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短編小説「魂の記憶」

目を覚ましたとき、そこは見知らぬ部屋だった。
私は薄暗い部屋に仰向けになっているようだ。

ここはどこなのか、どうしてこうなったのも、私には分からない。


そもそも、私は誰なのだろう。


前にもこんなことがあったような気がする。
この部屋も初めてではないような。

でも、どれもはっきりと思い出せない。


ドアの開く音がした。

『よく眠れましたか?』

髪を後ろで結び、眼鏡をかけた女性が私を覗き込んでいる。

この声も、聞いたことのあるような。
しかし、どれも確信には至らない。

「ここは…どこですか?」

私は震える声で尋ねた。

『また、忘れてしまったのですね…』

彼女は表情を曇らせた。

『ここは療養施設で、私はあなたを看護している者です』

女性は答えながら、何かメモを取っている。
すごく慣れた様子だ。

「私は、誰ですか」

思わず口をついて出た。

『やはり…』

彼女はメモから目を離し、こちらに近づいた。

『あなたは…私の…大切な患者ですよ…』

彼女はそう言うと、さらに近づいてきた。
私の目からは、彼女の肩だけが見える。


しばらくすると、彼女は私から離れた。

「私は、あなたのように動けないのですか?」

彼女は私の言葉を聞いた途端、膝から崩れ落ちた。

『ごめんなさい…私が不完全なばかりに…』

目からは涙がこぼれている。


頭が熱い。
何かを考えようとすると、あるところで急に思考できなくなってしまう。

私はこういう病気なのだろうか。


彼女は急にスッと立ち上がると、背中を向けて歩き出した。


私は彼女を知らない。
でもなぜか、初めて会った気もしない。
そして、どこか彼女を信じているような気がする。

「また、会えますか?」

ドアに向かっていく彼女に尋ねた。

『もちろん、いつだって来ますよ』

彼女は微笑んだ。
見覚えが。でもわからない。

彼女は部屋の隅にあるモニターのようなものを確認している。

そして突然、私は強い眠気に襲われた。

『お休みなさい』

その優しい言葉とともに、私の意識は消えていった。

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