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短編小説「幸せ者」

白い天井を見つめながら、私は静かに呼吸を繰り返していた…。
周りには、私の大切な大切な家族が集まっている…。

ああ、もう長くはないな…。
でも、不思議と怖くはない…。
むしろ、穏やかな気持ちでいっぱいだ…。

『お父さん、大丈夫?』

顔は見えないけれど、ずっと手を握ってくれているのは長女だろう…。
この手のぬくもりを忘れるはずもない…。

あの日、初めてお前を抱いた時のことを覚えているよ…。
腕の中に収まる小さな重みを…。指を握り返してくる小さな手を…。

こんなに大きくなって…。立派な二児の母にもなって…。
お前のウエディング衣装は、母さんにも負けないぐらい綺麗だったよ…。

『じいちゃん...』

続けて反対の手を握ったのは、二人の孫だ…。
ずいぶん大きくなったね…。手は私とほとんど変わらないくらいかもしれない…。

『やだよ…』

そんな悲しそうな声で…。

じいちゃんはお前たちと遊べて本当に楽しかったんだ…。

公園でボール遊びをしたり、一緒に釣りに行ったり…。
あの頃が懐かしいな…。

私は少し目を瞑った…。
瞼の裏には、数えきれないくらいの思い出が蘇ってくる…。

『お父さん!』『じいちゃん!』

家族の焦った声に目を再び開けると、みんなが私を覗き込んでいた…。

『ああ、良かった…』

娘は私の手をずっと握りながら、涙を垂らしていた…。
それに、みんなも顔を崩して泣きじゃくって…。俯いて、暗い顔して…。

私の最期なんて、笑い飛ばしてくれていいんだよ…。
みんな、笑った顔の方が素敵だからね…。

私は幸せ者だ…。
こんなにも幸せな人生を送ってきて、最期までこうして家族に囲まれて…。

これ以上の望みはないよ…。
強いて言えば、もう少し皆の成長を見ていたかったことかな…。

それもきっと、向こうから見守っていられるか…。

『お父さん、ありがとう...』『ありがとう…』

娘が孫が、口々に語り掛けてくれている…。
皆、顔に涙は流しているが、そう、その顔だ…。その顔が見たかった…。

ゆっくりと目を閉じる…。
もう、疲れてきてしまった…。

やっと、そっちに行けそうです…。
ずっと待たせてしまって、ごめんね…。

でも、最後にもう一度…。

「あ…り…が…」とう、みんな…。さようなら...

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