短編小説「続く呼び鈴」
また鳴った。
あの耳障りなインターホンが。
カーテンの隙間から外を覗くと、玄関の前には相変わらずの人だかりができていた。
そして、様々な機材が並べられている。
『取材をお願いしたいのですが…』
インターホン越しに女性の声が聞こえてくる。
もう何も言うつもりはない。対話をするつもりはない。
思い出したくもない…。
もちろん彼らには、その旨を何度も伝えた。
そのはずなのに、毎日この調子だ。
『お一言だけでも!』
その言葉に、何かが熱く湧き上がってきて、危うくインターホンの返答ボタンを押しかけた。
たった一言で片付けられるほど、簡単なことじゃない。
家族を失った痛みも、これからの人生のことも、全て背負って生きていかなければならないのだ。
無関係な彼らに話す義理もなければ、価値もない。
私は電気も付けていない部屋に戻り、テレビの電源を付けた。
番組では未だに、あの事件のニュースが流れている。
ライブの映像では、許可も出していない自宅前が映されている。
『――被害者家族は姿を見せていません。現場からは以上です』
勝手なことばかり言う。誰のせいで家を出られないのか。
まるで私たちが何か悪いことでもしているかのような言い方だ。
『被害者家族の心情を考えると…この事件は…』
映像がスタジオに戻ると、専門家やコメンテーター達が議論を交わしていた。
心情? もう鼻で笑うしかない。
毎日何に苦しんでいるか、どうせ誰も知らない。
今は自分が何の被害者かすらわからなくなっている。
まだ外では人の声や気配が漂っている。
私は倒れ込むように、ソファに身を沈めた。
しかし、体には自然と力が入ったままだ。
もう考えるのはやめよう。
どうせ、明日もインターホンは鳴るから。