短編小説「変わらぬ流れ」
ある夏の日、僕は幼いころからよく遊んだ川辺に立っていた。
そこは何年たっても変わらぬ景色だった。
流れる水の音、風に揺れる木々のざわめき、足元に広がる小石の感触――すべてが懐かしい。
ここは、僕にとって特別な場所だった。
子どもの頃、友人たちと笑いながら魚を捕まえたり、泥だらけになって走り回ったり、そんな思い出がこの場所には詰まっている。
でも、今日は一人だ。
かつての仲間たちはそれぞれの道を歩み、もうここにはいない。
近頃は仕事に追われ、しばらくここに足を運べなかった。
だけど、何かに背中を押されるようにして、久しぶりに訪れたのだ。
僕は川の流れを見つめながら、手に持った小さな石を何度も指先で回していた。
この石も、かつて僕たちが遊び道具にしていたものと同じように、無数に転がっている。
目を閉じると、かつての僕たちの声が風に乗って聞こえてくるようだった。
「また集まろうな、いつか」
そんな約束を交わして別れた日があったが、それは結局実現しなかった。
そして、人生は思ったよりも早く流れた。
だが、この川は変わらない。いつでもここにある。
不意に、僕は足元の石を軽く投げてみた。
ぽん、と水面に触れた瞬間、それは何度か跳ね、やがて静かに沈んでいった。
その様子を見つめながら、僕は心の中で小さく笑った。
あの頃の僕たちも、今の僕も、まるでこの石のように、流れに身を任せながらも、どこかに希望を持って跳ねていたのだと感じたからだ。
過去は遠くなり、再び会うことはないかもしれない。
それでも、ここに立てば、あの日々が今でも僕の中に生きていることを感じられる。
僕たちは違う場所でそれぞれの道を歩いているけれど、この川のように、どこかで繋がっているのだろう。
僕はもう一度、川に向かって石を投げた。
今回は、前よりも遠くまで跳ねた。
僕は携帯電話を取り出した。
「久しぶりに集まろうよ、あの場所で」
何通もの電話を掛けた。川辺の下見を進めながら。