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コロナ禍ルール適用後の戦術を考察

突然のことでびっくりしましたが、新型コロナウイルスの影響で試験的ルールが提案されましたね。

驚きすぎてザーッと一気に考えをツイートしてしまいました。

このルールは各国が国内リーグにおいて導入するかどうかを選択することが出来るようですが、今日はこの試験的ルールが導入された場合の戦術について考えていきたいと思います。

↓試験的ルールの詳細はこちらからダウンロードできます↓
https://playerwelfare.worldrugby.org/?documentid=226

ダウンロードするのは少し手間だと思いますので、こちらをご覧ください

スクリーンショット 2020-05-29 10.19.21

スクラム、タックル、ラック、モールという身体的接触を伴うプレーに対してのルールが記載されています。
各項目ごとに考えられる戦い方、複合して考えたときに導かれる戦い方を考察していきます。


スクラム

・反則がない場合は組み直さない
・ペナルティ、フリーキックからのスクラムのチョイス禁止
・ヘルドアップ、自陣インゴールノックオンのリスタートがドロップアウトに

ざっくりとこのような変更が記載されています。
まず一つゲームを変える要素として大きいのが組み直しの制限です。この辺りはレフェリーのレベルが問われる部分であると思います。
トップクラスのレフェリーであっても、スクラムが崩れた理由を反則があったかどうかという目線で毎回正確にジャッジできているかというと疑問が残ります。
今まではゲーム中に組み直しをすることでレフェリーのスクラムの反則の判断基準をプレーヤーに知らせていました。また、そのまま組んでしまうと怪我のリスクがあると判断された場合にも途中でストップがかかっていました。

組み直しが制限されると、こうした観点からレフェリーの行動がとても難しくなることが考えられます。
以上を考慮した上でスクラムが崩れた場合にレフェリーがどうジャッジするのか、行動は2通りに分かれると思います。

1.基本的に反則を取らない
2.気にせず反則を取る

1が想定されるシチュエーションとしては、レフェリーがスクラムのジャッジに自信を持っていない場合や、逆サイドを起点としてスクラムが崩れた場合などがあげられると思います。
こうした場合にはスクラムで劣勢に立っているチームが意図的にスクラムを崩すという行為にメリットが生まれてしまいます。

2が想定されるシチュエーションとして、トップレベルのゲームでレフェリーとARが上手く連携できている場合、スクラムにおいては押されている側が反則を犯しているという思い込みを持ったレフェリーがジャッジする場合が挙げられます。

トップレベルのゲームにおいてはあまり大きな変化は無いのかもしれませんが、大学や高校のカテゴリーでは、スクラムに強みのあるチームの優位性というものはほとんどなくなってしまうのでは無いかと懸念しています。

また、こうした状況からスクラムの重要性が低下し、パワフルなFWよりも機動力のあるFWが起用される可能性が高まるのでは無いかと考えています。こうしたメンバー編成の変化は試合にあまり出られなかった選手にとってはチャンスであると同時に、スクラムを武器にしている選手達にとっては酷なものだと感じてならないです。


タックル

・チョークタックルはタックルとする

大きな変更点はこれだけですが、僕はこの文を見た時に強烈な違和感を覚えました。
まず一つ疑問に思うのが、「チョークタックルの定義とは何か」という部分です。

・相手を倒そうとしてタックルしたが、相手を倒すことができず結果的にモールアンプレイアブルになった場合はチョークタックルと呼ぶのか?

・ラインアウトモールをDFする際のコンタクトをなんと定義するのか?

こうした疑問が浮かびました。
チョークタックルが発生した場合は「モール」ではなく「タックル」とレフェリーがコールするようですが、このあたりの判断はレフェリーも難しく感じるのでは無いでしょうか?

もう一つ疑問に思った点が、「チョークタックルはタックルであるため、どちらのチームもボールをプレーしなければならない」という部分です。

僕はこれをラックに置き換えて理解しようと考えました。

タックラーにはボールキャリアーを放す義務がある
ボールキャリアーにはボールをリリースする義務がある

こうして考えた時にこのルールにおける最適なATの行動はラックを作らないことなのでは無いかという結論に至りました。

具体的にいうと
・ATはキャリアー+サポートの合計2人でDFにヒットし、サポートプレーヤーはATを倒れさせないようにだけ行動する (モールでは無い)

↓この時点でDFはボールに働きかけることが禁止される

・ATはタックラーがボールに絡んでいるかのように振る舞うことで、反則を誘うことができる

・または、タックラーが密集から離脱した際に、サポートプレーヤーがボールを受け取り前進し、当初のキャリアーと二人で前進し続ける。

この2つのオプションをATが持つことでDFは密集から離脱すべきかどうかという判断をすることが難しくなります。

チョークタックルに関するルールを突き詰めていくと次の項であるモールの話にたどり着きます。


◇モール

ラックに関しては大幅な変更がないので一旦省きます。

・モールに途中参加してはならない
・モールは一回だけしか前進できない

この二つが全体のゲームバランスを狂わせる大きなルールだと感じています。

モールに途中参加してはならないということは、フィールドモール(いわゆるリモール)を止める手段がないように感じます。

前進できる回数を制限することでバランスを取ろうとしているのかもしれませんが、動き出したモールはただでさえ止めることが困難であり、途中参加できないとなると尚更止めることは難しくなります。

「組んだ瞬間に止めればいいじゃないか」と考えることもできますが、これもまたとても難しくなっているように思います。

ラインアウトモールの想定で考えますが、DFは基本的に最低でも4人頭を差し込まなければモールを押して止めるのは難しくなります。(引き倒しやエスケープなどもありますが)
最低4人は参加するとして、残りのメンバーはここで参加すべきかどうかとても難しい判断を求められます。

エスコート.001

※画像のラインアウトは6men+の設定です

まず、上図のように4人は参加し、残った選手がモールサイドをDFするというパターンを考えます。

この場合、ヒットの時点で青チームのモールを割ることができればいいですが、それができなければモールを永遠に押し込まれることになります。

またこれは理想的に止められたパターンの想定ですが、そもそものモール形成のスピードでこのようなポジショニングすらできない可能性も十分にあります。

途中参加ができないというルールは下の図のような現象を引き起こす可能性も十分存在すると考えられます。

エスコート.002

最初から全員入ってしまえ!というパターンです。
この時、DF側のHOは途中参加という扱いになると感じたので図上では参加させていません。

DF側が全員参加するとなるとATは当然、図のようにモールサイドのスペースに仕掛けることを考えます。要するにピールオフです。

こうしたプレーはもちろんコロナ以前から存在しますが、試験的ルール採用によって、よりDFすることが困難になりATの定石になるのではないかと思っています。


◇全体の戦略◇

まず、ここまでに書いたことをまとめます。

・スクラムの重要性低下&反則を取られづらくなる可能性
・チョークタックルによるモールではない密集の利用
・モールDFが困難になる

これらを総合して考えていきます。

まず、ATはミスを犯してもスクラムを反則に見えないように崩してしまえば、相手ボールのフリーキックとなります。
フリーキックから選択できるチョイスとしてはタップキック、タッチキック、ロングキック、ハイパント、キックパスなどと考えられますが、ボールを相手に渡すチョイスがとても多くなります。
裏を返すと、相手にフリーキックを与えてもボールを再獲得できる可能性がとても高いということです。

つまり、ATはミスを犯すリスクがとても低くなります
また、フリーキックからタッチキックを選択された場合はマイボールラインアウトからモールで攻撃することで優位な状況を作りやすいということもあり、ボールを保持し続けるメリットが以前よりも大きくなります

そしてDFはボールを奪うための手段の一つであるチョークタックルがなくなることで、ボールの再獲得の確率が以前より低くなってしまいます。

要するにATをし続けるチームがとても有利になるため、キックによるエリアマネジメントなどの重要性が相対的に低下します。

ここに強みを持っているチームやスクラムに強みを持っているチームにとってはとても辛い時期になるのではないかと感じます。
逆に、ラインアウトの重要性が飛躍的に上がるため、長身のプレーヤーが重宝されることになり、今までのラグビーとは全く違うスタイルのゲームが展開されると予想できます。


こうしたルール変更に伴う、ゲーム構造の変化は戦略戦術に大きな変化をもたらします。
こうした機会だからこそ、ただ表面的に戦術をなぞるのではなく、ゲーム構造からラグビーを考え直すという時間を作ってみてもいいのではないでしょうか。



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井坂 航 (Kou Isaka)
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