短編小説「電話越しの声」
「もしもし、どなた?」
見慣れない番号を横目に、電話を取った。
『久しぶり、ばあちゃん』
ああ、懐かしい。孫の声だ。
「あら、珍しいねぇ。どうしたの?」
『元気そうで、良かった…』
孫の言葉に元気がなくなった。
「どうしたの? 何かあった?」
『うん、ちょっと大変で…』
声が震えている。
『車で人を撥ねて、慰謝料で400万が必要なんだ…』
「そんな…大丈夫なの?」
『ごめん、でも、誰にも言えなくて…』
微かに嗚咽が聞こえた。
「わかったわ、どうすればいいの?」
『今すぐ必要だから、ATMから振り込んで欲しいんだ…』
「ちょっと待って、すぐ行くね」
財布だけを抱え、銀行へ急いだ。
ATMを操作するが、上手くいかない。
『どうしました?』
中年男性が話しかけてきた。
「お金を振り込みたいんだけど…」
『ああそれなら、こうやって…』
男性の手伝いもあり、無事に振り込むことができた。
直後、再び孫から電話がかかってきた。
「今、終わったけど、どう? できてる?」
『うん、ありがとー。また遊び行くよ。じゃあ』
電話は切られてしまった。
事故と聞いて焦ったが、孫が私を頼ってくれていて嬉しかった。
いつ来てくれるのかな。
そんなこと考えながら、家へと帰った。