【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(54)死と蘇生
(私一人じゃ、どうすることも出来ない。陽にもしものことがあったら私……誰か、誰か……レイ!? )
ふと少女の顔が浮かんだ。
が、自ら否定した。これまで彼女に対する酷い言動があったからだ。彼女が助けてくれるとは想像すら、出来なかった。
ナビ画面操作で『アオイ』を選択していた。登録されている、電話帳の名。
ただ、陽と碧は闘ったばかりだ。助けを求めるのには気が引け、画面を地図に戻した。
朝日が起こした大都市に、到着した。が、どの辺りを探せばよいのか、見当もつかない。
電話をかけるも、陽の応答はない。
カーナビあてに霞ヶ関周辺を、巡回するしかなかった。
次第に車やタクシー、バス、徒歩通勤する人たちが増えて来て、埒が明かないと考え決意した。もう悩んでいる時間と心の余裕はなかった。
「碧くん、ごめん、お願い、助けて」
ブルートゥースで話した相手は、1時間ほどで情報収集し、少年の居る可能性の場所を教えてくれた。ヒーロー気取りのお坊ちゃまだと思っていたが、その素振りなく「危険過ぎる」と警告もしてくれた。
せめて建毘師たちと合流するまで、現地近くで待機してて欲しい、と懇求された。頼んでもないのに、碧が手配してくれると言う。
「ありがとう。でも、陽のことが心配……間に合わないかも……私、先に行ってるから……」
高まる不安と少年の安否が、逸《はや》る気持ちを抑えきれず、南下した。
場所は、東京オリンピック会場建設のため工事が行なわれている、東京港中央防波堤外側地区。東京ゲートブリッジ、臨界トンネルなどの全面通行止めが発令されていたのだ。
陽と共に組織と対峙したが結局、私は足手まといになった。
それに組織は、陽の実姉を人質に取っていた。
戦闘後の埋立地で力尽き、16歳の少年は息を引き取った。
私は闇によって、幻覚幻聴で苦しんでいた。
どうすることも出来なかった私たちを助けてくれたのは、端上レイ、伊武騎碧、そして安倍坂一族だった。彼女らによって陽は期日前に蘇生した。
それに必要な命《みょう》をくれたのは、力のない実姉だった。監禁されていた彼女を救い出したのも、伊武騎たちだった。
そのため、陽は奉術師としての能力を失うことに。それが奉術師の掟だから。
普通の高校生として生きることになったのだ。それはそれで良かったように思う。
陽も私も、敵対心を抱いていた彼女らによって救われた。感謝しきれないほどの恩恵と一緒に。