童話「少年と小鳥」
山深い小さな村に、少年とお父さんが二人で住んでいました。お母さんは少年が小さいときに亡くなっていて、お母さんの形見のペンダントを、少年は胸からかけていました。一方お父さんは木こりで、いつも木を切って生活していました。少年は、そんなお父さんの姿を見て、自分もいつか木こりになろうと思っていました。しかしそれとは別に少年にはもう一つの夢がありました。
それは、大空を飛ぶ小鳥のように空を飛んで、はるか彼方にある島々を旅することでした。
少年は空が飛べるように、小鳥のような羽を作って、自分の体につけて飛ぶ練習をしました。でもどうしてもうまくいけません。全速力で、走って、地面を蹴って、その羽をめいっぱい動かしますが、どうしても飛べません。少年は小鳥と仲良くなって、羽そのものや、羽の動かし方を教えてもらいました。でもどうしても空を飛ぶことができませんでした。
そんなある日のこと、お父さんが、大きな怪我をしてしまいました。急いでお医者さんに見せると、お父さんの傷はとてもひどいものでした。その傷を治すには、はるか彼方にあるレントウ島に咲いている星の花が必要だと言いました。船でとりに行っても、日数がかかりすぎて、お父さんの命は燃えつきてしまうでしょうと言われました。
少年は泣きました。もし自分が小鳥のように空を飛べたら、その島にあっというまにたどり着くことができて、お父さんの命を助けることができるでしょう。なのに、自分はいまだに、空を飛べていない。少年は悔しくて悔しくて泣きました。
その時です。とても強い風が吹いて、木の上で鳴いていた小鳥が、地面にたたきつけられました。そして小鳥は、羽に傷を負いました。少年はすぐにその小鳥の羽の手当をしました。
小鳥は少年にお礼を言いました。
「ありがとう」
「いいよ、お礼なんて。いつも飛び方を教えてくれているから」
少年は一生懸命笑顔で、そう答えました。
小鳥は心配そうに言いました。
「お父さんのことが心配だね」
「うん……」
一瞬少年の顔がくもりました。小鳥は言いました。
「傷を治してくれたお礼に、あなたに魔法の羽をあげます」
「魔法の羽?」
「そう、この羽を体につければ、きっとあなたは空を飛べます」
そう言って、小鳥は大きな白い羽を、少年につけてあげました。白い羽をつけた少年は急に体が軽くなって、空を自由に飛べることができるようになりました。
「わわっ! ありがとう。この羽があれば、お父さんの傷に効く花をとってくることができるよ」
少年はうれしくなって、小鳥にお礼を言いました。
「お礼には及びません。ただし、この羽は使い始めて10日間で消えてしまいます。10日までに必ず戻ってきてください。絶対ですよ」
少年は、小鳥の助言を聞き、必ず10日までに戻ることを約束しました。
こうして少年は魔法の羽をつけて、島へと向かいました。旅は最初順調でした。太陽は穏やかに輝き、海はゆったりと波打っていました。この調子だったら、10日と言わず、5日もあれば自分の村へ帰ることができるだろうと思っていました。
しかし、2日後、大きな嵐に見舞われました。海の波は巨大な怪物のようにうねり、少年を何度も海の底へ連れ去ろうとしました。ずっと海を渡ってきた少年は、ひどく疲れていました。海水の冷たさと、どこの島にも寄らず、海だけ通ってきた少年は、とてつもない眠さに襲われ、ついには海の中に引きずり込まれてしまいました。
それから数日後、少年はとある島の人に助けられていました。少年はなんとか助かりましたが、その島は少年の目指している島とは全く逆の方向の島でした。急いで島へ向かわなければ、お父さんの命が危ないと悟った少年はすぐに出かけようとしました。しかし、少年のいる島は大きな洪水に見舞われてしまいました。たくさんの島の人が洪水のせいで、安全ではない場所に取り残されてしまいました。
困っている島の人達を見て、少年は助けなくてはいけないと思いました。そこで少年は島にとどまり、空を飛んで島の人々を安全な場所へと運んであげました。島の人々の避難は丸一日かかり、ようやく落ち着きました。少年は島の人々にお礼を言われましたが、羽の消える日が近づいてきました。少年は急いで、レントウ島へと向かいました。
飛んで、飛んで、飛んで、息が切れるぐらい飛び続けました。少年は必死な思いで飛び続けました。そして8日目の日にようやく島へとたどり着きました。花はすぐに分かりました。火花をちらしたようなかわいい黄色の花が、目指すべき星の花でした。少年は何本かの星の花をつむと、すぐに元来た道を、魔法の羽を使って飛び続けました。
そして10日目、少年はまだ海の上にいました。間に合わなかったのです。魔法の羽は体から消えてしまうだろうと少年は思いました。しかし羽は消えませんでした。けれどもそのかわり、少年は本物の小鳥になってしまいました。手や足は消え、かわいらしいくちばしと、小さな黄色の足へと彼の体は変わってしまいました。それでも少年は星の花をくわえて、飛び続けました。
そしてそれから1日後少年はようやくなつかしい村へとたどり着きました。でも誰もその小鳥が少年だとは気づきませんでした。お医者さんは、小鳥のくわえてきた星の花を、天の助けだと言い、すぐに少年のお父さんの傷に塗りました。するとお父さんの命は助かりました。
それからしばらくして、お父さんは元気になりました。お父さんは一匹の小鳥が自分の命を救ったことをお医者さんから聞きました。
けれども星の花をとりに行った少年が戻ってこないことを心配しすぎて、お父さんは病気になってしまいました。小鳥になってしまった少年は、お父さんに自分はすぐそばにいることを伝えることができませんでした。少年はなんとか伝えようと、ベッドで眠っているお父さんのそばに行きました。そしてきれいな小鳥の声で鳴きました。お父さんは、小鳥の声で目を覚ました。そうして小鳥を見つめると、小鳥の胸元に少年がいつもしていたペンダントをしているのに気がつきました。そしてようやく、この小鳥が少年であることに気づきました。
「そうか、そうか。おまえは私のために星の花をとってきたのだな。しかしおまえ、こんな姿になってしまって……。すまなかったおれのせいで」
そう言ってお父さんは一粒の涙を流しました。その涙は、ちょうど小鳥のペンダントにかかりました。そのとたん、小鳥だった少年は、羽毛から手足がにょきにょきと伸びだし、あっというまに元の人間の姿に戻りました。
「お父さん!」
「おまえか、本当におまえか」
二人は抱き合って、お互いの無事を確かめました。少年はお父さんに今までのことを話し、この奇跡に感謝しました。
木の上では、小鳥がさえずり、二人の再会を祝福していました。
(おわり)
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