短編小説「隣り合う孤独」
俺は鍵を回し、アパートの玄関ドアを開けた。
その瞬間、鼻をつく異臭が襲ってきた。
「なんだこの臭い…」
しかし、今朝は大事な会議がある。
時計を見ると、もう遅刻ギリギリだ。
仕方なく、鼻をつまみながら急いで外に出た。
でも一日中、あの匂いが気になっていた。
帰宅すると、やはり異臭は消えていなかった。
自分の部屋の台所や風呂場、ゴミ箱まで探したが、匂いの元は見つからなかった。
翌朝、匂いはまだ消えていなかった。
階段を下りながら、ふと気づいた。
匂いは隣室から漂ってきているようだった。
隣に住むのは、もう80を過ぎた一人暮らしの老人だ。
思えば、最近見かけていない。
俺は鼻をつまみながらインターホンを押したが、応答はない。
「すみませーん!」
大きく呼びかけながら、ノックしても同じだった。
もしかして…。
俺はとっさに嫌な予感がよぎり、すぐに管理人と警察に連絡を入れた。
俺は警察の到着を待った。
警察に事情を説明したが、後のことは警察に任せるよう指示され、仕方なく自分の部屋に戻った。
でも、隣の部屋では大勢の警察がせわしなく動いていた。
その夜はあまり寝られなかった。
翌朝、警察から連絡があった。
「昨日はお世話になりました。通報通り、ご遺体を発見しました」
俺は電話を切った後、しばらく呆然としていた。
予想はしていたものの、現実となると受け入れがたかった。
もっと早く気づけば…。
もっと関わっていたら…。
俺の部屋には後悔が漂い続けた。