短編小説「籠の森 一塊」
俺は、2人の友人と肝試しに来ていた。
“籠の森”と呼ばれるこの場所は、多数の行方不明者が発生している恐ろしい場所だ。
懐中電灯を照らさなければ周囲が見えないほどの暗闇に、怖気づきながらも、俺らは肩を寄せ合って森へと入った。
『あれ?』
すぐ隣を歩いていた友人が声を漏らした。
「どうした?」
『あいつはどこ行った? もしかして、はぐれた?』
確かに、俺らとは少し離れて歩いていた友人1人の姿が見当たらない。
「おい、大丈夫かー? どこにいるんだー?」
少し大きめの声で周囲に呼びかけた、その時――
ブゥゥゥン!
背後から何かのエンジンのような音が聞こえた。
そして、それは徐々に近づいてくる。
「な、なんだ? あの音は…」
俺は懐中電灯の明かりを、音のする方に照らした。
『うわっ! 誰だあいつは!?』
光に写し出された男は、身長2メートルはあろうかという巨体で、顔には不気味な白いマスクを被っている。
『おい、あれ、手に持ってるの…チェーンソーじゃないか?』
友人が震えた声で言うと、大男はチェーンソーのエンジンを吹かし、俺たちに向かって突進してきた。
「う、うわあああ! 逃げろ!」
俺たちは状況を飲み込めないまま、全速力で逃げ出した。