【檜原合宿を終えて】それまでは通り過ぎる風景だった“木”がどんと目に入ってくるようになった〜学生インタビュー〜
「デザイナーとして本当に大切なことは現場で見たり聞いたりしたことを手掛かりに、自分で思考すること」。
前回のインタビューで、ゼミを主宰する林秀紀准教授が話していた言葉です。
「木のおもちゃづくりはネットで調べるだけでは足りないし、現場に行かないと分からないこともある」と、ゼミの開始からわずか1ヶ月の4月下旬、フィールドワーク・檜原合宿を実施しました。
合宿は以下のスケジュールで行われました。
参加したのは桜美林大学ビジュアル・アーツ専修、林ゼミの全13名(3年生)。受け入れる東京チェンソーズからは代表の青木を初め、プロジェクトを担当する高橋と鹿毛のほか5名。1日目夜のBBQ懇親会にはさらに5名が参加しました。
内容は、今回のプロジェクトの背景として欠かせない森のほか、おもちゃの材料となる木、それを加工する工房、完成したおもちゃの遊び方を知ることできるおもちゃ美術館など、体験・体感してほしいものが盛りだくさん、ボリューム満点の1泊2日となりました。
そこで気になるのが、合宿に参加する前と後の、学生の森や木に対する想いに変化です。
合宿からおよそひと月が過ぎた6月初旬。参加したゼミ生全13名の中、村田遥香(むらたはるか)さん、木内菜々美(きうちななみ)さん、笹川媛香(ささがわひめか)さんの3名にお話を伺いました。
東京にも自然豊かな森があり、同時にそこには人の暮らしもある
━━まずは、合宿で一番印象に残っていることを教えてください。
村田:景色、空気感です。緑が広がる自然の中で過ごした経験が全然なかったので、もっと早く知っていたかったです。二十歳になってやっと知れました。
木内:実家が静岡なんですが、東京は都会のイメージしかなかったので、まず山があることに驚きました。檜原がこんなに自然豊かなことを知って、なんか温かい、懐かしい気持ちになりました。空気もいいし…。ここ住みたいなと…
それに木がいっぱい、まっすぐ綺麗に並んでるのを見て、幻想的な気持ちも感じました。
笹川:森の広さと緑の豊富さにまず圧倒されたんですが、同時に森の下の方には学校があったりして生活してる人がいて…。山だけじゃなくて、人の暮らしも一緒にあるんだということが印象に残ってます。
デザインのプロセスが学べると林ゼミに参加
━━そもそも林ゼミに入った動機は?
笹川:もともとはプロダクトではなくグラフィックデザインをやってたんですが、ゼミの事前説明会でモノを作るということには、どんなニーズがあって、どんなアイデアが必要で、それを形にして、人の手に渡して、そこで反応を得て、次にどう活かすか…。そういうサイクルあると聞きました。
今までやってきた平面のデザインとは形が全然違ってきますが、今後、デザイン業界でやっていくに当たって、そのサイクルの経験は必要だと思い、挑戦する意味でこのゼミを希望しました。
村田:私は高校生の頃から5〜6年、母が働く中学校の図書室で使う栞やブックカバーを作っていました。
結構、先生方に喜んでいただけていたようで、実は少し前まで自分のやりたいことが絞れていなかったんですが、そういう、人に喜ばれることを将来やっていきたいんだと気づき、それを一番番勉強できるゼミは林先生のゼミかなと思って選びました。
木内:私は人と話すのが好きなんです。その中でも笑わすこと、楽しんでもらうことがすごい好きなんです。
高校の時、吹奏楽と美術部を掛け持ちしていたんですが、音楽だったり、作品だったりを通じて喜んでくれる人がいて…そういう経験から人を楽しませるものを作りたい、それならここだと思い選びました。
実は木内さん、ガチャガチャが好きなんだとも…
木内:ガチャガチャは回すことでちっちゃい幸せが出てくる。何が出てくるか分からないワクワク感、出てからの、これ当たった! というみんなの喜びがすごい好きなんです。
いつか自分で作って、みんなに回してほしいなと思っています(笑)
そんなそれぞれの理由があって、3人は林ゼミに参加。
そして1ヶ月後、林先生の「現場に行かないと分からないこともある」との考えから、フィールドワーク「檜原合宿」へ参加します。
━━合宿、結構時期が早くなかったですか?
木内:みんなと出会った次の時にゼミ合宿。ゼミってこんなにスピードが早いんだと驚きました。
笹川:早すぎて驚きましたが、プロジェクトの大きさ、やるべきことが分かるにつれ、この早い段階からやらなきゃいけない、頑張らなきゃいけないんだと気づきました。
木内さん、笹川さんは、そのスピード感に初めは驚いてた様子でした。一方、村田さんは…
村田:山には小学校の時に高尾山に運動がてら行くという行事があったんですが、それ以来ですね。実はちょっとネガティブなイメージがありました。
でも、実際行ってみると、道も手入れされているし、木もすごい綺麗で想像以上にいいところでした。
手入れに時間と手間がかかってることを説明していただき、それを実際身体で感じて、これまで知らなかったのがもったいなかったなと正直思いました。
今では木のおもちゃを作るに当たって素材について早いうちに知ることができて良かったと思っています。
合宿を終えて、それまで通り過ぎてしまっていた風景に着目できるようになった
━━合宿では実際に森の中に入ったり、丸太切りを体験したりで、いろいろな形状の木材に触れたりしました。合宿の前後で森や木に対する想いが変わったことはありますか?
村田:枝はどう、根っこはどうと、木も部位によって全然違うことが学べたので、これはどこを使ってるんだろうとか気にするようになりました。
合宿終わってからおもちゃ売り場をよく見るようになりました…。どうやって加工してるんだろうとか気になってます。
木内:木がより身近に感じられるようになりました。普段の暮らしの中でも、立ってる木も落ちてる枝も、いいな、これ使いたいなと思うようになりました。日常生活に染み込んできた感じです。
丸太切り体験で切った木も家の玄関に置いて毎日見てるんですが、ちょっと色が変わってきていいなとか、匂いを嗅いでみたりとかしたます(笑)
笹川:合宿の帰り道で全然変わりました。公園や街路樹など、街中にもいっぱい生えてる木があるじゃないですか。それまではきちんと見たことがなかったんですけど、ハナミズキだったと思いますが、枝や幹をまじまじと見て、こんな形してるんだ、全部違うと改めて気が付きました。じゃ、どうやって使うんだろうとか考えました。
森は不便、木は危ない〜そんなイメージも確かにある
━━木や森に関心を持っていただいたことがよく分かりました。が、一旦ここではネガティブなことをお聞きします。木や森がもうちょっとこうだったらいいのにというのはありますか?
笹川:やはり不便さを感じました。車を使わないと生活できないし…。森全体を見ると不便なことはやはり多いだろうと思いました。
木に関しては、素材を生かすというふうに考えると樹皮があったり、なるべくそのままがいいのかと思いますが、子どもたちが使うと考えると危ないと思うことはやはりあります。
実際自分で触ってても、痛いってありますし。
どこまで許容範囲にできるかです。安全第一ではありますが、どうしたら自然の木っぽさを出せるか…
木内:私も不便さを感じました。車がないといけないし、お店もないから、山で暮らすのはしんどいかなと。あと、虫が苦手なので、ちょっと行くにはいいけど、住むにはしんどいかなと…
村田:木は危ないというイメージが確かにありました。合宿の前日に実は怪我をして、治るのに何日もかかったということもありました。そのネガティブなところをプラスに変えていきたいんですけど、でも、どうやって…。難しいです。
森や木を知るきっかけになるものを作りたい
━━木や森についての良さだけではなく、マイナス面にも気づいた今回の合宿。おもちゃ作りのアイデアにどうつなげていくのでしょうか。
笹川:そこに住んでる人は木も山も当たり前のことですが、そこから離れた人には知らないことばかり。もっと知ってもらえる何かがあればいいと思いました。
村田:私自身、今回の合宿がなかったら知ることがなかったので、このゼミの活動が子どもたちが木を知るきっかけにできるんじゃないかと改めて思っています。
木内:小さい頃から木に触れて、鉄とかプラスチックではない、自然の木を知って、感じてもらいたいです。
ホームセンターなどで普通に売られてる木は、加工されてるじゃないですか。そういうのじゃなくて、切り立ての丸太だとか、それもいいかなと思ってます。木そのままの形やそのままの表面を見ると気持ちが変わりますので、そこを表現したいです。
1泊2日の合宿で、ほぼ初めて森に入り、木材のいろいろな表情や性質、木のおもちゃの遊びのバリエーションを知ったゼミの全13人。
森の心地良さ、素材としての木の多様さなどプラス面はもちろん、その反面の不便さ、危なさなどマイナス面をもインプットしました。
今後、おもちゃのアイデアとしてアウトプットするに当たり、それをどんなデザイン、機能に昇華させるのかーーー。学生たちの発想に期待です!