合環境では国内でもオンライン専門カウンセリング(例:東京メンタルヘルス (JAPAN: CAN ONLINE THERAPY TRANSFORM OUR MENTAL HEALTH LANDSCAPE?)や産業医紹介サービス等)が出始めていますが、市場はまだ成熟しておらず、先行者利益を得られる可能性があります。文化的には「悩みを他人に相談するのは甘え」といった価値観が残るため、啓発コンテンツや成功事例の紹介を通じ利用の抵抗感を下げるマーケティングが重要でしょう。さらに、日本独自のニーズ(職場のメンタルヘルス、育児ストレス等)に合ったカウンセリング分野の充実も求められます。

Duolingo – ゲーム感覚で学べるAI対応の語学学習サービス

サービス概要と成長: Duolingoは語学学習プラットフォームとして世界最大級のユーザー数を持つ米国発のサービスです。スマホアプリでゲームのように外国語を学べる手軽さから利用者が拡大し、全世界で5億人以上が登録しています。特に2020年代に入ってから日本を含む各国で利用者が急増しており、日本国内ユーザーも過去3年で5倍に増加しました (Duolingo's Japan user base increases fivefold)。創業者のルイス・フォン・アーン氏は2023年に来日し、日本市場を重要視する姿勢を示しています (Duolingo's Japan user base increases fivefold)。

収益モデル: Duolingoは基本無料のサービスですが、広告収入と有料版「Super Duolingo」のフリーミアムモデルで収益化しています。ユーザーは無料でレッスン利用できる一方、広告非表示やハート無制限など追加機能に月額課金でアクセスできます。2023年には最高額プラン「Duolingo Max」を導入し、より高度なAI会話機能を提供するなど、サブスクリプションへのアップセルを図っています。語学コース自体は社内開発で原価が低いため、利用者規模に比例して短期間で収益を上げやすいビジネスといえます。

生成AIの活用: Duolingoは語学学習に生成AIを積極活用している点で先進的です。OpenAI社のGPT-4を組み込んだ「Explain My Answer」「Roleplay」機能では、ユーザーの解答に対するAI解説やAIキャラクターとの会話練習が可能となりました (Calm Enhances Personalised Recommendations with GenAI) (Calm Enhances Personalised Recommendations with GenAI)。このようにAIが個々の学習状況に合わせてフィードバックや追加練習相手を務めることで、パーソナライズされた学習体験を実現しています。また、学習者の解答データを元にAIが弱点を分析し、出題内容を調整する仕組みも取り入れています。生成AIによるリアルタイム対話練習は、人間の教師なしでもスピーキング訓練を可能にし、語学習得のハードルを下げています。

日本市場への適用ポイント: 日本では英語学習ニーズが非常に高く、市場規模はオンライン学習から留学産業まで含め数千億円規模に及びます (Online Education - EU-Japan Centre)。Duolingoのカジュアルな学習法は、忙しい社会人や学生のスキマ時間学習にマッチし、日本でも受け入れられつつあります。ただし本格的な普及には日本語話者向けコンテンツの最適化が必要です。現在もアプリは日本語対応していますが、例文や文化的な話題を日本人学習者に馴染み深いものにすることで継続率を高められるでしょう。競合として、日本には「スタディサプリENGLISH」やオンライン英会話(DMM英会話やレアジョブ)など既存サービスがあります。Duolingoの強みである無料利用やAI会話機能は、価格敏感な層や対人レッスンに抵抗のある層に訴求できます。一方で、学習効果のアピールも重要です。ゲーム感覚とはいえ成果が見えにくいとユーザー離脱に繋がるため、例えば「◯日で◯点スコアアップ」など日本人に響く実績データや、AI機能を使った学習者の成功事例を提示することが有効でしょう。文化面では、日本人は誤答や失敗を他人に見られることを恥じる傾向がありますが、Duolingoはプライベート学習で失敗を恐れず挑戦できる利点があります。また、キャラクター(フクロウのデュオ)による親しみやすい演出は日本のユーザーにも受け入れられており、今後さらにブランドローカライズ(例えば日本向けマスコット展開)を進めることで認知度向上が期待できます。

中国の注目サービス(個人向けリスキリング・自己開発)

得到(Dedao)– 知識とスキルの有料コンテンツプラットフォーム

サービス概要と成長: 得到(Dedao、「得る」の意)は、中国で急成長を遂げたオンライン知識提供プラットフォームです。2015年に有名ネット番組ホスト羅振宇氏が立ち上げ、専門家や著名人による音声講座・コラムを中心に展開しています。中国では情報過多による「知識焦慮(知識不安)」が都市部中産層に広がる中、「プロが厳選した知識をお金で買う」というコンセプトが支持され (Why Money Can’t Buy You Knowledge — Except in China )、2018年時点で累計144万件以上の有料購読を販売し、1日あたり2万人の新規ユーザーが流入する勢いでした (5 Online Education Platforms in China You should Pay Attention to in China)。短い音声で本の要点を解説する「1日1冊の読書」サービスなど独自色が強く、中国の有料デジタルコンテンツ市場を牽引する存在です。

収益モデル: Dedaoは単発購入と定期購読を組み合わせた直接課金モデルです。ユーザーは興味に応じて個別の音声講座や電子書籍を購入できるほか、年間会員になると毎日の書籍要約音声や人気講座をまとめて利用できます。代表的コンテンツとして年間¥3,500程度の「好好說話(上手な話し方)」講座やビジネス時事解説コラムが人気で、それらの購読料収入が主要な収益源です (Ximalaya, Dedao and more: the boom of Chinese paid audio content | KrASIA)。また関連書籍やグッズのEC販売も行い、マルチチャネルで収益化を図っています (5 Online Education Platforms in China You should Pay Attention to in China)。音声中心で制作コストを抑えつつ数百万規模のユーザーにリーチしており、高収益率かつ早期に黒字化しやすいモデルとされています。

生成AIの活用: 当初提供コンテンツは専門家による人力制作でしたが、生成AIは将来的な付加価値提供に寄与し得ます。例えば膨大な蓄積コンテンツを要約したり、ユーザーの関心に合わせてAIが講義内容をレコメンドするなどが考えられます。実際、中国の音声プラットフォーム各社はAI音声合成を取り入れ始めており、Dedaoでも人気講師の声をAI合成して新コンテンツを自動生成する可能性があります。また利用者のフィードバック分析にAIを活用し、新たな講座テーマの企画立案に活かす動きも予想されます。現在具体的な導入事例は公表されていませんが、同社が属する有料知識市場全体がテクノロジーで進化している中、DedaoもAI活用によるサービス拡充を模索しているとみられます。

日本市場への適用ポイント: 中国で成功した「知識をお金で買う」モデルは、日本でも潜在ニーズがありますが、文化的適応が必要です。日本では知識習得はこれまで本や学校教育、無料のWeb情報で賄う意識が強く、「情報にお金を払う」習慣は中国ほど一般的ではありません。しかし近年ビジネスパーソン向けに本要約サービス「Flier(フライヤー)」が数万人の有料会員を獲得するなど、市場の芽は出ています。Dedaoが日本展開するなら、まずコンテンツの日本語化と国内専門家の起用が不可欠でしょう。中国では羅振宇氏自身のブランド力で集客しましたが、日本でも同様に人気インフルエンサーや識者との提携が有効です。また中国ユーザーは通勤時などに音声学習を取り入れていますが、日本でも通勤電車内でのスマホ音声コンテンツ消費は十分考えられます。競合環境としては、日本にはNewsPicksや東洋経済オンラインなどビジネス情報メディアがあり、多くは広告モデルですが一部有料記事も増えています。Dedao方式の体系立った講座提供はユニークですが、価格設定は日本人感覚に合わせ慎重にすべきです(中国での198元≒3,600円/年は日本ではやや高く感じられる可能性があり、まずは月額数百円程度の入門プラン設定など検討)。さらに、日本の消費者は中国発サービスに慎重な傾向もあるため、ローカル企業との提携や日本法人設立による信頼確保も重要でしょう。総じて、日本ではまだブルーオーシャンに近い有料知識配信マーケットを開拓できるチャンスがありますが、「教養」「生涯学習」といったポジティブな文脈でマーケティングし、日本人の学びのモチベーションに訴求する戦略が求められます。

KnowYourself(知我探索)– ミレニアル世代向けメンタルヘルス情報サービス

サービス概要と成長: KnowYourself(简称「KY」)は、心理学に関するコンテンツ配信とデジタル相談サービスを提供する中国のメンタルケア・自己洞察プラットフォームです。2016年に創業し、まずWeChat上で心理学コラムを発信したところ若者の共感を呼び、2018年までにソーシャルメディア累計フォロワー数約400万に達しました (Millennial Misery Fuels Online Pop Psychology ) (Millennial Misery Fuels Online Pop Psychology )。20~30代の大学生・若手社会人を中心に「不安」「孤独」「自己肯定感」など繊細なテーマの記事がヒットし、現在は総ユーザー数2,000万超に拡大しています (KnowYourself - Digital Therapeutics Alliance)。2020年には自己ケア用のアプリ「Eclipse」をリリースし、オンラインコミュニティやセルフチェックツールを提供するなど事業を多角化しています (KnowYourself - Digital Therapeutics Alliance)。

収益モデル: KnowYourselfは当初SNSで無料コンテンツを配信してファン層を醸成し、現在では有料サービスでマネタイズを図っています。具体的には、心理テストやセルフケア用コンテンツの有料版、オンライン相談(カウンセリング)マッチングサービス、関連グッズ(書籍やセルフケア手帳)の販売など複数の収益源があります。2021年にはシリーズB資金調達を行い (Investing in mental health services in China | Eight Roads)、本格的にデジタルメンタルヘルス事業へ投資しています。アプリ内では一部プレミア機能をサブスクリプション提供しており、たとえば専門家監修のセルフセラピーコース受講や、コミュニティ内イベント参加権など継続課金モデルも取り入れています。中国におけるメンタルヘルス市場は発展途上で、公的支援が限られる分、個人が自己投資する余地が大きく、KYはその草分け的存在です (Millennial Misery Fuels Online Pop Psychology )。

生成AIの活用: KnowYourself自体はまだ生成AIを前面には出していませんが、将来的なAIカウンセラーやチャットボットの導入が考えられます。中国では会話AI「Xiaoice(小冰)」などが感情サポートに用いられてきた経緯があり、KYでも膨大なユーザー相談データを活かしてAIが悩み相談に答えるサービスを開発する可能性があります。また、ユーザーの感情データを分析し適切なセルフケアコンテンツをレコメンドするなど、AIによる個別化サービス強化にも期待できます。現時点では、KYは主に人間のカウンセラーやライターがコンテンツ提供していますが、裏でユーザー行動分析に機械学習を使い始めていると推察されます。生成AI活用はまだ「なお良い」段階ですが、今後の競争力アップにつながるでしょう。

日本市場への適用ポイント: KnowYourselfが扱う若者のメンタルヘルスというテーマは、日本でも重要性を増しています。日本でも20代を中心に「生きづらさ」や「自己肯定感の低さ」が社会問題化しつつあり、心のケア情報へのニーズはあります。ただし、日本ではメンタルヘルスに対するオープンな議論は中国以上に少なく、KYのような率直な心理コンテンツがどこまで受け入れられるか慎重に見極める必要があります。展開する場合、まずコンテンツのローカライズが不可欠です。たとえば中国で人気の記事テーマ「他人の目を気にしすぎる心理」などは日本でも共通しますが、その背景にある文化(儒教的な対人関係観など)は両国で異なる部分もあります (JAPAN: CAN ONLINE THERAPY TRANSFORM OUR MENTAL HEALTH LANDSCAPE?)。日本向けには、日本人の価値観(和を重んじる、人前で本音を語りにくい等 (JAPAN: CAN ONLINE THERAPY TRANSFORM OUR MENTAL HEALTH LANDSCAPE?))に合わせた切り口で記事を書く必要があるでしょう。競合状況として、日本にはKYのようにSNS発で心理学情報を発信するメディアは目立って存在しません。一部、精神科医がTwitterやブログで情報発信していますが体系立ったプラットフォームは少なく、競争相手は断片的な情報源(書籍、掲示板等)と言えます。従って、先行優位性は高いですが、同時にユーザーに新しい価値提案をする難しさもあります。日本でローンチするなら、まず無料の良質コンテンツ配信で信頼を得つつ、一部プレミア機能(例えばセルフチェックテストの詳細レポートや専門家Q&Aなど)を有料化するフリーミアム戦略が考えられます。文化面では、日本人利用者は匿名性を非常に重視するため、ユーザーコミュニティ機能はニックネーム制にする、プライバシーポリシーを明確化するなど配慮が必要です。また「自己分析」や「内観」といった言葉はポジティブに受け取られやすいので、サービス説明には「メンタルヘルス」よりも**「自己理解・自己成長支援」**といった表現を用いると抵抗感が薄まるでしょう。以上より、KYの日本展開は十分可能性がありますが、コンテンツと文化のチューニングが成功の鍵となります。

Liulishuo(流利说)– AI英語講師によるリスキリングサービス

サービス概要と成長: Liulishuoは中国発のAI英語学習アプリで、直訳すると「流暢に話そう」の意味です。2012年に上海で設立され、業界初の「AI英語教師」を掲げて注目されました。英語スピーキング練習に特化し、発音や会話力をAIが評価・フィードバックする仕組みで人気を博し、2018年時点で登録ユーザー7000万(有料会員100万以上)に達しています (Liulishuo Case Study - AWS)。中国全土から英語学習者を集め、米国NASDAQにも上場した実績があります。近年はIELTS(英語試験)対策版やキッズ向け版も展開し、総合的なオンライン語学学習ブランドへ成長しました。

収益モデル: LiulishuoはFreemium+コース販売型モデルです。基本的な発音チェック機能などは無料開放し、大量の利用者を獲得しました。その上で、有料で受講できるAIカリキュラム(例:職場英語コース、試験対策コース)を提供し直接収益化しています。有料コースは数ヶ月単位で数百元(数万円)と高単価ですが、AIによる個別指導で効果が高いと評判です。また企業や教育機関向けにAI英語研修サービスを販売するB2B収益もあります。ユーザー数の割に講師人件費が不要なため利益率が高く、スケールしやすいモデルです。一方で成果コミット型サービス(結果保証)の要素も取り入れ、学習継続率を上げる工夫も行っています。

生成AIの活用: Liulishuoの最大の特徴が生成AI(および音声AI)の活用です。同社は中国人の英語発話データから独自のAI教師を開発しており、ユーザーの発音を音声認識しスコア評価するとともに、適切な練習問題を次々と生成します (Liulishuo: AI English Teacher - Case - Faculty & Research)。ユーザーはスマホに向かって話すだけで、AIとの対話型レッスンが進行し、まさに24時間対応のパーソナル教師がいる感覚です。最近では大規模言語モデルを組み込んで会話シナリオをより多彩に生成し、より人間らしい応答でロールプレイ練習ができるよう改良が加えられています。これらのAI技術により、一人ひとりの習熟度に合わせたアダプティブ学習が実現しており、「AI英語教師」はLiulishuoの代名詞となっています (Liulishuo: AI English Teacher - Case - Faculty & Research)。音声合成技術も駆使し、発音の手本提示や聞き取り教材も自動生成されます。総じて、生成AIを全面活用した語学学習の先駆け的存在です。

日本市場への適用ポイント: Liulishuoは中国人向けに最適化されているため、そのまま日本に持ち込むことはできませんが、AIによる語学リスキリングサービスという観点で日本市場にも示唆があります。日本人の英語スピーキング力向上ニーズは高く、従来は英会話学校やオンライン英会話が主流でした。Liulishuo型のAI英会話アプリは、日本でも注目され始めており、実際に類似コンセプトの国内サービス(例えばTerraTalkなどAI講師アプリ)が登場しています。日本市場に適用するには、UIを完全な日本語対応にすることに加え、日本人学習者の弱点に即した教材設計が重要です(例えばRとLの発音区別や、日本人がつまずきやすい文法項目を重点的に扱う等)。また、中国では英語習得が出世や受験に直結する動機がありますが、日本人の場合「仕事で必要」「趣味・自己啓発」など動機の多様性があるため、それぞれに合ったコース設計・宣伝が必要でしょう。競合として、ディープラーニングを活用した発音矯正アプリや、Duolingoのような総合学習アプリ、日本企業のオンライン英会話サービスがしのぎを削っています。Liulishuo的な完全AI教師の強みは、低コスト・好きな時間に話せる点です。人前で英語を話すのが恥ずかしいと感じる日本人には、AI相手なら失敗を恐れず練習できるメリットが訴求できます。一方で、発音や会話をAIに評価されることに不安や疑問を持つ層もいるため、AIの信頼性を証明するデータ(例えば「○○大学の研究で効果検証済み」等)を示すと良いでしょう。価格設定も鍵で、日本の個人向け語学サービス相場(オンライン英会話月1万円前後)を参考に、AIサービスならではのコスト優位性をアピールできます。文化面では、日本人学習者はゲーム要素よりも「結果重視」志向が強い傾向があるため、スコアの可視化や資格試験との連動機能(例:TOEICスコア推定)を盛り込むと受け入れられやすいでしょう。総じて、生成AIを用いた語学リスキリングは日本でも有望な分野であり、Liulishuoの知見を取り入れたサービス展開には大きなビジネスチャンスがあると考えられます。

ビジネス機会とまとめ

米国・中国におけるこれら成功サービスはいずれも個人のスキル向上やメンタル向上ニーズを捉え、直接課金モデルで急成長している点が共通しています。そして生成AIの活用によって従来は人手に頼っていた指導やコンテンツ作成をスケールさせ、パーソナライズドな体験を提供できていることも重要な成功要因です。日本市場でもリスキリングや自己啓発、メンタルケアへの関心は高まっており、上述のサービスコンセプトを持ち込む余地は十分あります。しかし、各サービスごとに言語・文化・競合状況へのきめ細かな適応戦略が必要です。

特に、日本独自の消費者心理として「信頼性への重視」「匿名性の好み」「成果実証への要求」が挙げられます。これらに対応しつつ、現地パートナーとの協業やマーケティングローカライズを行えば、紹介したサービスはいずれも日本で新たな市場を開拓し得るでしょう。例えば、Mindvalley型サービスなら包括的な自己成長プラットフォームとして企業の福利厚生ニーズともマッチし得ますし、BetterHelp型サービスなら不足するカウンセリング需要をオンラインで掘り起こせます。DuolingoやLiulishuo型サービスは生成AIでコスト効率よく語学教育を提供し、人材のスキルアップ支援につながります。Dedao型サービスは日本の社会人の学び直しニーズや教養ニーズに応える新ビジネスとなる可能性がありますし、KnowYourself型サービスは若年層のメンタルヘルスケア市場を創出するでしょう。

要するに、海外で実績ある個人向けサービスをローカライズ展開することで、日本においても新たなビジネス機会を捉えることが期待できます。それぞれのケースで文化摩擦や競争はあるものの、成功事例の示すプロダクトマーケットフィットの本質(ユーザーの悩みを直接解決し早期に価値提供すること)を押さえ、適切にローカライズすれば、高成長が見込める領域です。本調査を踏まえ、日本市場の特性に合った戦略でこれらサービスモデルを展開することで、リスキリング・メンタルケア・教育・自己啓発分野における大きなビジネスチャンスを実現できるでしょう。

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