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不意打ち
また始まった一日。
昼過ぎになんの気なしに高円寺に行ってみる。服屋を覗いたり、気が向けば喫茶店に行ったり、ぶらぶら歩いて気晴らししようと。
ふらっと立ち寄る店、何回も行ったことがある店。
何回か行ったことがある本屋さん。
久しぶりに行くと人が多かった。街に人も多い日曜日の昼過ぎ。
なんの目的もなく棚を見て、面白そうな本を探す。
店内には有線かなにかの音楽が流れていた。
しばらくすると、うわ、懐かしい。と思う曲が流れた。
けど、曲名もアーティストもまったく思い出せない。
ただただ曲を、メロディーを強烈に憶えていて、でも思い出せない。
なんだこれは、と思う体験。
本を一冊買って、喫茶店に行く。
その道すがら頭の中はずっとさっきの曲を思い出そうとしているのだけれどぜんぜん思い出せない。でも懐かしさの感情がとんでもない。なんでだろうと思いだしても、自分でCDを買ったり、ダウンロードしたこともないからわからない。どこで聴いたのか、なんでこんなに懐かしいのかわからない。まるでその記憶の部分がまるっきり欠け落ちているような感覚。懐かしさだけが残っている。
喫茶店で、曲名もわからないからフレーズを検索する。
そうすると、キンモクセイの二人のアカボシという曲だった。
2002年の曲。まだ子どもだったときの記憶。
なにがあった年だったんだろうと思い出す。
そうすると、すっかり忘れていた記憶を思い出した。
普段まったく意識しない記憶の部分。触れられていない部分。
人生の中の一瞬で過ぎる期間。
そんな大切な部分を忘れていて、
それでも生きていて、淡々と毎日を送っていた。
なくても良いものなのかも知れないけれど、
何気なく行った街のなんとなく足を伸ばした店でたまたまかかっていた曲から自分のそんな部分を思い出して、人生の醍醐味のようなものを感じた。
たまたま、タイミングが合って、そんな偶然の選択が、大事なことを決めていくことをもう知っているけれど、それでも忘れてしまう。毎日の生活の中で、どれだけのことを忘れてしまっているのだろうと考える夜。