夏夜
夏は体が動く気がする。
暑いから、かもしれない。
暑くて外に出ないから体力があり余っている、かもしれない。
動き出すのはいつも夕方からで、夜遅くの散歩が習慣になる季節。
夏の夜は思っているほど暑くはなくて、
昼間の暑さは肌を刺すような光を降り注いでいる太陽のせいなのだということを実感させてくれる。
それでも春や秋の夜に比べればずいぶん暑いことには変わりなく、でも夏の夜特有のもわっとした、ぬるっとした空気がまとわりついてくる。家の扉を開けた瞬間、夏の膜に覆われるような感覚を抱く。
数分歩いて立ち止まる。すると身体中から汗が滴り落ちてくる。
自分はこんなに汗をかくのか、と思わせられる。
夜の川べり。
途中の自販機でスプライトを買って、飲みながら川沿いをあるく。
光を反射する水面をただただ目に映しながら私の中身は溶けていく。
ただ見て、歩いて、飲んでいる。
なにも考えていない、考えられなくなることは感じる。
ただそれだけ。
光を反射する水面はいつまでも見ていられる。
いましかそこにない光。
でも繰り返しそこにあるように見える。
綺麗で、綺麗で、綺麗なのだ。
そこから目が離せなくなる5分間。
私は本当にただただ光を見ている存在になる。
帰り道、また歩かないといけない。
また明日、生活しないといけない。
仕事をしないといけない、読みかけの本、そういえば最近本を読めなくなってきているな、週末行きたい気になる中華屋、海外旅行したいけど、もう少し貯金したいな、猫のご飯をそろそろ買っておかないと、休みまであと2日、暑すぎる毎日。
そんなことを考えなくなる時間。