暗記のしかた 理社編
理科や社会は世間一般では「暗記科目」といわれています。これは現在の塾講師・学校の先生・保護者の方など様々意見が分かれると思います。
僕の私見についてもここでは話していきたいと思います。主に社会の話が中心となりますが、理科でも通ずる所はあると思います。
本来なら有料記事にしようと思いましたが、無料公開で行います。参考の一助になれば幸いです。よろしくお願いいたします。
理科や社会が暗記科目といわれる理由
まずはこの話からいこうと思います。昔の教育から社会や理科は暗記科目といわれてきていますが、その理由の一つに、高校入試の私立では英語・数学・国語の3科目が重視されていました。そのため、私立高校を狙う人にとっては3科目を重点的に行う必要があるため、理科や社会は暗記科目といわれています。実際、中学入試の社会も暗記科目といわれています。暗記科目といわれている科目は早めに仕上げるのがよい、といわれています。
しかし、ここでほとんどの方が勘違いをしてきます。暗記科目といわれているもので実際に覚えているのは、語句だけになっているケースが多々見受けられます。そうです!実は、暗記科目といわれている原因の一つとして、昔からの指導を行う人は「暗記=語句」と思っている人が多いです。実際、塾でも理科・社会の開講が中3のみのところはそういう傾向が強いと思ってます。現在の指導者の中でもそのように考えている人はいると思いますが、現在は時代が変わっています。時代の変化に対応した覚え方を提示しなければいけないと思います。
もしそうであれば、理科は中1もしくは中2から開講しているけど…といわれてます。理科も社会同様暗記科目といわれますが、物理・化学分野などでは計算要素が必要になります。加えて、連動性も社会に比べてはっきりとわかるため、中1からの内容が分かっていなければいけない、という理由で理科は中1から開講しているところがあるのでは、と思います。
それに比べ、社会は単元完結が多いため、どうしても暗記科目として軽視されるようになります。しかし、社会の点数が悪い人が多いのです。その理由は暗記科目といわれているが故の話があるからだと思います。
教科書の太字だけ覚えるのはナンセンス
では、本題に入ります。教科書では本文を読んでいくと、太字にあたることがありますが、このような語句が出たら皆さんはどうしますか?
ほとんどの方は太字をマーカーで線を引くと思います。それ自体は別に問題ではないのです。しかし、問題はその語句だけを覚えようと必死になる人が多いため、基本語句といわれている太字が覚えているようで覚えていないのです。
そう!ここなんです!語句のみにマーカーを引き、周辺知識のマークが行われていない人がほとんどなんです。しかも、重要だと思っている(思い込んでいる)語句をマーカーで引きすぎたがために、結局、何が重要なのかがわからない始末になります。そのため、「暗記=語句」だと思い込んでしまう原因の一つとなってしまうのです。
歴史はよくストーリー(物語)だという先生がいます。そういう人は語句ではなく内容で覚えているのです。ここ近年の社会の学習はこのような歴史の流れを重視するように覚えていかないといけないのです。これは21世紀最初頃はそれでも対応できたといわれてます。
しかし、現在はそれだけでは足りません。入試が「思考力・判断力・表現力」を問う問題が増えたことにより、語句の暗記だけでは対応ができなくなりました。それは高校入試でも大学入試共通テストでも見られるようになります。そのため、中学のころから「周辺知識・関連知識・背景知識」の3つの知識を自ら使えるレベルに引き上げなければ意味がありません。そして、高校入試では記述問題が増えますので、その知識を自分で記述できないといけません。たとえ語句の太字を覚えるのも悪いことではないのですが、語句の内容となる周辺知識を使えるようにしなければいけませんし、内容と内容の関連性をもたせる関連知識、因果関係や歴史的背景、一般的知識などを活用する背景知識などを実践レベルで使えなければいけません。
太字の語句は基本語句として覚えるのは悪くないのですが、その先の学習につなげなければ意味がありません。だから、太字の語句だけを覚えるのはナンセンス!というのです。
語句を覚えるなら問題文や内容とセットで覚える
では、具体的に話したいと思います。今回は問題を使うことで語句だけで覚えるといけない、ということを立証したいと思います。
一応、僕は高校時代にクイズ研究会に所属していたため、問題の作り方、ポイントの見極めなどは多少知っています。その視点も含めて話したいと思います。
大名に一年おきに領地と江戸を往復させ、その妻子を江戸に住まわせた制度を何というか。
こういう問題があったとします。これは中学歴史の教科書でもよく載っている文言だと思います。答えは「参勤交代」です。これはほとんどの方は覚えていたら書けると思います。あとは漢字指定が来た時だけ気を付けてください。
ここのポイントは、大名に一年おきに領地と江戸を往復させ、です。これは参勤交代の内容ですが、記述問題でもよく書かされます。では、こういう問題はどうでしょうか。
全国の大名に行わせた参勤交代とはどのような制度か。簡単に説明しなさい。
これは参勤交代の制度を記述させる問題です。ここで参勤交代のみを覚えている方は突然書けない人が多くなります。しかし、これはまだ書けるよ、という人もいると思います。このような記述問題を僕は用語説明型の問題と定義しています。解答は前述のとおりです。
よく記述問題対策として、用語から記述させるトレーニングをしておくといい、と言っているのはこういうことなんです。
全国の大名に行わせた参勤交代の制度は、藩の財政にどのような影響を与えたか、簡単に説明しなさい。(2017年高知県公立入試より)
これだとどうでしょうか。この問題になると、おそらく正答率はとたんに下がります。答え(例)は、「多くの費用がかかり、藩の財政を圧迫した」、になります。つまり、参勤交代しか見ていなければ、ここに注意が行くことはありません。これは先ほどの用語説明型と異なり、因果関係型の問題になります。
ちなみに、この問題は公立入試でも頻度は低くありませんが盲点になりやすいです。そのため、前述の用語説明型は失点は許されませんが、目的定義型の問題は思いの外、点差がつきます。
つまり、問題でも言い回しが変わると正答率が下がるのは、多角度的視点で問題や内容を見ていないのが原因です。今後もそういう問題は増えると思います。
【追記】この部分についてはご指摘をいただいた関係で、入試問題で実際に出されたものに問題を差し替えて説明いたしました。ご指摘いただいた皆様、ありがとうございます。と同時に誤りの文面を記載したことについてお詫び申し上げます。
大名に一年おきに領地と江戸を往復させ、妻子を江戸に住まわせた制度がある法律を何というか。
これはかなり意地悪な問題です。私立入試を受ける方はこういう問題も気を付けてください。この答えは「武家諸法度」です。え!参勤交代ではないのか?と言われると思います。確かに制度は参勤交代です。ですが、その参勤交代が記載された法律は武家諸法度です。参勤交代という法律は存在しません。日本史だとこれはベタな問題になりますので、早慶レベルの方は引っかからないようにしましょう。
【追記】実はアプローチは異なるものの、この形式の問題が2020年の埼玉県で出題されています(一部正答も含めて48%しかなく、完全正答だと4.5%しかありません。ということは、大名の定義ができていなかったか、参勤交代と引っかかったかのいずれかだと思います)。ということは、これは私立入試でも出るものの、公立入試まで落ちてきているため、今後、公立入試でもこのような問題が出る可能性があります。
一応、歴史的視点で根拠を言うと、武家諸法度は将軍の代替わり毎に改訂されます。そのため、元和令・寛永令・天和令などとあるのです。将軍が情勢に応じて内容を変えたり付け加えたりするのです。寛永令のときに参勤交代の制度が付け加えられたのです。そのため、参勤交代は制度となり、参勤交代が示されている法律は武家諸法度となるのです。
中学生は上記の背景知識をそこまで知る必要はありませんが、日本史だとベタな知識になります。しかし、この話を知っていれば、引っかかる可能性も低くなり、失点を防ぐことも可能となります。そのために活用する背景知識だと思ってください。
まとめると、語句と内容の知識の整合、内容と内容の関連性などをセットで覚えておかないといけない、ということを知ってください。つまり、「周辺知識・関連知識・背景知識」の3つの知識を意識してください。
基本語句は大事!でも……
学習するうえでよく基本語句を覚えましょう、という人がいます。では、何をもって基本語句というのか、ですが、教科書によっては7冊が7冊とも同じ箇所が太字になっているとは限りませんし、逆に1つの教科書のみが太字になっている場合もあります(その語句を出しているのが1つだけの場合もある)。
僕の定義は、その基本語句は問題によく出るかどうか、だと思います。たとえ太字になっても、入試問題などで出題されていなかったら太字でも頻度は低い、と判定します。ただし、検定教科書のうち1冊でも載っていた場合、僕の中では教科書レベルと判定します。
まずは太字の語句とその周辺を覚えるようにしましょう。
覚えたことをしっかりと問題演習を通じて使える知識に持っていき、復習を忘れずに行ってください。このようにして問題を活用して覚えるポイントをしっかりと身に付けてください。
実は、2021年度からの新教科書において、7冊(東書・帝国・教出・日文・育鵬社・山川・学び舎)すべて調べたうえで教科書頻度が高い語句・低い語句を見比べ、入試問題においてどう反映されているかを見たいと思っています(余力があれば、公民や地理も見たいと思っています)。これにより、定期テストだけでなく、高校入試においても活用できる用語集を作れたら、と思っています。これがまとまれば、一冊の本にできたら、と思っています。もし、このようなお話に興味をもたれました出版関係の方がいらっしゃいましたら、ご連絡いただけると幸いです。よろしくお願いいたします。