短編小説「私の運転」
「絶対に運転を辞めるつもりはない!」
私は大きく怒鳴り上げた。
娘は帰省するたびに、免許を返納するように勧めてくる。
もういい加減、嫌気がさしてきた。
私は問題なく運転できる。
それよりか、人よりうまい自信だってある。
父に年寄り扱いなど、あっていいことか。
『お父さん、私たちはただ心配しているだけなの』
「何が心配だ! 私は50年以上無事故無違反だぞ! お前たちよりも遥かに車を乗りこなしているわ!」
『でも…』
「でもじゃない!」
私は机を叩いて、娘の言葉を遮った。
『ちょっと、どこ行くの…』
背中に娘の言葉を受けたが、無視して歩き続けた。
話にならない。
私はむしゃくしゃした気持ちのまま、自分の車に乗り込んだ。
高齢者で、アクセルとブレーキを踏み間違えてしまったという事故があるみたいだが、そんな間抜けなこと、よく起こせるものだ。
私はアクセルを踏み込んだ。
でも、用事はなかった。
勢いで家を飛び出してきてしまって、どうしようかと悩んでいる。
車内が暑くなったので、窓を開けた。
気持ちのいい風だ。
若い頃はこうして、少しやんちゃに飛ばして走ったものだ。
私は大通りで、あの頃のようにスピードを上げた。
しばらくドライブを楽しみ、近くのスーパーに立ち寄った。
そして、購入した棒アイスを駐車場の車の中で頬張っている。
久しぶりのドライブは楽しかった。
まだまだ腕は鈍っていなかったし、運転の感覚も昔とは変わらない。
「ふん、これでも運転をやめろだと?」
車の中で独り言をつぶやいた。
娘の言葉を思い出すと、再び強く言い返してやりたくなった。
私は右手にアイスを持ったまま、ハンドルを握った。
エンジンをかけ、発進しようとしたが、車が前に進まない。
サイドブレーキを解除し忘れていたことに気づき、慌てて左手でレバーを下ろした。
すると、車が急に動き出し、思わずブレーキを強く踏んでしまった。
「くそっ」
一度、車の向きを変えるためにギアを動かした。
おかしい。
後退するつもりなのに、車は勝手に前に進んでいる。
車は速度を上げ、スーパーの入り口にどんどんと近づいていく。
あれ、おかしいな。
このままだとまずい、ぶつかる!
私は急いで、右のブレーキペダルを強く踏み込んだ。