【あなたは使いこなせている?】ストーリーの5つの型(2012年4月号特集)
※本記事は「公募ガイド2012年4月号」に掲載された柏田道夫先生のインタビュー記事を再掲載したものです。
ストーリーの5つの型
ーー面白いストーリーとはどういうものでしょうか
この先どうなるのだろうと思えるようなものや、キャラクターに感情移入できるようなものですね。
――ストーリーの型にはどのようなものがありますか。
ストーリーには五つの型があります。一つめは「サクセスストーリー」。スポーツものによくありますが、たとえば、ボクシングでタイトルマッチに出てチャンピオンベルトを獲るような話がそうです。主人公に才能があって、一生懸命努力して目標に向かって頑張る。そこに障害があってライバルがいて成功を阻む。一難去ってまた一難。その中で積極的に成功を目指して目標に向かっていくという話です。
この場合、主人公にはハンディキャップを持たせ、目標から一番遠いところにいる人物にするといい。目標に到達するまでの道のりが長く、障害があって大変だろうなという状況を作り、その中で主人公に頑張らせる。そういう姿を見せると読者は感情移入しやすくなります。
――ポジティブな主人公ですね。次の型はどんなタイプですか。
二つめはこの逆で「巻き込まれ型」。
普通の平和な生活をしている主人公が、突然容疑をかけられる。容疑を晴らすため、必死に頑張らざるを得なくなる。そして努力を重ねていって、もとの生活を取り戻していく。『ダイハード』や『逃亡者』のようなタイプが「巻き込まれ型」です。この場合のおもしろさは必死さ。これをどう描くかにかかってきます。
――三つめは?
三つめは「ロードムービー」、いわゆる旅ものです。ギリシャ神話の『オデュッセイア』や『ロード・オブ・ザ・リング』がそうです。旅ものでは、主人公は目的地を目指して旅をします。人生は旅であると言いますが、旅にも人生と同じように困難が待ち受けています。それを乗り越えさせるところにおもしろさが生まれます。
――四つめはどんな型ですか。
四つめは「空間限定型」です。物語の舞台が限定されたタイプです。ある場所に主人公がやってきて、トラブルが起きる。そして、みんなで力を合わせてトラブルを解決し、主人公は去っていく。これは名作映画『グランドホテル』が空間限定型であったことから「グランドホテル形式」とも言います。三谷幸喜の作品にもよくあるタイプです。
――最後の型は?
五つめは「相棒もの」。「バディもの」とも言います。主人公のほかにもう一人、副主人公がいます。この二人がいて、対立したり、葛藤したりする。
――五つの型の組み合わせのようなパターンはありますか。
「バディもの」は、二人、もしくは仲間たちと旅をするものも多いです。人物がケンカしたり仲良くなったりすれば、旅にも変化があるのでより良いのです。
また、「空間限定型」の一種に「同居もの」があります。同居する二人がケンカしたり仲良くなったりして、バディになることで話を盛り上げていきます。「サクセスストーリー」も「バディもの」が多いです。たとえば『マイ・フェア・レディ』。成功する人間とそれを助ける人間がいて、助ける人間は障害でもあり、恋愛の対象でもありますが、二人は同じ目的を持つバディでもあります。
五つの型はベースですので、あとは組み合わせです。いろいろ組み合わせ、バリエーションを考えてみてください。
類型的にならない秘訣
――アイデアを出すためにしておくといいことはありますか。
誰かが言った一言や新聞記事など、これはおもしろいと思ったものは、ネタ帳に書いて形にしておきます。まず、これは基本です。
ネタ帳に書く際は、必ず出典と日時を書いておきます。ネタだけではどんな内容だったか忘れてしまうものですが、そこに日時と新聞名や番組名などが書かれていると、映像が浮かんで思い出せます。
――うまくアイデアが引き出せないときは、どうすればいいですか。
とっかかりを見つけることですね。公募の場合、課題が設定されていることがありますが、その場合は課題をとっかかりにしてみる。たとえば、課題が「卒業式」なら、「サクセスストーリー」がいいか、「巻き込まれ型」がいいか、どの型でやると一番効果的かを考えます。そうするとストーリーラインが出てきます。枠があったほうが作りやすいのです。課題がない場合は、自分で設定します。
同時にジャンルやタッチも考えます。
シリアスかコメディか、恋愛ものか、ミステリーか、SF・ファンタジーか、または人情ものかを設定していきます。
――どうしてもどこかで聞いたような話になってしまう人は?
たとえば、課題が「介護」であれば、田舎を訪ね、おばあちゃんが若いときに熱愛をした話を聞くといった話にしてしまいがち。それでもおもしろくはなるかもしれませんが、公募の審査をしていると、「またか」と思ってしまいます。
――そうした場合の対処法は?
一つの方法はジャンルを変えてみること。これは笑い話でよく言うのですが、単なる介護体験ではどれも似たようなものになってしまいますから、いっそサスペンスにできないかと。病気のおばあちゃんを訪ねたら、とんでもない事件に巻き込まれてしまったとか、おばあちゃんに重大な秘密があることを知り、その謎を解くとか。そのように少し発想を変えると、オンリーワンの物語になります。
伏線、秘密、意外性
――書いていて途中で行き詰まる人はどうしたらいいですか。
慣れない人は、ある程度のプロット、ハコとも言いますが、構成を作っておいたほうがいいですね。そうすれば途中で行き詰ることはありません。特に長編の場合はなおさら重要です。
プロットを作らない場合でも、どこに着地するか、どういう場面をクラマックスにするかといった展開は、ある程度、決めておきます。決めておけばそこに向かって書いていけますが、ゴールが見えないうちに見切り発車をしたら危険です。
――話がおもしろくなる秘訣のようなものはありますか。
伏線、秘密、意外性ですね。
伏線というのは、前のほうで見せておいた何かがあとでつながるという、その何かです。これが鮮やかに決まると、作品はかなりの確率で成功に近づきます。
ただし、ある程度計算をした上で入れないと回収できなくなります。
秘密の要素も大事です。秘密は、読者を次のシーン、次の展開へと引っ張る要素です。つまり、「どうして?」と思わせるわけです。逆に、あらゆる情報を全部さらけ出してしまったのでは、次のシーンへの興味がなくなってしまいます。
意外性も不可欠です。読者はどこかで結末を予想しているものですが、それが見え見えではおもしろくなりません。しかし、とはいえ、「そんなことありえないよ」という結末では失敗ですから、リアリティーもあり、意外性もありというふうにしたいわけです。
――アマチュアの方の作品には、全部秘密にしてしまっている作品もあります。
秘密は、次のページへと読者を引っ張る要素ですが、かといって全部秘密にしてしまうと、何が書かれてあるのか分からなくなって、読者はイライラします。
――秘密を明かしたとき、だから何なのと思ってしまう場合もあります。
説得力の問題ですね。こうなるだろうなという読者の予想がひっくり返され、「なるほど、そう来たか」と気持ちよく騙してくれると満足します。しかし、「こうなるだろうな、ああやっぱりだ」というのでは秘密ではない。「予想は裏切り、期待は裏切るな」ということです。
特集「ストーリーメイクの鉄則」
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※本記事は「公募ガイド2012年4月号」の記事を再掲載したものです。