かにた婦人の村

先日、南房総へ一泊二日の旅に出た。
戦跡巡りのスタディツアーの最後に、かにた婦人の村を訪れた。
かにた婦人の村とは、1965年に開設された日本で唯一の「婦人保護長期収容施設」である。
「売春防止法の要保護女子」の中でも知的障がいや精神障がいがあり、自立が困難な女性たちの長期支援施設。
もともと軍用地だった場所(海と山に囲まれた丘)にあり、戦後土地の払い下げを受け、キリスト教プロテスタント系の社会福祉法人が運営している。

畑や酪農場や居住用の家や共同施設などが点在するコロニーだが、長期的に居住できる施設という特性上入所者の高齢化が進み、現在は酪農など体力的に負荷の大きい作業は行っていないものもある。
現在はDVや性被害者で障がいなどの自立困難な特性がある若い女性も暮らしている。
いわばシェルター的な施設でもある。
気軽に見学していいような種類の場所ではないと思った。だって困難を抱える女性たちの生活の場なのだから。

この「かにた婦人の村」の敷地内に慰霊塔がある。
塔に刻まれた文字は「噫(ああ)従軍慰安婦」 
安房文化遺産フォーラムのガイドさんに教えてもらわなければ読めなかった。
日本で唯一の「声をあげた」従軍慰安婦だった城田すず子さん(仮名)もこの「かにた婦人の村」でその生涯を終えた女性のひとり。

ガイドさんに聞いた城田さんの生涯は過酷なものだった。
東京の比較的裕福な商家に生まれた城田さんは親の借金がもとで神楽坂に売られる。
背負わされた借金は減ることなく城田さんはあちこち転売され、やがて東南アジアで従軍慰安婦となる。
読み書きそろばんなどの基本的教育を受けていた城田さんは、従軍慰安婦たちのマネージャー的役割を担っていたそうだ。

敗戦となり、足手まといとなる女性たちはジャングルの中に取り残されたりして打ち捨てられたそうだ。
命からがら日本に戻ることが出来た城田さんは、10代の頃から性産業でしか働いたことがなく生きていくのが困難な状況だった。
戦後の混乱期で人々はその日の暮らしに汲々としている時代である。

しかも城田さんの妹さんが、姉(城田さん)が売春婦であったことを恥じて悩んで自死するという悲劇にも見舞われる。

そんなどん底状態の城田さんが、電車内に置き忘れていたサンデー毎日の記事にあった深津神父(かにた婦人の村の創設者)が開設していた練馬区大泉にある婦人保護施設のことを知る。

それを読んだ城田さんは、深津神父を訪ね婦人保護施設で暮らしたい「生き直したい」と言ったことがきっかけで、最初は都内の婦人保護施設に入所する。
それまでの無理がたたって背骨を骨折するなど身体的にボロボロの状態だった城田さんは、最終的にかにた婦人の家に暮らすことになったそうだ。

ここにある従軍慰安婦の碑は、城田さんの希望で作られた。
この碑を韓国のテレビメディアが取材してドキュメンタリー番組を放送したことが、韓国での慰安婦問題に大きく影響を及ぼしたそうだ。

城田さんは手記を残していて、そこには従軍慰安婦は朝鮮半島から来た女性たちだけでなく、中国や東南アジア各国、そして日本から来た人もいたと書かれているが、日本人で従軍慰安婦だったと声を上げたのは城田さんひとりなのだそうだ。

ガイドさんから、こうした「かにた婦人の村」入所者だった女性の人生を聞いて、ここで暮らす人たちは似たような過酷な人生を送らざるを得ず、知的障がいや精神障がいといった特性ゆえに性産業に従事せざるを得ない状況に追い込まれたり、性暴力や性被害、DVの被害を受けて居場所をなくして、この地にたどり着いた人たちなのだと、思い知らされた。

酷暑の中の戦跡巡りスタディツアーに疲れたとか暑いなんて言っている自分がひどく甘えた存在に思えてしまった。

次に礼拝堂の中を案内してもらう。
礼拝堂の地下には納骨堂があり、ここで生涯を終えた入所者や施設関係者の骨が収められている。
黙祷をしてから見学。
うまく表現できないが、居場所のなかった女性たちがここに安住の地を見つけ、生涯を終え、礼拝堂の中の納骨堂に眠ることができたことは、入所している女性たちにとって本当に安心して暮らせるところなんだろうなと思った。

自立しなきゃいけないとわかっていてもそれが難しい人が、入所施設に期限を決められることなく暮らすことが出来て、自分たちが出来る範囲のことをやりながら、安心して年老いていくことが出来る場所なのだ。

今この「かにた婦人の村」は施設の老朽化や、入所者のニーズに合わせた設備建設など、これからも存続するための環境整備を必要としている。

この場所を訪れて、女性差別・性暴力・障がい者差別・高齢化問題・住まいの貧困・社会福祉の脆弱さ・セーフティネットの問題などの社会課題は地続きなのだということを実感させられた。

かにた婦人の村についての記事

性を傷つけられた女性たちに寄り添って

https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/254/

「日本で唯一の婦人保護長期入所施設」かにた婦人の村を訪ねて。

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story-kanita-fujin_jp_5f335c03c5b6fc009a5f006b

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https://readyfor.jp/projects/kanita-bansou

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