部屋のなか
休みの日、彼女は夕方になって初めて外に出た。
朝から起きて、食事をしてコーヒーを淹れて本を読んで。
ラジオを聴いたり、パソコンを開いて作業したり。
ずっと座っていると体がむずむずするから、たまに立ち上がってそのまま30分くらいは立ちっぱなしで本を読んだりする。ラジオをつけているから部屋から出なくてもいろいろなことがわかる。誰もいないけれど人の話す声が聞こえる。
でも彼女はその聞こえる内容のどれもあまり覚えていない。
なんとなく、耳に入ってくる音としてしか聞いていなかったから。
テレビをつけると、芸人やタレントや元スポーツ選手が東京の街を散歩する番組が流れていた。チャンネルを変えても同じような番組が流れていた。
それを見ると、部屋にいるのにその街に行ったような気持ちになった。
彼女は東京にいて、その街には20分もあれば行けるのに。
行ったことがないのに、行ったような気になって、きっと私はそこにいくことはないのかもしれない。見ながらそう思っていた。
部屋の中にいるだけなのに、情報に埋もれてしまう。
それが辛くなって、彼女は出かけた。
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