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読書【裏のハローワーク】感想
『裏のハローワーク』完読。
運び屋、鍵師、総会屋。
マリファナ栽培、ヤミ金融。
裏の世界の色んなお仕事を紹介する本。
不法投棄の作業をするのは土日と決まってる。
何故なら環境管理事務所が土日は休みだから。
ヤミ金なんてタネ銭と度胸があれば誰でも始められる。
タネ銭がなければ元締から借りればいい。
トイチで借りてトサンで貸して。
取立てながら取立てられる。
恐るべし畜生道。
借金のカタにマグロ漁船に乗り込むというのは昔の話。
それでも稀に人生どん詰まりの人が職を求めマグロ漁船に乗り込むという。
どんな人間でも船に乗ると真面目に働くようなる。
働かざるを得ない。
航海が終わって船から下りるときは立派になる人も多いとか。
マグロ漁船は人生の再生工場という側面もある。
2030年。
政府は圧迫した財政を抜本的に改革する為に大胆な政策に打って出た。
その一つが『一部公務所の国営企業化法案』である。
一部公務所とは何か?
言を濁してはいるが要するに刑務所の事だ。
刑務所を国が運営する企業にしてしまおう。
という法案である。
もっと平たく言えば、囚人に対して
「手前ぇらの飯のタネは手前ぇらで稼げ。手前ぇらを監視する看守達の給料も手前ぇらで稼げ」
という事だ。
一部の刑事施設に補填する国家予算つまり国税を廃止する。
さらに国営企業にすることにより、その収入を国家予算の歳入に加えよう、という魂胆がみえみえの法案である。
この法案により各刑務所は独自の企業展開を余儀無くされた。
近畿地方のある刑務所は家具ブランド【SYUJIN】を立ち上げた。
中部地方のある刑務所は、お茶の業界に参入した。
東北地方のある刑務所はマグロ漁に活路を開こうとしていた。
「マグロ漁船は人生の再生工場という側面もあるのである!」
マグロ漁歴35年のベテラン漁師、笹山勝男は怒りを込めて叫んだ。
刑務所内の会議室は声がよく響いた。
けして広くはない会議室には勝男の他に8人の囚人がパイプ椅子に座っている。
壁際には5人の看守が仁王立ち。
勝男は囚人番号204を睨んだ。
「カツオがマグロを釣るのかよ」
という声が聞こえたからだ。
漁師の家に生まれた勝男は、さんざん自身の名前をからかわれてきた。
五十代になってからは流石に名前をおちょくられる事はなかった。
それが久しぶりに嘲笑らわれて、つい頭にきてしまったのだ。
「カツオがマグロを釣るのかよ」
そう言ったのは囚人番号204、安西貞夫である。
常習賭博と大麻所持で捕まった男だ。
「あ?やんのか?」
勝男に睨まれた安西が立ち上がろうとした瞬間
「辞めとけ、サダ」
恐喝罪及び傷害罪を犯した囚人番号195、西岡博治が制した。
総会屋をしていた西岡の声には圧力があった。
深く低く地の底から響いてくるような、そんな声だった。
「なぁ、勝男さん。俺たちは来月にゃ、マグロ漁船の上だ。そこじゃあ、アンタが大将かもしれない。だけどな、ここじゃあアンタは何者でもねぇんだよ。そんな態度でそいつらを、いや、俺らを纏められるのか?」
笹山勝男はマグロ漁船乗組員の講師としてこの刑務所に招かれたのだ。
つまり一般人が囚人達の前に立たされているのだ。
一般人。
とは言うものの笹山勝男の胆力は一般人の積量を超える男だった。
ずぶな素人を、いきなり漁船に乗せるわけにはいかない。
一ヶ月間、みっちりと実演と知識を叩きこむ。
それが笹山勝男に依頼された任務だ。
マグロを追うのはそれからである。
「腕を出せや、木偶の坊」
そう言うと勝男は演台の上に広げていたプリントを振り払った。
勝男自身が一週間かけて作った手書きの資料だった。
そして勝男は太い腕を曲げて肘を台に置いた。
腕相撲の体勢である。
纏まるか纏まらないか。
それはこの腕一本が決める。
それを見て西岡博治は低く喉の奥で笑った。
立ち上がった西岡の囚人服の袖から伸びた腕は勝男の丸太腕にも勝るとも劣らない太さだった。
周りの囚人達がざわめいた。
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