公務員経験がある講師が与えられるメリットは何か?どの程度の経験があることが望ましいか?
ここ数年の公務員試験予備校業界の動向を確認していると、
以前に比べて、
公務員としての経験をアピールする講師が増えてきたように感じます。
※「公務員試験合格実績」ではなく、「公務員の経験」である点をご確認ください。前者は以前からありましたが、後者はあまりいなかったように記憶しています。
ここで確認しておきたいことは、
公務員として働いた経験があることは、
公務員試験の指導にどのようなメリットを与えるか?
という点です。
加えて、
どの程度の公務員としての経験があることが望ましいか?
という点も上げられます。
順番にご説明していきます。
まず、
公務員としての経験があることは、
公務員試験の指導にどのようなメリットがあるのでしょうか?
間違いなく言えることは、
講師自身が公務員試験を受験して合格した経験がある、
という点です。
受験経験があるかどうかによって、指導するリアリティが変わってきます。特に、公務員試験は、学習範囲が広く、資格試験の要素と就職試験の要素の両方を併せ持つ、という特徴があることから、
受験経験者(合格者)だからこそ、説得力を持って語れることがあります。
公務員試験対策講座が抱える、他の資格試験と異なる特徴として、
合格者の受験指導者が(非常に)少ないという点があります。
他の資格試験の受験指導では、合格者である実務者が教えることが一般的です。合格していない人が教える方が珍しいといえるでしょう。
(他の資格試験とは、司法試験や公認会計士試験などの国家資格試験を想定していただくと分かりやすいと思います。)
他方で、公務員試験の場合、合格者は基本的に就職するため、予備校に講師として残ることはほとんどありません。
また、合格者は一通り勉強しているものの、試験科目である法学、経済学等の専門科目を教えられるほどのレベルに達していることは、ほぼありません。
このため、他の資格試験の講師や、大学受験の講師など、
公務員試験の合格者ではない講師が教えることが当たり前になっているのです。
※上記の講師の教育レベルの是非は別問題となります。この点は個々の講師の属性によるものであり、その内容は技量、研鑽次第だからです。公務員試験業界の講師について、構造的に、上記のような状態にあるという点をご理解いただければと思います。
ここで、問いを確認しましょう。
問いは、
公務員としての経験が、公務員試験の指導にどのようなメリットになるか?
でした。
結論から申し上げると、
実際に公務員として働いて、そこで経験した業務内容、職場の人間関係などは、択一対策よりも、論文対策、面接対策に生きてくることになります。
大卒程度の試験では択一試験対策が中心になり、論文対策はおまけのようなもので、面接対策は最後に一気に行う、というパターンは、よくみられるところです。
ところが、公務員としての実務で、択一対策が学んだ知識がそのまま活かせることは、それほど多くありません。
配属部署にもよりますが、間違いなく使うのは、行政法くらいです。
数的処理、経済学、政治学、行政学、社会学、経営学等を直接的に活かして仕事することは、まずありません。
区民や取引先業者との応対業務、係長、課長、部長などの上長に向けた資料作成等の実務を通じて身に付ける力は、論文試験、面接試験で、採点者側が求める能力を的確に把握することに役立つことになります。
以上から、
公務員として働くことにリアリティを持って、論文試験、面接試験の対策を進めることができる点が、公務員としての経験を持つ講師の最大の強みといえるでしょう。
※もちろん、講師として研鑽を重ねて択一対策に強みを発揮する方もおおくいらっしゃいます。実際に強みを活かすかどうかは別問題であり、上記は分析上の整理としてご理解いただければと思います。
次に、
もう一つの問いを確認しましょう。
それは、どの程度の公務員としての経験があることが望ましいか?
ということでした。
一見、意地悪な問いのように見えますが、
実は、この問いは公務員として働くことと密接に関連しています。
どういうことか、と言いますと、
公務員として働く場合、一人前になるのに時間がかかる、ということです。
通常、公務員として働いても、若手の係員時代、ざっくり言えば1~3年目くらいまでに、係における重要な業務を単独で任されることはありません。
単純作業や簡単な決裁、資料作成、ルーチン業務などの業務経験を積んで、徐々に力を身に付けていき、5年目以降くらいに、1人前扱いを受けながら(上司の陰のサポートを受けつつ)業務を遂行していく、という流れが一般的です。
併せて、役職によっても担う職責が変わってきますので、一定レベル以上の業務を遂行する経験を積むためにには、主任、係長などのポジションになることが必要です。
公務員の業務は、議員対応、情報公開請求、住民監査請求などを受けるリスクを常に抱えており、仕事を進めるためには、どうしても一定の経験が必要になってくる、という特徴を有しています。
以上、ざっくりと公務員としての働き方を説明してきました。
民間企業でも、同じようなところは多いのではないでしょうか。
業務内容が個々の市民に与える影響の大きさ、公務の持つ業務としての重さを考えれば、納得いただけるのではないかと思います。
ポイントは、3年間程度の公務員としての経験は、公務員としての経験を受験指導に活かすには十分とはいえない側面がある、ということです。
受験指導において、経験を踏まえたアドバイスをするといった受験対策に関しては支障ないと思いますが、公務員として一定の職責を持って働く、という側面を扱うには十分とはいえないという意味です。
もちろん、公務員としての経験がないよりは、あった方が良いです。
これは間違いなく言えることです。それくらい公務の世界は独特だからです。公務員の友人や知人と話していて、いまいち仕事等の感覚が合わないと思ったことがある方は多いことと思います(苦笑)。
最低でも主任、できれば係長までは経験があることが望ましいといえるでしょう。それがないからダメ、なんてことはないですが、公務員として一人前に働いた経験を伝えていくためには、この程度の職責・経験は必要ということです。(職責を持って働いたことがある方にはご理解いただけると思います。)
以上、簡単ではありますが、公務員としての経験が公務員指導に与える影響について考察してみました。あまり分析情報が多くない論点について整理してみたつもりです。
公務員予備校や公務員試験系のサービスを利用する際に参考にしていただければ幸いです。
※これは余談ですが、採点者である課長以上がベターでは?と思われる方もいらっしゃると思います。不思議なことに、そこまでいってから予備校講師に転進される方は、ほとんどいないのが現状です(一部、面接対策でいらっしゃいます)。ただ、講師として受験生に教える技術や経験があるかどうかは出世したかどうかとは全くの別問題なので、結局、その当たりは個々の講師次第ということになります。