短編小説「終わらない夏の補習」
俺は夏休みの補習に遅刻した。
「すみません、遅れて…」
教室のドアを開けたが、中には誰もいなかった。
教室の時計は午後3時15分を指している。
補習の開始時刻は午後3時のはずだ。
俺は携帯を取り出し、席に座りながら友人にメッセージを送った。
「おい、今日の補習どうなった?」
返信はすぐに来た。
『何言ってんだよ。補習なんてないぞ』
「は? 冗談よせよ」
『冗談なんか言ってねぇよ。もしかしてお前、教室にいるのか?』
「そうだけど…」
『何やってんだよ(笑)まぁ、せいぜい勉強でもして帰るんだな』
「おい、待てよ!」
それからはもう何を送っても既読にならなかった。
「あいつ…」
俺はすぐに帰ろうとした。
その時―
ドンッ!
教室のドアが独りでに閉まった。
しかも、それは誰かが思い切り押したような勢いだった。
だが、そこには誰の姿もない。
「なっ…何だよこれ…」
俺は立ち上がろうとしたが、足全体が椅子に固定されてしまったかのように下半身が全く動かない。
その時、黒板に何かが書かれ始めた。
カタカタカタ…
白い粉が舞い、文字が浮かび上がる。
『私の補習へようこそ』
もう二度と、ここを出られない気がした。
ただ時計の針だけが、異常にゆっくりと進んでいる。