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バンコクナイツ

 『バンコクナイツ』は、去年からずっと楽しみにしていた映画だった。それが今回、やっと劇場公開されたので、いそいそと観に行ったのだが、鑑賞中、思わぬ場面で、全てが吹っ飛んでしまった。
 スクリーンには、バンコクの見慣れた街並みが、次々と写し出されるのだが、途中、日タイ友好橋がチラッと出てくる。俺はこの橋の上で、タイの女性に、手酷く振られた過去があるのだ。ただ振られたのならまだしも、グーパンチを見舞われた。平手打ちではない。グーだった。
 計らずもそのシーンを観た瞬間、眠っていた記憶と共に、溢れ出てくる涙を、堪えることができなかった。頬を伝うものは、まさに人生の悲しみであり、そしてまた、映画の悲しみでもあった。
 しかし、そこに付随してきた感覚は、不思議に心地良さをすら感じさせた。

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