銀色の種
小春日和の休日。まだまだ寝ていたい早朝に、チャイム音が鳴り響く。
布団の中で俺が睡魔に負けそうになっていると、ドアの向こうから俺の名を呼ぶ柔らかな声が響いてきた。その瞬間、布団を蹴り落とし玄関に向かう。
ああ、彼女だ、シャイでなかなか俺の家に遊びに来ない彼女が来てくれた。恋人を持つものとしてこれ以上の喜びがあるだろうか?ドアを開ける前に一息つき、彼女を出迎えた。
全く、こんなに朝早く来ることないだろう?こっちだって掃除とか色々あるんだから。
そう言うと、彼女は意地悪く微笑んで
だって会いたかったの。それにね、渡すものもあるのよ。
と、紙袋を差し出した。
中には"種"が入っていた。なんだこりゃ、と彼女を見ると、やっぱりにっこりと笑っている。
仕方なくベランダに新聞紙を敷いて、放置されていた鉢を適当に掘り返し耕す。危なくないように分厚い軍手をはめた。天気もとてもよく、鳥のさえずりが聞こえる。広げた新聞紙にはいつものように政治や広告、そして殺人や誘拐といった悲しい事件が載っているのが見える。こんな幸せで平和な世界にこんなものがあるのかとつい思ってしまうほど、俺は柔らかな気持ちだった。
"種"を埋め終わり滲む汗を拭うと、彼女が俺の冷蔵庫からビールを取って俺に差し出し労ってくれた。朝からこんなものを飲んでいいのかと思ったが、彼女がもう片方の手で桃のチューハイを持っているのが見え、2人で飲む誘惑にあっさり負けてしまった。
じゃあね、次見に来た時に芽が出てるといいな!
そう言って彼女はマンションの階段を降りていった。
馬鹿野郎、芽なんかでるか。
全く彼女は本当にわがままだ。まあ、そんなところが好きなんだけど。
……ああ、部屋に血がいくつか垂れてる。これで誰を刺し殺したのだろうか。
仕方なくほろ酔い気分のまま、俺はティッシュを手に取った。
続く
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