一休が自慢した漢詩
吟 行 客 袖 幾 詩 情
開 花 百 花 天 地 清
枕 上 香 風 寐 耶 寤
一 場 春 夢 不 分 明
一休さんの詩集『狂雲集』に出てくるこの詩は、「春衣宿花 周建喝食甲子十五歳」と題されるものだ。「吟じ行く旅人は詩情にあふれ、咲いては乱れ散る花びらで天地は清らかである、枕の上に漂うその香りは寝るともなく覚めるともなく、これはいったい春の夢なのだろうか」。拙いながらも自分なりに訳させてもらった。これは一休さんがまだ15歳、一休ではなく周建と名乗っていたころの作品だ。
この詩は、中国の古典をも踏まえてあり、当時、京で非常な評判になった、と一休さんの弟子が書き記した伝記の「一休和尚年譜」にある。そこに反抗の色はなく、穏やかな春の情景とそれに酔う自分の姿を描いた、とても美しい詩の世界が広がっている。一休研究者の今泉淑夫先生は、この詩が年譜に記された理由を、昔の思い出を大事にして折ふれてお弟子さんにこの詩のことを語っていたからだろう、と推測している。
そうだとしたら、なんとも微笑ましい。昔、自分の作った詩が京中で評判になったんだぞ、と自慢をする一休さん。お弟子さんも、もしかしたら、師匠またその話ですか、などと言って聞き流していたかもしれない。今となっては事実は知る由もないが、そんな偉人の姿を想像することも歴史の楽しみじゃないかな、と思ったり。桜すでに散り、葉桜が澄んだ青空に映える時期ですが、一休さんから預かった少し遅れてのお花見の招待状でした。
(戸谷 太一)
【2010.5.1 嵯峨野文化通信 第102号】
画像: http://www.inocchi.net/blog/2154.html より