幸せの扉
なんだかよくわからない世界に足を踏み入れたわたしですが、新しい場所には新しい出会いが、たくさん待ってくれていました。
草の根BBSの世界
「草の根BBS」というのは簡単に言うと、ニフティのような大手のパソコン通信じゃなくて、ごく小規模な仲間で運営している集まりだ。
何もわからないわたしだったが、実際に参加してからいろいろと勉強させてもらった。ネットワークの概念もホストコンピューターという言葉も、ここで学ぶまで全く知らなかった。
ちょっと大人の世界
ニフティでは決まった人と仲良くなることがなかったけれど、草の根BBSではいつも同じ顔ぶれが集まっていた。
人数は多い時で10人くらいだけれど、入れ替わり立ち替わりだったので、参加者の総数は20人くらいだったと思う。
参加している人はほとんどが社会人で、年齢もニフティで出会う人たちよりもずっと上だった。20代の人はわたしを入れても4人で、30代、40代の人が多かった。
ウーロン茶で乾杯して
初めてオフ会(ネット上で会っていた人とネット以外、つまりオフラインで集まる会)に参加したのは、まだ一ヵ月経っていない頃だった。
10人くらいが集まって、乾杯をした。飲めないわたしはウーロン茶を頼んだ。
お酒は全く飲めないわけではないけれど、飲むと眠くなるので、自宅以外で飲むことはあまりなかった。お薬を飲んでいることもあり、積極的には飲まない。
ウーロン茶を飲みながらいろいろと注文をした。だいたいこういう時にわたしは自分の意見を言えない。食べ物にあまり好き嫌いがない方なので、出てきたものの中から好きなものを食べる。
ドン!
気づくとわたしのほぼ目の前にほぼ丸ごとのチキンがあった。
なんだこれは??
「すごいの来たな」
隣に座っていたSさんが、自分の方にチキンを近づけた。気づいたら、チキンを小皿に取り分けて、わたしにくれた。
これはわたしの人生の中で、ものすごく大きなことだった。
お店の人はたぶん、参加しているメンバーで唯一の女性であるわたしを選んで、目の前に置いたのだと思う。
でもわたしはお料理関連のことがさっぱり出来なかった。だから当惑した。
なのに隣のSさんは自然に取り分けて、みんなに配ってくれたのだ。
この瞬間から、永遠に、Sさんはわたしの恩人となる。
「あの時、チキンを取り分けてくれた人」という修飾語がつく恩人だ。
モテモテとは少し違って
草の根BBSの人々はわたしと仲良くしてくれた。というか、仲間として迎えてくれた。
かなり早い時期にわたしは、自分の病気のことをネット上で他のメンバーに話していた。でも態度を変える人はいなかった。
コンサートやミュージカル、ライブハウスなどに連れて行ってもらった。
オープンカーでのドライブや日帰りスキーにも行った。スキーはこの時が最初で最後になった。
誰かと二人で出かけたり、何人かで出かけたり。いろいろだった。
みんな仲良くて、どんなことがあったかを報告しあった。
以前のように、わたしが不細工だからと態度を変える人もいなかった。
本当に楽しかった。
長かったわたしの坂道も、ようやく踊り場を見つけたような気がした。
【シリーズ:坂道を上ると次も坂道だった】でした。
写真は「みんなのフォトギャラリー」からお借りしました。
まだ白い世界の中に、美しいものを見つけた、
この頃の心象風景にぴったりな写真です。
優しい作品を、ありがとうございます。