読書【応用倫理学のすすめ】感想
『応用倫理学のすすめ』完読。
倫理学は善いか悪いかという判断の根拠となる原則を研究する学問。
『他人に迷惑をかけない限り何をしてもいい権利(自己決定権)』によって個人の権利は守られている。
しかし、ポルノグラフティー、代理母、自殺等のように個人が他人に迷惑をかけない行為に対して国や社会の側が干渉したり個人の自己決定権を制限するのは何故か?
はたまた死刑は廃止すべきか存続すべきか。
『死刑廃止は今では世界的な傾向だ。先進国で廃止に踏み切っていないのはアメリカの約40州と日本だけだ』
と本書はいう。
死刑廃止論は冤罪問題を根拠にしている。
判決の間違う可能性がゼロにならない限り死刑はゼロにすべきという主張。
死んでしまった後で冤罪が発覚したら取り返しがつかない。
一方で死刑存続には二つの理由がある。
ひとつは【つぐない論】
殺人を犯したものが死刑になったところで被害者の命は戻らない。
しかし、被害者遺族の感情をなだめることができる。
これに対して死刑廃止論者は、復讐心を充たすという低俗な意味しかないと批判する。
もうひとつは【みせしめ論】
死刑制度を設けることで未来の凶悪犯の増加を抑止するという主張。
だけど、そういう主張はマトモな人間には通用するが俺みたいなマトモじゃない人間には糞程も意味はない。
今日、俺は死刑で死ぬ。
罪状は三件の殺人と五件の放火だ。
もともと死刑になることが目的だったから、あっさりと捕まった。
いや、捕まってやった。
俺は罪を認めているしハッキリと死刑を望む事を明言しているのに死刑判決から執行まで13ヶ月もかかった。
それでも早い方らしい。
どうして死刑で死ぬ為に罪を犯したのか?
自殺ではダメだったのか?
その事は裁判でさんざん話したからここでは言うつもりは無い。
ただ、そうしたかったから。
それだけの理由だ。
「時間だ。出ろ」
俺は看守の指示に従い牢屋から出た。
今まで色んな所で寝起きしてきたが、ここが一番落ち着けた場所だった。
結局、俺は生まれながらの犯罪者だったわけだ。
三人の看守にガードされて俺は絞首台に上がった。
そこには一本の太いワッカ状のロープが垂れ下がっていた。
今からそのロープに頸をかけ吊り落とされて俺は死ぬ。
俺みたいな頭のおかしい人間に死刑制度は通用しない。
ああ、喜んで死んでやる。
「前に出ろ」
俺は看守の指示に従い、一歩前に出た。
目の前に首吊りのロープがぶら下がっている。
看守は俺の頭に黒い布袋か被せた。
そしてその上からロープを通し俺の頸を軽く締めた。
いよいよだ。
今から床が落とし穴のように開き頸を吊られたまま俺はブラブラと揺れてこの世とオサラバ出来る。
さぁ、早く落とせ。
さぁ、さぁ、さぁ!
「10分経過。絞首刑終了しました」
何を言ってるんだ?
俺は黒い布袋を被ってロープを頸に通されただけで、その場に10分も立っていた。
やがてロープが外され黒い布袋も脱がされた
「間宮正平は本日を持って死亡。貴様はこれより国有財産番号4736号だ」
「何?どういう事だ?」
「もう貴様には人権は無い。これより貴様は物として扱う。国家の財産の一部になった」
「え?何?何なの?死刑は?」
意味が分からず混乱する俺の耳元で看守はこう呟いた。
「まだ、わかんねぇのか。死刑で死んだのはお前の人権だよ。戸籍上、お前はもう死んだ。肉体は国家財産として国が没収したんだよ。今からお前は人体実験に使われる。医学の発展の為に」
「人体実験?」
「簡単に死ねると思うなよ。それがお前の償いだ。死んだのはお前の人権なんだよ」
呟き終えると看守は職務を全うするべく厳かな口調で言い放った。
「本日の死刑執行。これにて終了」