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【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(49)「貸してください」
翌朝、朝食を取らない陽からの連絡を待ちながら、ホテルレストランで朝食ビュッフェを満喫。
泊まったのは、ANAクラウンプラザホテル京都。ここのビュッフェはレベルが高いらしく、陽が選んでくれたようだ。
二週間ほど落ち込んでいたが、お陰で元気になった気がする。組織《ネス》についても、少なからず知ることが出来た。
彼への信頼も深まっていた。
部屋に戻り、ネットニュースをチェックするも、風間に関するような情報は見当たらない。
ふわふわのベッドに馴れていない私は、大きめのソファーで両膝を立て座り、目を閉じる。
どのくらい経っただろうか。SNSの受信音に反応し、瞬時にスマホを手に取った。
『15分後』
すぐに部屋を出、チェックアウト。地下駐車場からRXを解放させた。
昨夜、ホテル近くの路地で陽を降ろした場所に向かう。そういう段取りだった。既に立ち待つ少年を乗せ、颯爽と走らせた。
ナビゲーション担当の機械女ではなく、少年の生ナビで目的地へ。
風間の遺体は最寄りの病院から、自宅ではなく、別の場所に搬送されていた。
本来なら解剖のために、京都大学解剖センターか市立病院へ運ばれる。ただ解剖すると蘇生は不可能となるため、解剖は拒否するはず。そして奉術師に処理されたとなると、知られている自宅での安置を避け、知られていない場所へ搬送する、と。
全て、陽の読み通りになっていた。
さらに昨夜、彼は教えてくれた。
風間の家に泊まる何人かの内の一人は組織《ネス》側であること。常に同行し、場所をGPSで知らせるようになっていることを。
着いた場所は、中心街から離れた立地にある古そうな、五階建てのビジネスホテルだった。
駐車場は地下にあるようで、建物左側に下る出入り口がある。満員御礼とはほど遠い色褪せたホテルだ。昭和に建築されただろうデザイン。良く言えば穴場。観光客は……先ず来ないだろう。
その周囲には、雑居ビルやマンション、小売店鋪が少々。大半は民衆宅だ。
「陽、本当にココ? 」
「GPSの誤差を考えても、ココか両隣のビルになるみたい」
愛車を路上停車させ、周囲を見渡した。駐車するようなスペースが全くなかった。
「長時間路上駐車するのは難しいわね。どうしようか」
言っている矢先だ。
「そこの車、ここは駐車禁止区域です、すぐに移動しなさい」
偶然にも通りがかった小型パトカーから、大音量の警告。
「チッ!」
サイドブレーキ解除とシフト作動を同時に行ない、早々に移動。周囲をグルグル周り、ホテル前の道路を往復する羽目になった。
これでは命毘師が現れても、見逃すことになりかねない。
車を他へ置き、生身で張り込むことも考えたが、身を隠す場所が電柱しかなかった。見つかる可能性、不審者として通報される危険性が高かった。それに日中は、暑くてたまらない。
幽禍を探偵役として張り付ける直毘師の技も、相手が明確でない限り無理。
流石の陽も、頭を抱え込んだ。
暫くして、私の閃き。
ホテル前の道路をゆっくり走行しながら、ホテル反対側に連なる物件をチェックした。出入り口を確認出来ればいい。真正面を避け、斜めから張り込める二階以上の部屋を。ドラマでもあるシーン、刑事が部屋で張り込むような適した建物を探した。
候補は二ヶ所。二階建て木造アパートと、三階建てビルの三階空きテナントだ。
「ちょっと待ってて、陽」
再び路上に停車させ外に出た私は、これらを管理する不動産へ、番号非通知で電話。両物件とも同不動産だが……呆気なく粉砕。二日間だけ貸して欲しいなど、やはり無理な交渉だった。
(陽にお願いして、警察に手配してもらった方が早いかなぁ。……結局、陽に頼りっぱなし)
気落ちしながら、路駐の車へ戻ることに。
途中目に入ってきたのは、ハザードを焚《た》いた軽自動車から降りた老女が、ガレージのアルミ扉を手動で開けているところ、だ。
それを横目に通り過ぎたが、ふと立ち止まり振り返った。旦那らしき老男が、バックでガレージに収めていた。
頭の中で何かまとまったプランがあったわけではないが、歩み寄り、その老夫婦に声を掛けた。
「こんにちはぁ」
「こんにちわっ」
見知らぬ私に、笑顔で挨拶してくれた老夫婦。
「こちらにお住まいの方ですか!? 」
「はい、そうですよぉ。何か御用ですかっ? 」
優しく応えてくれたのは老女。
「お願いがあります」
「うちは二人とも年金暮らしだから、お金なんかありませんよ」
(訪販だと思うわよね)「いいえ、違います。実は困っていて……助けてください! 」
平身低頭した。頭を下げたまま、老夫婦の反応を待った。
それほど時間は掛からなかった。
「何かご事情があるようですね。ここじゃ何ですから、お入りください」
まさかの応対で驚いた。顔を上げると、先ほどと変わらない老夫婦の笑顔。誘われるように玄関から入り、話すことになった。
正直に話したわけではない。
父が度々京都出張があるものの浮気の疑い、そこのホテルで会っているのではないか、母に内緒でそれを調べるため弟と来た、という状況設定にしたのだ。口からのでまかせがスラスラと。
「二日、いいえ三日間、この家の二階を貸してください」
「あらまぁ」