短編小説「一輪の贈り物」
祖母の遺品整理を手伝うため、久しぶりに実家に戻ってきた。
部屋に入ると、懐かしい匂いが鼻をくすぐる。
「あら、来てくれたの」
母が微笑みながら出迎えてくれた。
祖母の部屋は、生前と変わらない雰囲気のままだった。
本棚には古い写真アルバムが並び、ベッドの上には手編みの毛布が丁寧に畳まれている。
私は静かに引き出しを開けた。
懐中時計、古びた手帳、そして見覚えのない小さな箱。
「これ、何だろう」
『あら、懐かしい』
母は何か知っているようだ。
箱を開けると、中には一通の手紙と小さなペンダントが入っていた。
手紙には私の名前が書かれている。
震える手で封を切り、中身を取り出す。
『愛しい孫へ
この手紙を読んでいるあなたに、最後の贈り物をしたいと思います。
このペンダントは、私の母から受け継いだものです。
代々、家族の大切な女性たちに受け継がれてきました。
あなたが生まれた日、私はこのペンダントをあなたに贈ろうと決めていました。
でも、まだその時が来ていないと感じていたの。
今、あなたは立派に成長し、自分の道を歩み始めています。
きっと、このペンダントを身につける準備ができたはず。
このペンダントと共に、私の愛もあなたに贈ります。
どうか、幸せな人生を歩んでください。
愛を込めて おばあちゃんより』
涙が頬を伝う。
祖母の温もりが、手紙とペンダントを通して伝わってくる。
「お母さん、見て…」
母に手紙を見せると、彼女もまた涙ぐんでいた。
「おばあちゃん、きっとこの日を待っていたのね…」
私はペンダントを首にかけた。
不思議と、ずっと身につけていたかのような馴染みを感じる。
窓の外では、夕日が優しく差し込んでいた。
祖母の最後の贈り物が、私を祝福しているかのようだった。
私は深呼吸をして、部屋を見渡した。
まだまだ片付けは続く。
でも今は、祖母との思い出に浸りながら、ゆっくりと遺品と向き合おう。
そう決めた私の胸元で、ペンダントが静かに輝いていた。