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短編小説「真実の叫び」
私は手を後ろで組まされたまま、被告人席に座らされた。
裁判官、弁護人、検察官、傍聴人。
様々な人の冷ややかな視線が痛くて、つい目を伏せた。
法廷の厳粛な空気が、私の罪悪感を煽る。
だが、私は無実だ。
それなのに、なぜこんな目に遭わなければならないのか。
検察官が立ち上がる。
『被告人は、被害者と当日会う約束をしていた。違いありませんね?』
それは事実だ。
私は首を縦に振った。
『そして、被害者の遺体が発見された現場付近で、あなたの衣服が見つかりました。しかも、被害者の血痕付きのものです』
私は思わず顔を上げた。
衣服? 血痕? そんなの身に覚えがない…
弁護人が立ち上がる。
『異議あり。その衣服が被告人のものだという確証はありません』
『却下します。被害者の血痕と被告人のDNAが検出されたことで、証拠として認められています』
裁判長は弁護人を見て語った。
検察官が続ける。
『さらに、被害者の携帯電話から、被告人との最後のメッセージが見つかりました』
そのメッセージの内容は覚えている。
しかしそれは、単なる待ち合わせの確認だったはずだ。
『これらはすべて状況証拠に過ぎません。決定的な証拠とは言えません』
弁護人が再び立ち上がった。
その言葉は、私たちの最後の切り札なのだろう。
『被告人のアリバイは崩れています。事件当時、被告人の居場所を証明できる人物はいません』
検察官の冷酷な表情を変えず、さらにまくし立てた。
私の運命が、私の口にも手にも出せないところで、勝手な数人の人間の言葉で決められていく。
もう冷静ではいられなかった。
弁護人が必死に反論している。
が、検察の追い打ちでその声はかき消されていく。
私は手錠に繋がれた手を強く握りしめる。
無実を訴えたい。真実を語りたい。
でも、それができない。
『やっぱり犯人なんだ』
『なんて奴だ』
傍聴席からのささやきが聞こえる。
『静粛に』
裁判長の声が響き、法廷が静まり返った。
(あ、もうだめなんだ私)
頭にそんな言葉が浮かんできた。
法廷の空気感から、私は自分が無罪になる可能性はないことを悟った。
その瞬間、裁判官の厳しい目が私に向けられた。
もう逃れられない。この不条理から。
『被告人を有罪とする』
その言葉が、私の胸に深く沈んでいく。
続けて、裁判官が刑の宣告を終えた。
法廷から連れ出される時、最後に振り返ると、傍聴席にいた家族の顔が、涙で歪んでいるのが見えた。
(ごめんなさい)
私はやっていない。無実なはずなのに、そんな言葉が頭に浮かんでいた。
こんなにも多くの人間が私を憎んでいる。
それなら、私がやったのかもしれない。
これが真実なのだろう…
真実の叫びは、永遠に私の胸の中に閉じ込められたまま、消え失せていく。