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「おい、よく噛んで食えよ」

『”&#$%$&#’($#%&$』

『口の中のモノ飲み込んでからでいいよ』

俺たちは暗い森の中で簡易テーブルを囲んで座っていた。
焚火の炎が、揺れる三人の影を淡く木々に映す。

手元の飯盒には、多すぎるぐらいの白米が詰まっている。
少し焦げて皮の弾けたソーセージに、缶詰の鯖。

全くキャンプっぽくはないが、❝頑張らない❞、これが俺たち三人のスタイルだ。

『うめぇ! やっぱこういうのでいいんだよな!』

雄杜ゆうとは知らぬ間に咀嚼を終えたと思えば、そう言った次の瞬間には米を掻っ込んでいた。

『うん特に、この雰囲気の中での食事はやっぱたまらないね』

大志ひろしは空を見上げると、そのまま立ち上がり大きく息を吸い込んだ。
火の音と、たまに聞こえる野鳥の声。それ以外は常に静寂に覆われていた。

『空気もおいしいし、ご飯も最高だし、また次もここ来ようよ』

「次って、気が早すぎやしないか?」

『#”$%$&#%’)(’()%』

「だから、飲み込んでからにしろよ」

俺たちはみんなで笑いあった。
こんな調子で会話を弾ませながら食事を進め、次第に夜は更けていった。



「けどさ、ほんとにテント一つで寝るのって、どうなんだよ」

男三人が並んで寝るには狭すぎた。
キャンプでは毎度思うことなのに、いつも準備をすっかり忘れてしまう。

『なんだよ、慎太郎しんたろう、怖いのか? 堀か塀でも作ってなきゃ不安か?』

「そうじゃねぇよ…」

『このテントを壊して襲えるんだったら、熊ぐらいなのかな?』

大志……。暗くてよくは分からないが、おそらく満面の笑みでとんでもないことを言っている……。

『だけど――』

「けど、熊はこの時期冬眠してるから、いるわけないっ、だろ?」

俺は雄杜の言葉に割って入って、その声を遮った。
こいつの考えてることくらいはすぐにわかる。

『そゆことっ』

その言葉に続けて、一瞬の沈黙がよぎる。
皆が黙ると、そこはすぐに暗く無音の世界が現れる。

テントの外に少しの風音も聞こえない。

気まずいわけじゃない。こいつらとは今更無言になった程度でそんな雰囲気にはならない。
でもなぜか今日は、そんな無の時間がどこか怖く感じた。

ガサッ。

二人どちらかの寝返りの摩擦音で、無の世界は一瞬で終わりを迎えた。

『でも、もし出たらどうする?』

また大志だ。どうせ、俺たちのビビった表情を拝みたいんだろう。
声色で口角が上がっているのがわかる。

「そりゃあ、出たら、食いモン差し出せばいいんじゃねぇの?」

『あれ、飯なんか残ってたか?』

「すまん俺、米残した」

『言えよ! 俺それなら代わりに食ったのにぃ!』

雄杜は寝袋のまま上半身を起こして、おそらく怪訝な顔をこちらに向けていた。

「だいたいお前は食い過ぎなんだよ、一人三合はさすがに多いって……」

『でも大志は食い切ったよな?』

『もちろん』

なんだよ、大飯喰らい達が。
中学の時からそうだ。飯だけはいつまで経っても、こいつらに追いつける気がしない。

「まぁ、今日はもう寝ようぜ。明日は山降りなきゃだから――グハッ……」

その瞬間、隣の雄杜が寝袋のまま転がって体当たりをしてきた。

『お前ら、久しぶりなんだからよぉ、もっと話そうや! まだ夜は長いんだぞー!』

「なんたってまだ、そんな元気があるんだよ…。もう学生じゃないんだぜ俺たち…」

『確かに、寝るにはちょっと早いよ』

大志まで……。

『おい、慎太郎ぉ、女関係はどうなんだよー!』

『慎太郎のそっちの話最近聞いてないよねー、頼むよー!』

『こっちからも、いろいろ提供してあげるからよ、な?』

こんな狭い場所で暴れられたら、たまったもんじゃない。
それに、こんな真っ暗な森のど真ん中に逃げ場もあるはずない。

「わかった。わかったから。じゃあ、聞きたいこと勝手に質問してってくれ」

『慎太郎さー、この前△▽駅前で手繋いでた子って――』

なんでそれを知られて……。
俺たちの夜は、まだまだ終わりそうにない。

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